人差し指を口に当てて彼は私に言った。
「内緒!」
「はあ―」
 アイドルみたいなウィンクをして、松岡さ
んは私に言ってきた。
 私はため息というよりも、引いていた。
 ってか、初めてアルバイトの者をひとりに
していいのかよ。
「あ、もう少ししたら、陽琉の頼りになる人
が来るから、頑張ってね」
 そう言って、松岡さんは行ってしまった。  
 やはり誰か来るのね。良かった―安心した
と思ったが、ひとりになると不安になる。
 昨日、古本屋『松岡』のバイトをすること
に決まったが、夢を叶えるためなのか自分で
も分からない。
 でも就活をやり直して、自分が何をしたい
のか見つめ直したい。
 それだけははっきりしている。でも夢を叶
えるとしたら現実問題、小説家になっても金
銭問題がある。
 才能がなかったら、一生小説家になれない
可能性もある。
 二二歳、まだ時間はあると思うが、実際す
ぐに時間は流れる。だから、夢を諦めて前に
進む方が人生にとってはいいのかもしれない。
 だが、私が楽しくない職業に就いて、楽し
いのかと疑問に思う。
 二二歳って大人だと思っていたが、いつま
で経っても子供だ。
 古本の周りを歩き、本を見ながらどのくら
いの本があるのか見ていた。
「だから、あなたには関係ないでしょ!」 
 バンというドアが開いた音がしたので玄関
に行ってみると女性がいた。
 私は唖然とした。
「……」
 右手にスマホを持ち、誰かに電話で話して
いたようだ。
 ドアを足で蹴って来店してきた。
 なんと迫力のある人だ。来店してきた女性
を見た。しかも、かなりの美人。胸もFカッ
プはあるのではないかというくらい大きい。
 女性は、胸が見えそうなワンピースを着て
いて、綺麗な黒い長髪をしていた。
 左手に持っていたカバンが全開に開いてい
たので、私は優しい方なのかもと推測した。
 女性は立ち止まり、カツンカツンとヒール
の音がする中、私の方へ近づいてきた。
「あなた、ここで働いている人?」
「あ、はい。そうです」
「あ―、陽和が言っていた。アルバイトの人
ね。はいはい」
 女性は、私の全身を見つつ、自分の顎を右
手に当て私を見てきた。
「え? はい?」
「……ふーん。陽和もこんな人をアルバイト
にしたんだ。ふーん」