用具室に閉じ込められた騒動で、快との待ち合わせはご無沙汰になっていた。ちょうど曜日が合わなかったのもある。
でもクラスこそ違うが同じ二年なのだ、移動教室の際にクラスの前を通りかかったときなどに、たまに顔を合わせることがあった。
そのたびに快は「具合は悪くないか?」などと声をかけてくれた。美久も「大丈夫、ありがとう」と返事をするのだった。こうして気にかけてくれるのが嬉しかった。
だから、伝える。
自分から、だ。
そして動くのも自分からでいたい。
よって、ある昼休み、思い切ってD組へ行った。
見当たらなかったら「久保田くんは……」とD組の子に聞かねばならなかったのでちょっと緊張したのだけど。万一、なにか察されて噂にでもなったら。会いに行っただけでそんなこと、思われないだろうにここだけは考え過ぎてしまった。
でも快はあっさり捕まった。
「あ、あの……お邪魔、します」
こんこん、とD組のドアをノックして、そろっと開ける。
D組のひとたちがこちらを見てきて、どきんとしたけれど、すぐにほっとした。
快は幸運にもドア近くの席にいたのだから。男子たちと集まって話していたようだ。
「綾織さん! なんか用?」
「あ、久保田くん……うん」
美久が快を見止めて、なにか言いたげな様子だったのを察してくれたらしい。すぐこちらへ来てくれた。
「外で話す?」
美久と快の事件についてはD組のひとたちだって知っているのだ。こちらをちらちら見てくる視線を感じていた。
それを気遣ってくれたのか、快は言ってくれて美久はほっとしてしまった。
「う、うん。ありがとう」
それで廊下の隅のほうへ行った。D組はもともと二年生階の端っこなのだ。今日はそのあたりにいる生徒もいなかった。
「あ、あのね」
切り出した。勇気を出して。
「今日、時間あるかな……よ、良かったら一緒に帰らない?」
それだけで伝わったようだ。快は目を丸くした。
美久が例の告白に返事をするつもり、なのをわかってくれたのだろう。
そのためか、すぐ頷いてくれた。
「ああ。部活もないし、いいよ」
美久は良い返事をもらってほっとした。でもやはりここは廊下。長々と話すのはちょっとためらわれる。だから用件だけ言って去るのは失礼かもしれないと思ったけれど、でもこういうことだ。
「ありがとう。じゃあ、えっと……」
「そうだな……昇降口のところでどうだろう。寒いしな」
「あ、うん! じゃ、そうしようか」
快が提案してくれた。
普通は校門などかもしれないけれど、建物の中を提案してくれるところが優しいことだ。
美久も頷いて、それで用事はおしまいになった。
「じゃ、あの、帰りにね」
「ああ」
美久は『もうクラスに帰る』という意味のことを言ったのだけど、快はにこっと笑ってくれた。
「また帰りにな」
その笑顔にどきりとしてしまう。
ここで笑顔を浮かべられるのは、浮かべてくれるのが快の優しいところなのだと思わされて。
美久が『返事をする』というのを暗に伝えたのに、そしていい返事をするかもわからないのに、笑ってくれる。それは美久を安心させるために、だろう。
美久の心が、どきりと鳴ったあとにほわりとあたたかくなる。
快はとても強いひとだ。
だから自分も、快ほどにはなれなくても、強くなりたいと思う。
それで手を振ってA組に戻った。教室に入って、自分の席について、そろそろ午後の授業がはじまる頃だったので教科書やなんかを出しはじめた。
今さら、もっとどきどきしてくる。
今日の放課後、帰りに変わるのだ。
快との関係が、きっと。
でもクラスこそ違うが同じ二年なのだ、移動教室の際にクラスの前を通りかかったときなどに、たまに顔を合わせることがあった。
そのたびに快は「具合は悪くないか?」などと声をかけてくれた。美久も「大丈夫、ありがとう」と返事をするのだった。こうして気にかけてくれるのが嬉しかった。
だから、伝える。
自分から、だ。
そして動くのも自分からでいたい。
よって、ある昼休み、思い切ってD組へ行った。
見当たらなかったら「久保田くんは……」とD組の子に聞かねばならなかったのでちょっと緊張したのだけど。万一、なにか察されて噂にでもなったら。会いに行っただけでそんなこと、思われないだろうにここだけは考え過ぎてしまった。
でも快はあっさり捕まった。
「あ、あの……お邪魔、します」
こんこん、とD組のドアをノックして、そろっと開ける。
D組のひとたちがこちらを見てきて、どきんとしたけれど、すぐにほっとした。
快は幸運にもドア近くの席にいたのだから。男子たちと集まって話していたようだ。
「綾織さん! なんか用?」
「あ、久保田くん……うん」
美久が快を見止めて、なにか言いたげな様子だったのを察してくれたらしい。すぐこちらへ来てくれた。
「外で話す?」
美久と快の事件についてはD組のひとたちだって知っているのだ。こちらをちらちら見てくる視線を感じていた。
それを気遣ってくれたのか、快は言ってくれて美久はほっとしてしまった。
「う、うん。ありがとう」
それで廊下の隅のほうへ行った。D組はもともと二年生階の端っこなのだ。今日はそのあたりにいる生徒もいなかった。
「あ、あのね」
切り出した。勇気を出して。
「今日、時間あるかな……よ、良かったら一緒に帰らない?」
それだけで伝わったようだ。快は目を丸くした。
美久が例の告白に返事をするつもり、なのをわかってくれたのだろう。
そのためか、すぐ頷いてくれた。
「ああ。部活もないし、いいよ」
美久は良い返事をもらってほっとした。でもやはりここは廊下。長々と話すのはちょっとためらわれる。だから用件だけ言って去るのは失礼かもしれないと思ったけれど、でもこういうことだ。
「ありがとう。じゃあ、えっと……」
「そうだな……昇降口のところでどうだろう。寒いしな」
「あ、うん! じゃ、そうしようか」
快が提案してくれた。
普通は校門などかもしれないけれど、建物の中を提案してくれるところが優しいことだ。
美久も頷いて、それで用事はおしまいになった。
「じゃ、あの、帰りにね」
「ああ」
美久は『もうクラスに帰る』という意味のことを言ったのだけど、快はにこっと笑ってくれた。
「また帰りにな」
その笑顔にどきりとしてしまう。
ここで笑顔を浮かべられるのは、浮かべてくれるのが快の優しいところなのだと思わされて。
美久が『返事をする』というのを暗に伝えたのに、そしていい返事をするかもわからないのに、笑ってくれる。それは美久を安心させるために、だろう。
美久の心が、どきりと鳴ったあとにほわりとあたたかくなる。
快はとても強いひとだ。
だから自分も、快ほどにはなれなくても、強くなりたいと思う。
それで手を振ってA組に戻った。教室に入って、自分の席について、そろそろ午後の授業がはじまる頃だったので教科書やなんかを出しはじめた。
今さら、もっとどきどきしてくる。
今日の放課後、帰りに変わるのだ。
快との関係が、きっと。