松岡さんに会って、二日経った。それから
彼から連絡があった。
 帰り際、メールアドレスと電話番号を彼に
聞かれて私は答えた。それで、連絡がきたが
その連絡は、たった一言。
 今日、十四時から来れるか? と書かれて
いたのだ。
 ……午後は授業も就活の面接も何もなかっ
たので、行くことにした。
 大丈夫です。了解です。とメールに打った。
「どうしたの。なんか嬉しいことあった?」
 夏帆はスマホを弄り終えて、私の方を向き
直して聞いてきた。大学の授業が始まる前、
狭い教室で私たちは授業の時間になるのを待
っていた。
「いや、なんで? そんなことないよ」
「いや、あったね! 顔が柔らかくなったも
ん」
 私は自分自身の顔を触り始めた。いや、そ
んなことはない。A会社は不合格になったし
そんないいことなかったけどな。
 でも、ひとついいことというか。まあ、楽
しいことはあった。
「ないよ」
「もしかして、就活終わった?」
 口にコ―ラ―を含ませてから、教室にあっ
た時計を見て夏帆は言ってきた。
「……いや、終わってはない。でも楽しいこ
とはあったかな?」
 そんなことを言いながらスマホをロック解
除にして、私が大好きな歌手のツイッターを
開いて見ていた。
「……なになに。珍しい、陽琉がそんなこと
言うなんて」
 夏帆はゴホゴホと咳き込んでいた。気管に
入り込んだのかコ―ラを飲むのをやめて、私
の方を見た。
「……なんでもないよ。でも、自分を見直す
ことが出来たよ」
 夏帆が、はあ? 何それと言った途端、先
生がきた。
 一三時五十分
 古本屋『松岡』に着いた。
「……来たけど。ここでアルバイトだよね。     
アルバイトは初めてじゃないけど、大丈夫だ
よね。自分を見直す為に」
 私は独り言を呟きドアノブを握りしめて、
見えない敵に勝負を挑むかのように古本屋『
松岡』に足を踏み入れた。
「……こんにちは」
 松岡さんは椅子に座り、眼鏡をして新聞を
読みながらお茶を飲んでいた。
 眼鏡をしている、松岡さん、初めて見た。 
 その姿は、色気があって、外国人のような
顔立ちをしているので見栄えがした。どこか
の広告にいそうな程イケメンだ。眼鏡をして
いる松岡さんも中々かっこいい。
「お、こんにちは。来たか」
「はい」
「よし、待ってよ。今、持ってくるから」
 新聞をたたんで、机に置いてから立ち上が
り、ネコ柄のエプロンを持ってきてくれた。
 やはり、ネコなの。嫌いじゃないけどねと
思いながら持ってきたエプロンを見ていた。
「ありがとうございます。私は何をすればい
いでしょうか?」
「あ―、そうだね。まあ古本の整理とか、会
計とか、客が来たら適当に対応して。あ、会
計はそこにお金があるから―後は任せた。俺
は、ちょっと行ってくるわ」
「え? 何処に」