変態は、遠目でジッと私の方を見ていた。
「こいつは、小林祥生。俺たちは、コバって
呼んでる」
「……」
 コバさんは何も言わずに、まだ私の方をジ
ッと見ていた。
「な、なんですか?」
「お前、陽琉を襲うなよ! 首を嗅ぐ癖やめ
ろよな、はあ―、女性はそういうのやなんだ
ぞ!」
 そ、そうよ。松岡さんの言う通り。
「だってよ、無理だよ。そんなの。だって、
俺匂いフェチだし」
 やっと口を発したと思ったら、はあ―? 
匂いフェチ?
 いやいや、もう変態じゃないか!
「あの―コバさんと松岡さんは?」
 松岡さんは、いい忘れていたという顔をし
て、私に言ってきた。
「コバと俺は中学生からの仲で。この前も言
ったように、こいつがもう一人の従業員だか
ら」
 え? この人が古本屋『松岡』の従業員?
 いやいや、まさか。でもコバさんも夢ある
んだよね。でも、そんなふうに見えないのは
私だけ?
「こいつ、変なところあるけど。しっかりし
ているから。安心して、こいつに言ってね」
 松岡さんは笑顔で言ってから、コバさんを
残して奥の部屋に行った。コバさんは初めて
私に話しかけてきた。
「あんた、女子の友達いる?」
 はい? と身を屈めながら私は彼に言った。
「いますけど」
 私がそう言った瞬間、さっきのテンション
とは違い、声のトーンが高くなっていた。
「え、マジで―! じゃあ俺に紹介してよ」
 コバさんは満面な笑みをしていた。
「嫌です!」
 私は真顔で拒否した。
 眉を寄せて彼は、不満げな表情を浮かべて
いた。
「はあ? 何でだよ! 俺に、女子紹介する
くらいいいだろう?」
 この人は、分かっているのだろうか? 
 ただ単に、女性の匂いを嗅ぎたいだけとい
うことに。または、自覚してるけどやめられ
ないのか?
「あの言っておきますけど、もう狙い、分か
ってるんで」
 狙い? ああと呟いた途端、私に言った。
「俺、匂いフェチだけど。女性には親しくな
るまでやらない主義だから」
 嘘つけぃ―! 今、私にやったではないか。
「ああ、でも、陽琉さんだっけ。陽琉さんは
論外だから。覚えておいてね」
 コバさんは私にそう言い、靴を脱ぎ松岡さ
んの所へ行ってしまった。
 論外って。恋愛対象って意味か。