一昨日、松岡さんは小説家になりたいとい
う私の夢を叶えてくれるお客様が来て下さる
という。
来て下さるが、途中でもいいから小説は書
いてくるようにと宿題を出された。
私にとって小説は、なくてはならない存在。
 趣味以上になっている。
いわば、自分の鏡だ。
だからといって、書くのがうまいとは限ら
ない。
小説を書くのが好きだが、私の小説でお金
になるのかと疑問に思う。
自分に疑いつつも書いてみたが、これでい
いのだろうか。
タイトルは、バス運転手。内容は、バス運
転手の物語。
内容を説明すると、新人のバス運転手が困
難と立ち向かいながらも市民のためにバスを
運転しようと奮闘する物語である。
なぜこの物語にしたかというと、父親がバ
スの運転手だからだ。
父親には私が小説を書くという旨を伝えて、
バス運転手の話をしてくれた。
その話を面白おかしく、たまに真面目とい
う感じで小説にした。枚数は、三枚。
 新人バス運転手の奮闘を途中まで描いた場
面だ。枚数は少ないと思うが中身も本物らし
い内容になっている。
 我ながら、出来はよいかと思われる。
 お客様が来るのを椅子に座り待っていた。
 座りながら原稿を片手に持ち、うんうんと
頷いていた。
 私以外に古本屋『松岡』にいなかった。
 松岡さんは、出かけるというのでいない。
 くるみさんは、後から来ると彼から言われ
ている。
 コバさんは、あれ以来姿を見せていない。
 松岡さんは、何も言ってこないから彼は顔
を見せていないみたいだ。
 古本屋『松岡』は、ピヨもいないせいか穏
やかに時間が流れていた。
 テーブルに頬杖をつけて、原稿をしばらく
見ていた。
ボーッと原稿を見つめていたら、外からダ
ーンと物音がした。何事だと私は椅子から立
ち上がり外に出た。
「あちゃ、やってしまった」
「大丈夫ですか?」
その人は、男性であった。
「はぁ、はい」
さっきの音は、路地に自電車を止めようと
したら、手を離してしまって自電車が横たわ
ってしまったようだ。
 怪我をしていない様子からそのように思わ
れる。
ダボダボなスーツ姿で暑いのか裾を肘下ま
でに捲り上げていた。
 眉間なシワや口に髭がモシャモシャとはえ
ていた。
 この人、もしかして出版社の方?
 いや、普通のお客様が間違って来たという
こともあり得る。
 私は身体を身構えた。
 やはり、その人は近くでみても出版社の方
には見えない。
 男性は、横たわっている自電車を元に戻し
て壊れていないかを確認していた。
「自電車、無事みたいなんで……大丈夫です」
風邪なのかガラガラな声で男性は発した。
「……無事でよかったです」
 私は自分のことのように安心して男性に言
いかけたら
「ねぇ、パパ。まだ?」
 うん? その男性の声の低さとは裏腹に、
声が高かった。
「ごめんな、ちょっと待ってな。今からパパ
仕事だから」