「はー、汗かいたぁ」
「いい試合だったねー」
 試合はぎりぎりで美久や留依の所属するグループの勝利になった。相手チームにもバスケ部の子が複数いて、どちらが勝つかはわからなかったので、嬉しく思う。
 ちょっと休憩していいと言われたので、みんな散っていった。そして飲み物を買うなりして、戻ってきて、観覧するあたりへ自然に集まってきたというわけ。
 汗を拭って、お茶やスポーツドリンクを飲む時間はまったりしていた。
 美久も、活躍なんてとんでもなかったけれど、しっかり動いてはいたのでそれなりに汗はかいていた。
 タオルで首などを拭いて、スポーツドリンクを飲む。疲れた体に染み込んだ。
「美久!」
 そこへ留依がやってきた。ほかの子たちとしゃべっていたところからこちらへ来てくれたらしい。嬉しさが美久の心に溢れた。
「美久はバスケ、苦手?」
 留依もスポーツドリンクのペットボトルを手にしていた。ごくごくと豪快にあおる。
 聞かれて、どきっとした。
 やる気がないと思われた、というか、そう取られるようなことをしていたのを見られてしまったのだろう。
「う、うん、あんまり、得意じゃないの」
 言い訳をしてしまった。そして直後、そんな自分に自己嫌悪してしまう。頑張らなかった言い訳なんて、ずるいだろう。
「そうなんだ。苦手な種目もあるよねぇ」
 でも留依は別に疑いもしなかったらしい。フォローするようなことまで言ってくれた。
 そんな話をしているうちに、目の前のコートではC組とD組の男子の混合グループの試合がはじまっていた。
 女子たちもそちらを見るのに夢中になっていった。
 あまり交流のないクラスとはいえ、それは美久にとってだけだ。
 あの中に知り合いがいる女子は少なくないだろうし、もしくは、好きな男子などがいる子だっているだろう。そういう子にとっては見ていて楽しいに決まっている。
 試合は片方のチームが優勢だった。バスケ部のひとが多いのかもしれない。
 キュッキュッと靴の擦れる音がひんぱんに立つ。ボールがドリブルされるにぶい音も。そのくらいプレイが激しいのだ。
「やっぱ男子は真剣だねぇ」
「やっぱ球技好きなんだろうねぇ」
 そんな話をしながら見ていく。
 その中でも、ひときわプレイが目立つひとがいた。背の高くてふわふわとした茶色の髪をしたひとだ。
 あれ、なんかどこかで見たような……。
 美久は既視感のようなものを覚えてしまった。
 自分に男子の知り合いがいるはずないのに。おまけにC組かD組、交流のないクラスになんて。
 彼は素早くコートを駆け回って、ボールを捕まえてはドリブルでゴール下まで運んで、自分でシュートを狙ったりほかの子にパスしたりと積極的にプレイしていた。
 でもちょっと急いでいるような様子だった。何故かはわからないけれど。
 おまけにほかの周りの男子たちも、彼に優先してボールを回しているようだった。