女の子は寂しいのか男性に話しかけていた。
 男性は、女の子の身長に合わせるかのよう
に屈みこんで話をしていた。
 ねぇ、この人誰?と。
 男性は、れんかは知らなくてもいいのと答
えていた。
 女の子は、れんかという名前らしい。
 男性はれんかちゃんとの話を終えて私を見
てきた。
「……すいません。ちょっと昔を思い出して
いて」
「……そうですか。では……」
「はい」
 私は男性の言葉を打ち消すように返事をし
て、ドアを開けテーブルまで案内した。
 男性の言いたいことは、忙しい中、来てや
ったんだ、早く小説読ませろという事だろう。
 男性とれんかちゃんが座ったのを見計らっ
て、私は事前に用意していたペットボトルの
お茶をコップに注いだ。
 ゴボゴボとお茶を入れて、急いで男性とれ
んかちゃんの元へ運んだ。
「どうぞ」
 私はそう言い、二人分のお茶をテーブルに
置いた。
「ありがとうございます」
 男性は返事をして、ゴソゴソとカバンから
何かを取り出していた。
 れんかちゃんは男性の隣で、さっきは文句
を言っていたが黙々とお茶を啜っていた。
 私は男性に話しかけた。
「今日は、お忙しい中私のためにご足労頂き
ありがとうございます」
 両膝にカバンを置いて何かを探していたの
で、私を上から見上げるように男性は言った。
「いえいえ、こちらこそ。あの松岡さんから
誘われたのですから。もちろん断るわけない
ですよ」
 男性はそう言い、私から目を逸らした。私
は、男性が言った言葉が頭から離れなかった。
 その言葉が離れない中、私は笑顔で答えた。
 それより、本題に入らなくちゃいけない。
 そう思った時
「本題に入りますね。小松陽琉さんでいいで
すよね?」
 松岡さんから事前に聞いていたのだろう? 
 それを確認するように彼は聞いてきた。
「はい」
 私はさっき程もらった名刺をまた見返した。
 会社名で興奮して、男性の名前まで見る余
裕がなかった。
 見ると、田中宏輝と書かれていた。
「えーと、陽琉さん。松岡さんから聞いたと
思いますが。小説書いてきましたか? 途中
までいいので」
 田中さんは、テーブルにペンとたくさんの
資料が入っているファイルを出していた。
「これです」
 テーブルに置かれていた私が書いた小説を