女性っぽいけど、男性っぽい名前。
 ほんわかとしているけど、意外にしっかり
している。
 名前通りではないか、由来はよく分からな
いが、本当にそのままだ。
「……いや、そんなことないですよ。私なん
て、陽流ですよ。嫌ですよ」
「え? 別に良くない? 陽琉って陽に琉で
しょ。太陽が照らされている感じがしない?」
「え? そんな風に考えたことなかったです」
 適当に言いやがって。でもそんなこと言わ
れたのは初めてだ。
「……そうなのか。本当に俺はいいと思うよ。
その名前」
 松岡さんは私のことを分かっているかのよ
うに優しい目をして微笑んでいた。
 純粋に嬉しかった。自分の心を読み取って
しまいそうな松岡さんに親しみを感じてしま
いそうで、私は話を変えた。
「……ところで、アルバイト週何日程度行け
ばいいですか?」
 拍子抜けた声で、あ? うんと私に言った。
「……あ―毎日」
「毎日ですか? それは困ります」
「あ―大丈夫。午前か午後だけだから。それ
は陽流に任せるから大丈夫だよ」
 私は右手に胸をあて、ホッとした顔をした。
「良かったです。では、これからお願いしま
す」
 いやいやこちらこそと言い、照れた様子で
私に言った。
「……じゃあ、頑張ろうね!」
 松岡さんは、右手を差し出して私に握手を
求めてきた。
「はい」
 私は松岡さんと握手を交わした。
 松岡さんと話をしている間に夕陽が沈みか
けていた。
「……気をつけてね、じゃあ」
 松岡さんは手を振り、私を送ってくれた。
「はい、ありがとうございます」
 私は松岡さんに礼を言い、家に帰った。
 家には帰りたくなかったけど、そんな気持
ちは吹っ飛んでいた。