下に俯いたら何度も面接に行っているせい
かヒ―ルが汚くなっていた。
 下なんて見てなかった。下なんて見る暇な
んてなかった。でも、こんな汚いヒールを履
いていたら、受かるはずもない。
 私はA会社を出た。
 雲はひとつもなく、私の気持ちなんて関係
なく外は晴れていた。
 真っ直ぐに家に帰りたくなかった。帰った
って、母親が無理に笑った表情や静かな家に
ある変な空気。見えない表情や空気は、私に
とっては辛い。
 近くにあるバス停に乗らないで、何処に行
くあてもないが誰もいなく、広いところに行
きたくて、ひたすら歩いて探していた。
 何時間経っただろうか。誰もいなくて、広
い草原が見えてきた。都会なのに草原がある
のは珍しいと思った。人工的に作られたのか
と思えたが、その場所は、近くには川があっ
て子供達が遊べるような公園もあった。ここ
は日本と疑うほどの広い草原であった。
「なに、ここ」
 私はひとり呟いた。
 私はこんな広い草原を見たことなかった。
 そんなことを思っていたら、遠いところか
ら声が聞こえた。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
「え? 誰!」
 私はその声を辿り、歩き始めた。草をかき
分けて、その声の主を探した。
 すると、声の主が現れた。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
「あの―何してるんですか?」
 声の主は、私を見て驚いていた。
「え? 誰?」
 こっちが誰だよ!
「あの―、なにか探しているんですか? 声
が聞こえたので……」
 声の主は目から涙を浮かべて私に言った。
「そう、ピヨちゃんがいなくなったんだ。俺
の大事なネコちゃんが」
 人間じゃなくてネコかいと言いたくなった。
「あ、そうでしたか。どこにいるんでしょう
ね?」
「あなたも探してくれる? 俺のために」
 私の手を掴み、声の主は輝いた目で私を見
たので断ることも出来なかった。
「……あ、はい」
 私は声の主に言った。声の主曰く、毛がフ
ワフワで目が丸くて、小さくてかわいい白い
ネコだそう。そんな大ざっぱの説明でわかる
はずがない。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
 探しているネコは、ピヨという名前らしい
ので私もピヨと呼び、探した。
「ピヨ、ピヨ、ピヨ」
 声の主は、ピヨどこへ行ったんだと叫んで
いた時だった。
 ニャ―という声が遠くから聞こえた。