古本屋のアルバイトを始めて、一ヶ月が経
った。
 就活の方は、大学のキャリア支援課に相談
しに行き就職先を探している。
 何をやりたいかなど聞かれるが、よくよく
考えたら私なりの個性を活かせる仕事がいい
のかもしれない。
 小説を書くのも読むのも好きなので、その
経験を生かして、私なりの視点で活かせる仕
事がいいと思えたのだ。
 今度こそは、他人と比較せずに私なりの仕
事を見つけると私自身に言い聞かせている。
 この思いにさせてくれたのは、このアルバ
イトのおかげもあると思う。
 多数の本を見れて、個性溢れるお客様が来
る。お話を遠くから聞いて、自分の思ってい
たことと異なる話が聞ける。
 ここ以外にもアルバイトをしてきたが、普
通のアルバイトとは違って、いろんなものを
吸収できる。
 滅多にない経験だ。
 一ヶ月経って、そのことに実感した。
古本屋『松岡』のアルバイトを勧めてくれ
た松岡さんには、今となっては感謝している。
 私はアルバイトのやり方には慣れてきたが、
お客様はくるみさんのお客様ばかり。
 それより気がかりなのは、もう一人の従業
員。くるみさんと私とあと一人誰なのだろう。
 松岡さんにそれを聞くと、いずれ来るから
と言うだけ。
 いずれとは、一体いつのことやら。
 埃が被っていると思われる古本をパッパッ
と掃除をしていた。
 すると
「こんにちは」
 古本屋『松岡』のお客様では見たことが無
い人が来店してきた。
「……」
「いらっしゃいませー!」
 その人に声をかけた。
 黒のメガネをかけていて、赤白の長袖を着
ていた。赤白のズボンはヨボヨボで膝には大
きな穴が開いていた。
 その恰好は、個性と捉えるべきだろうか。
でも、私は絶対この人とは隣にいて街中を
一緒には歩きたくないと思えた。
 その人は、その場に立ち尽くして何もする
こともなくこちらを見ていた。
「あ、あのなんでしょう?」
 私は声をかけた瞬間、大股でこちらに向か
ってきた。
「ん」
 その人は、何も言わずに私の首に近づき、
匂いを嗅いでいた。
 ギャ―、なになに! 変態―!
 私はすぐさま変態に離れた。
「な、なんですか!」
 変態はニッと笑い、ズガズガと居間まで足
を運んだ。
「ちょ、ちょっと。あなた、何の用ですか? 
そっちに行かないで下さい」
 私がそう言った時だった。
「ひよっち」
 か細い声で誰かに話しかけていた。
 今日は私と松岡さんしかいないはずだ。
「ん、なんだ。騒がしいな」
 松岡さんは居間にいたので、ピヨを両手で
抱きしめつつ胡坐をした状態で戸を開けて出
てきた。
「ひよっち」
 変態はひよっちと、松岡さんに向けて発し
た。
「あ、お前帰ってきたのか! なんか細くな
ったな、元気だったか?」
 松岡さんの反応では、知り合いらしい。
 ひよっちとは、松岡さんだったとは。
「ひよっちこそ、元気だった?」
「元気、元気! 毎日ピヨといるからな」
 変態は松岡さんと親しいのか。だから、こ
こに来たのかと納得できる。
「あ、そういえば。陽琉、紹介してなかった
な」
 床の上で胡坐をかいていた松岡さんは立ち
上がり、私の方に来て言った。