メモ?

 唐突な話題に美久は疑問を覚えた。

 メモ……自分はどこかに忘れただろうか。思い当たらないけれど……。

 悩んでしまった美久に、快はバッグの中からファイルを取り出した。A5サイズくらいのミニクリアファイル。
 そこから出てきたもの。
 見た瞬間、美久は気付いた。
 これは。
「一巻に挟まってたんだ」
 かっと顔が熱くなる。図書室で借りた、ハードカバーの一巻のことだろう。
 まさか、読まれてしまったのだろうか。
 確かにこれはなくしたと思っていたものだ。
 でもただのメモ書きだから。なくてもまぁいいか、なんてなぁなぁにしてしまったものだ。
 美久の反応に、これが美久のものだとわかられてしまったらしい。快は気まずそうな顔をした。
「ごめんな……名前でも書いてないかと思ったものだから……」
 ピンクのストライプ柄が薄く入った、便箋くらいのやや大きめのメモ。文字がいっぱい書いてある。
「う、ううん、な、なくしたと思ってたん……だけど……」
 久しぶりにしどろもどろになってしまった。こんなものを見られたなんて。
「ずっと聞いてみるタイミングを逃してて……こんな遅くなっちまったんだけど……隠してたみたいで悪い」
 快は、すっとそれを差し出してくれた。
 美久は数秒ためらった。
 でもそれを受け取る。記憶にある通りのことが書かれているメモだった。
「勝手に見といて、もっと失礼かもしれないんだけど……これ、綾織さんが、書くものなのか……?」
 言われてさらに恥ずかしくなった。
 これは美久があまりひとに言っていないことであったので。文芸部の友達くらいしか知らないことだ。

 ……自分で考えた物語を書いてみること、なんて。

「えと……そんな、たいしたものじゃ……」
 もじもじしてしまった。顔が熱くてならない。
 でも快なら。
 ふと思考がよぎった。
 快なら「なんだよこれ」なんて笑ったりしないのではないか、と。
 思ってしまえばすぐに美久の中で確信に変わった。
 快はそんな酷いひとではない。そんなこと、もう知っているではないか。
 とても優しいひとなのだから。
 数秒、その場に沈黙が落ちた。
 美久が迷っていたからだ。決意するのに、だ。でも思いきった。
 
 言ってみよう。

 あまりひとに話していないことだけど、もう友達、なのだ。どういう意味で親しく思っているかはわからないけれど、友達なのだ。
「あのね……文芸部で、冬にコンテストがあって……あ、ち、ちっちゃいやつで、たいしたものじゃないんだけど」
 そこからはじまったこと。それはひそかに取り組んできていたことの話だった。