「おおー! すげぇ!」
 ひそめた声であったけれど、明らかに『!』がつくほど興奮した声で快は店内を見渡した。
 まだ一階を入ったところなのに、既にほかの本屋さんとはまったく違っていた。
 白い壁、白い床はスタイリッシュで近代的。
 平台には見やすいように工夫して並べられた本、棚にはきっちり厚い本が詰められている。
 実にオシャレな本屋さんだった。
 昔ながらの本屋さんも本の香りがたっぷりして良いものだけど、こういうものは新鮮だし、新しい魅力があると思う。
「すごいね! どこから見ようか」
 一階は雑誌がメインのフロアらしい。美久もきょろきょろ見渡してしまう。
「そうだな……、あ、あそこにフロア案内があるぞ! あれ見ようぜ」
 快が階段の横を指差した。確かに闇雲に歩くより効率がいいだろう。
「えーと、一階は雑誌、ここだな。二階はコミック……」
 快は指で辿るように、案内を読んでいく。
 美久は正面から見るのは快に任せて、ちょっと快自身に見入ってしまった。
 快の私服姿は初めて見た、と思う。
 とてもオシャレだった。コートを着ている上からでもわかるのだ。
 まだ一月、一年で一番寒い時期だ。あたたかくしてこなければいけない。
 快のコートはグレーのPコート。前でダブルボタンを留める形のタイトな作りで、身長の高さと体の細さが強調されるような素敵なものだった。
 下は黒のパンツ……インナーはわからない。首元にもマフラーが巻いてあるからちらりと見えることもない。
 でもきっと中もオシャレなのだろう。目にするのがちょっと楽しみになった。
 美久も先日留依と買った服を着てきた。
 デート用にと買ったのだ。
 少し前に彼氏ができていた留依もやはり「毎回同じ服っていうのもね」と、今度のデートのときの服が欲しいと言っていたし、オシャレなお店に行ってあれそれ見て選んだもの。
 美久の服のほとんどがそのとき買ったものであった。
 今まで……三ヵ月くらい前だろうか。その頃は服になんてほとんど興味がなかったし、興味があっても「自分には似合わない」と諦めていたのに。
 その自分が今や、彼氏ができてかわいい服でデートなんてしているのだ。夢のようだった。
 美久の今日の服は、赤チェックの短めのコート。スカートはこげ茶色の膝丈。
 留依は「ミニスカートがやっぱりかわいいけど……」と言ったけれど、やはり寒いのだ。冷えてしまっては困る。
 よって、今回は膝丈の大人しめのものにしておいた。しっかり厚手のタイツも穿いてきたし防寒対策は万全である。
 その格好は、待ち合わせで会うなり快は「かわいいな」と褒めてくれた。
 快ならきっと褒めてくれるだろうと思ってはいたけれど、実際に言われてしまえば嬉しくて胸が熱くなってしまったものだ。
 そこで美久からも、快の格好について「似合ってるね」と言ったのだった。はにかんでしまったけれど。今のものは単なる照れからである。
 そんな、私服でのデート。新鮮過ぎて、まだはじまったばかりなのにどきどきしてしまってとまらなかった。