見知らぬ人が何故そんなことを聞いてきた
のか見当もつかなかったので、適当に返事を
した。
「頑張って下さい」
 早下さんは私にそれだけ言い、中年集団の
会計を終えるのを待って、出ていった。
 昇哉は、最後尾にいた。その会計は私が行
った。くるみさんがすると思っていたけど、
昇哉と話をしたいから会計しておいてと私に
任せたのだ。くるみさんと昇哉はテーブルで
楽しそうに談話していた。
 話の内容は聞こえなかったが、二人の関係
性が気になった。
 大手事務所の関係者とモデルを目指してい
る女性。
 だけ、ではない気がした。
 それだけで、昇哉はくるみさんに頭を撫で
たり、髪を触ったりするだろうか。
 くるみさんは、昇哉に顔を近づけて笑いあ
っていた。
 何なんだろう、あの二人の関係性? 
 松岡さんの彼女ではないのか?
 二人のことをチラチラと見ながら、会計を
済ませ終えた。
「くるみさん、終わりましたけど」
「あ、終わった? 昇哉、終わったって。ま
あ、私がモデルになれるように頑張るから見
てなさいよ、昇哉」
「はいはい、分かってます。それ何度聞いた
か。でも、俺は待ちますけどね。じゃあ、行
くわ」
 昇哉はガタっと椅子から立ち上がり、私を
黒目だけちらりと見て、礼をして帰っていた。
 はあ―楽しかったとくるみさんは言い、靴
を脱ぎ奥の部屋に行ってカバンを取りに行っ
た。
「あなた、今日の仕事終わりよ。後は、お客
様は来ないと思うから上がってもいいわよ」
 彼女は私にそれだけ言い、私の返答を待っ
ていた。
 丁度お金を整理し終えたので、彼女に店の
事について疑問に思ったので聞いてみた。
「はい。いやでも、まだ一六時ですよ。閉店
する時間じゃないんじゃないんですか」
「まだ分からないの? ここはね、指定のお
客様が来たら、それで仕事終了なのよ。一般
の古本屋とは違うところがあり過ぎるけど、
ここでは当たり前なのよ!」
 腰に手を当て鼻で笑ってドヤ顔で彼女は私
に言ってきた。
 そんな顔しなくても。
 あなたの店じゃないんだからさ。
 昇哉が見たら、どんな反応するのだろうか。
 私には関係ないが、こんな可愛い顔を見た
ら、惚れるに決まっている。
 だが、今こんな顔したら可愛さが台無しな
のではないかと思えた。