「うん、デートしたよ」
 でも留依はジュースを飲みながら、さらっと言った。むしろ聞いているだけである美久のほうが照れてしまうようなことだ。
 クリスマスデートなんてロマンチックではないか。
 まだ付き合って半月ほどしか経たないので、デートも二回目だと言っていた。なのに随分慣れているようなことだと思う。
 そんなはずはないけれど。
 高校生になって初めての恋人なのだ。緊張して当然だろう。でもそう感じさせてこないのが、留依のスマートであり、そして友達に自慢げにもならない、良いところなのだった。
「どこに行ったの?」
「イルミネーションとか見た?」
 ほかの子たちのほうが積極的にあれこれ質問して、留依がそれに答えるような形で話は進んだ。
「で、キスとか……した?」
 ある子が、みんな一番気になっていただろうことを質問して、美久はそれにどきっとしてしまった。

 キス。
 当たり前のようにしたことがない。

 マンガやドラマの中で見るのだってどきどきしてしまうのに。それが現実になんて。
 そしてみんなが想像していたように、留依は言った。
「ん……まぁ、一応……」
 しかしここばかりは恥ずかしそうだった。言い淀んだし、頬も赤くして。
 実際に聞いた美久まで同じようになってしまったくらいだ。
 留依は随分先をいっている気がする。
 高校生ではまだ付き合っているひとだって多くないのに、その先だ。
 すごい、と思う。
 周りの子たちも同じように頬を赤くして「すごい!」と色めきだつ。
 そのままほかの子の恋バナの話へ移っていった。
 美久はその中で思ったものだ。

 自分もそんなふうになりたい。

 留依はさらっといつもすごいことを言う。
 でもそれはひけらかすような言い方でないし、実際、そういう気持ちはないのだろう。
 かわいくて、社交的で、おまけに前へ進むことを実行する勇気もあって、なのにそんなふうに話すのだ。
 でも。
 話を聞きながら美久は思った。
 少しは近付けているのではないか、と。
 留依のような素敵な女の子に。

 髪型を変えた。
 眼鏡からコンタクトにした。

 それは留依に引っ張ってもらってのことであったけれど、少なくとも、以前の自分とは大きく変わっただろう。
 見た目が、だけではない。

 前へ進む勇気。
 新しいことに挑戦する勇気。

 たくさんのことが、少しずつではあるけれど、身についてきたのだと思う。
 それを自分ではっきり感じられるようになったのは、冬休みも明けて新学期に入ってからのことだった。