「おはよー」
「おはよー」
 明るい挨拶が飛び交う教室の朝。
 いつも通り早めに登校して自分の机で支度をしていた美久だったけれど、そこへ留依が登校してきた。
「おはよう美久!」
 留依は朝から元気だ。明るい挨拶をしてくれた。美久もにこっと笑って「留依ちゃんおはよう」と返す。
 そこで気付いた。留依の雰囲気が少し変わったように見えたのだ。
「留依ちゃん、なにか変えた……?」
 思わず聞いてしまった。でも美久には具体的になにか、などとはわからない。
 制服だっていつも通り。スカート丈は、転校してきてだいぶ経つから学校で許される雰囲気もわかったということらしく、少し短めになっていたけれど、それは前からだ。
 髪だって特に結んでいたりとかもない。
 バッグも変わっていなければ、キーホルダーなども変わっていない……。
 どうして『なにか変えた』と思ってしまったのか自分でよくわからなかった美久だったけれど、それは間違ってはいなかったようなのだ。
 留依はぱっと顔を明るくした。
「うん! 実はヘアサロンに行ってきたんだ!」
 美久はその様子を見てほっとした。留依が『気付いてもらえた』ということに嬉しくなってくれたようだったから。まぁ美久は具体的に『どこが』とはわかっていなかったわけだが、それはともかく。
「そうなんだ。髪を切ったの?」
「ううん、染め直しただけだよ、プリンになってきてたからね」
 だが留依の言ったことの意味はわからなかった。
 プリン?
 何故お菓子と髪が関係あるというのか。
 不思議そうな顔をした美久を見たのだろう、留依は「ああ」と説明してくれた。
「プリンっていうのはね、染めた髪のてっぺんだけが、髪が伸びてきて黒になっちゃうこと。カラメルのかかったプリンみたいでしょ」
「そうなんだ」
 どうやら通称のようなものらしい。美久は納得した。
 同時にちょっと反省したけれど。
 女子高生なら知っていて、というか、使って当たり前のような単語のようだ。そんなことも自分は知らなかったとは。
 それに気付いたのか、留依は「そうだ!」と唐突に高い声をあげた。
「美久も結構髪、伸びてきたじゃん。サロンとか行くのはどう?」
「えっ……」
 留依の唐突な提案。美久は目を丸くしてしまう。
 サロンなんて行ったことがない。大人の女のひとが行くものだと思っていたのだ。
 では今までどうしていたかというと、お母さんの知り合いの、近所の美容院というところで切ってもらっていたのである。
 そこだって別にちゃんとしたお店ではある。
 けれど、女子高生に好かれるようなお店かと言われたらNoであろう。そういうオシャレなところではない。