顎を右手に当てて、女性は私をずっと見て
きた。
「……なんでしょうか?」
「あ―、私ここで働いている者でくるみって
言います。以後お見知りおきよ」
 え―、まさかの先輩! まじか。頼りにな
る人が来るって言ってたな。
「……よ、よろしくお願いします!」
「あ―はいはい。よろしく」
 そう言って向かったのは、居間であった。 
 ヒールを乱雑に脱ぎ捨てて、戸を開けたま
まカバンを置き、ネコ柄のエプロンを出した。
「え―と、あなた名前なんて言うの?」
 くるみさんは口にゴムを加えながら髪を結
んで靴を履き私を見上げた。私は彼女のエプ
ロン姿に見入ってしまった。その姿は、穢れ
のない彼女自身の容姿と綺麗な髪に同性の私
でも惚れてしまうほどであった。
「……小松陽琉です」
 私はそう言って礼をした。
 くるみさんは私をずっと見てきた。
 何かなと思っていた時、彼女が話しかけて
きた。
「あなた、陽和は私の恋人だから」
 それだけ私に言い、本を整理し始めた。え
―と、松岡さんの恋人!
 え―! なんで私にそんなこと言うの。別
に松岡さんの恋人とかどうでもいいですけど。
「はあ、分かりました」
 私は呆然と立ち尽くしている私に彼女は言
った。
「あなた」
「はい、なんでしょうか?」
「そこ掃除して。汚くなっているでしょう」
 そことは、床掃除を任された。
 確かに汚くなっていた。全然気づかなかっ
た。
「あなた」
「はい?」
「この店の仕組み、分かってる?」
「あ、それならさっき松岡さんに会計とか本
の整理とか客の対応をすれば大丈夫と言われ
ました」
「そういうことじゃないの」
 くるみさんがそう言った時、大きい胸が揺
れたのは女の私でも見逃さなかった。
「え―と、なんですか」
「あなた何も言われてないの。じゃあ、私が
説明しなきゃ分からないか。あなた夢ある?」
 諦めたように彼女はため息をつき私に聞い
てきた。
「……え―と、なんでそんなこと聞くんです
か?」
「はあ、本当に何も聞かされてないのね。私
が、あなたごときで心配することなかったか
も。この店は、夢を提供してくれる所なんだ
よ」
「夢を提供してくれる所?」
「そう。ここは、従業員の夢をお客様が提供
してくれるところなの。だから私達は、夢を