そう遠い場所ではなかった。
 むしろ近い。駅前の広場から右側に行ったところに遊歩道がある。街中へ行くのとは逆方向だ。
 でも快はすぐに美久の目的と、『いいもの』の正体をわかってくれたようだ。
「おー! すごい、きれいだな」
 遊歩道の両脇には樹が植えられている。背の低い樹だ。
 背の高い樹もあって、これは桜なのだけど真冬の今では当然咲いていない。
 あと数ヵ月したら咲くだろう。春を伝える華やかな桜。
 でも今咲いているのは。
「椿、だよな」
 緑色の葉の中で、赤や白の花がぽつぽつと咲いている。
「うん。椿、好きなの」
「そうだったのか」
 それは単に花が好きだという話をしただけなのに、快はそれを広げてくれた。
「いいよな。冬らしいし……寒い中でも咲けるのが、強い花だなって思う」
 言われたことにはどきりとしたのだけど。
 強い花。
 確かにそうかもしれない。寒さに負けずに花開く椿。今の自分たちにどこか似ている、と思う。
 遊歩道の奥までくればひとけはない。平日の夕方だ、わざわざこんな奥までくるひとはいないだろう。

 ここなら。

 美久は立ち止まった。快も立ち止まる。美久が話をするつもりだったのは伝わっただろう。
「あの、ね」
 最初こそ言い淀んでしまった。けれどすぐにお腹の下に力を込める。
 今の自分なら言える。それだけ成長したこと、自分でもうたくさん感じられるようになった。
 それはもしかしたら、大切なひとに大切な気持ちを伝えるためなのだったのかもしれないと思ってしまう。