「……はい」
でも浅葱は笑みを浮かべた。蘇芳先輩は嘘を言ったりしない。それに無理もしない。
今、蘇芳先輩が無理をして倒れてしまっては部活が困ってしまうだろう。
提出のチェックも必要だし、顧問の水野先生や副部長の森屋先輩がいるとしても、蘇芳先輩がいなければ大きな痛手になるはずだ。
だから蘇芳先輩は絶対無理をしたりなんかしない。
そのうえでしっかり作品も仕上げてくる。
そういうひとだ。
信頼から浅葱は笑みを浮かべて「頑張ってくださいね」と言った。
まるで浅葱のその気持ちを読み取ってくれたように、蘇芳先輩もにこっと笑って「ああ。ありがとう」と言ってくれた。
「それに、いいものがあるからさ」
そのあと、ちょっと悪戯っぽく言ったので浅葱は不思議に思った。
ついでにその言い方はなんだか子供っぽさもあって、ちょっとかわいらしく見えてしまって微笑ましくなってしまったのだけど。
蘇芳先輩が傍らにあった通学バッグを探って取り出したもの。
それはダークレッドのパッケージのお菓子だった。
浅葱はそれを見て、あっ、と言うところだった。
だって、それは。
「初めて食べたんだけど、うまかったぜ。それにちゃんと効果もありそうだ。すっきりした」
それはチョコレートだった。
ただのお菓子だけれど、一応謳い文句がある。
『疲労とストレスを軽減する』
そういう広告やテレビCMをやっている商品なのだ。
浅葱は少し前にそれを食べたことがあった。勿論そういう謳い文句があってもお菓子なのだ。即座に疲労がなくなるなんてことはない。
けれど、なんとなくすっきりするような気持ちは感じられた。今、蘇芳先輩が言ってくれたように。
「ありがとな」
浅葱の目を見つめて、蘇芳先輩は微笑んだ。ふっと目元を緩めて。とても優しい笑みだった。
「……いえ。良かった、です」
そんな優しい目で見られたらくすぐったくなってしまう。浅葱はちょっともじもじしてしまった。照れくさい。
だって嬉しいではないか。
……自分の贈ったもので、そういうふうに言ってもらえたなら。
そう、それは浅葱が蘇芳先輩に差し入れたもの。
土曜日の購買。休憩のミルクティーを買ったときにふと思いついたものだ。
直接手伝いなんかできない。
けれどなにもできないわけじゃない。
浅葱が思いついたのは『差し入れをする』だった。
よくあるではないか、飲み物やちょっとしたお菓子など。
運動部などだともっと多いかもしれない。
そういうものは単に、もらったお菓子が嬉しいだけではない。
贈ってくれた、差し入れてくれたひとの心遣いが嬉しいものなのだ。
そういうものになれたらいい、と思った。
よって浅葱はそのチョコレートを選んで、それからちょっと考えた。
これだけぽんと置くのもそっけない。
すぐに、ああ、あれにしよう。と思いついた。
取り出したのは例の手帳だ。
うしろのほうには切り取って小さいメモにできるページがついている。
それを丁寧に切り取ってメッセージを書いた。
『お疲れ様です』
たったそれだけだったけれど、自分の想いがすべて詰まっていると感じられたのでそれだけでいいと思った。
お花の模様の入っているメモだけど、文字だけだとちょっと素っ気ないかなと思ったので、ウサギのイラストを小さく添えた。
それを、やっぱり手帳のおまけについているミニシールで貼り付けて、そっと蘇芳先輩の通学バッグの横に置かせてもらったというわけだ。
しかし浅葱はそこで疑問に思った。
自分はあれに名前など書いていない。
それなのにどうして自分からだとわかってくれたのだろうか。
「えっと、私、名前でも書きましたっけ」
疑問のままに聞いてしまったが、蘇芳先輩は楽しくてたまらない、という顔でしれっと言った。
「名前なんか書いてなくたってわかるに決まってるだろ。字が六谷のだったし」
あ、そっか。同じ部活なんだから字くらい、見ればなんとなくわかるのかもしれない。
思った浅葱だったが直後、心臓が喉の奥まで跳ね上がったかと思った。
「それに、こういうものを今、くれるのは六谷しかいないと思ったから」
でも浅葱は笑みを浮かべた。蘇芳先輩は嘘を言ったりしない。それに無理もしない。
今、蘇芳先輩が無理をして倒れてしまっては部活が困ってしまうだろう。
提出のチェックも必要だし、顧問の水野先生や副部長の森屋先輩がいるとしても、蘇芳先輩がいなければ大きな痛手になるはずだ。
だから蘇芳先輩は絶対無理をしたりなんかしない。
そのうえでしっかり作品も仕上げてくる。
そういうひとだ。
信頼から浅葱は笑みを浮かべて「頑張ってくださいね」と言った。
まるで浅葱のその気持ちを読み取ってくれたように、蘇芳先輩もにこっと笑って「ああ。ありがとう」と言ってくれた。
「それに、いいものがあるからさ」
そのあと、ちょっと悪戯っぽく言ったので浅葱は不思議に思った。
ついでにその言い方はなんだか子供っぽさもあって、ちょっとかわいらしく見えてしまって微笑ましくなってしまったのだけど。
蘇芳先輩が傍らにあった通学バッグを探って取り出したもの。
それはダークレッドのパッケージのお菓子だった。
浅葱はそれを見て、あっ、と言うところだった。
だって、それは。
「初めて食べたんだけど、うまかったぜ。それにちゃんと効果もありそうだ。すっきりした」
それはチョコレートだった。
ただのお菓子だけれど、一応謳い文句がある。
『疲労とストレスを軽減する』
そういう広告やテレビCMをやっている商品なのだ。
浅葱は少し前にそれを食べたことがあった。勿論そういう謳い文句があってもお菓子なのだ。即座に疲労がなくなるなんてことはない。
けれど、なんとなくすっきりするような気持ちは感じられた。今、蘇芳先輩が言ってくれたように。
「ありがとな」
浅葱の目を見つめて、蘇芳先輩は微笑んだ。ふっと目元を緩めて。とても優しい笑みだった。
「……いえ。良かった、です」
そんな優しい目で見られたらくすぐったくなってしまう。浅葱はちょっともじもじしてしまった。照れくさい。
だって嬉しいではないか。
……自分の贈ったもので、そういうふうに言ってもらえたなら。
そう、それは浅葱が蘇芳先輩に差し入れたもの。
土曜日の購買。休憩のミルクティーを買ったときにふと思いついたものだ。
直接手伝いなんかできない。
けれどなにもできないわけじゃない。
浅葱が思いついたのは『差し入れをする』だった。
よくあるではないか、飲み物やちょっとしたお菓子など。
運動部などだともっと多いかもしれない。
そういうものは単に、もらったお菓子が嬉しいだけではない。
贈ってくれた、差し入れてくれたひとの心遣いが嬉しいものなのだ。
そういうものになれたらいい、と思った。
よって浅葱はそのチョコレートを選んで、それからちょっと考えた。
これだけぽんと置くのもそっけない。
すぐに、ああ、あれにしよう。と思いついた。
取り出したのは例の手帳だ。
うしろのほうには切り取って小さいメモにできるページがついている。
それを丁寧に切り取ってメッセージを書いた。
『お疲れ様です』
たったそれだけだったけれど、自分の想いがすべて詰まっていると感じられたのでそれだけでいいと思った。
お花の模様の入っているメモだけど、文字だけだとちょっと素っ気ないかなと思ったので、ウサギのイラストを小さく添えた。
それを、やっぱり手帳のおまけについているミニシールで貼り付けて、そっと蘇芳先輩の通学バッグの横に置かせてもらったというわけだ。
しかし浅葱はそこで疑問に思った。
自分はあれに名前など書いていない。
それなのにどうして自分からだとわかってくれたのだろうか。
「えっと、私、名前でも書きましたっけ」
疑問のままに聞いてしまったが、蘇芳先輩は楽しくてたまらない、という顔でしれっと言った。
「名前なんか書いてなくたってわかるに決まってるだろ。字が六谷のだったし」
あ、そっか。同じ部活なんだから字くらい、見ればなんとなくわかるのかもしれない。
思った浅葱だったが直後、心臓が喉の奥まで跳ね上がったかと思った。
「それに、こういうものを今、くれるのは六谷しかいないと思ったから」