それで綾のお母さんによって着物を着せつけられていった。まだ秋も早いほうなので『一重(ひとえ)の着物』というものだそうだ。
薄めの普段着なのよ、と教えてもらう。冬になればもっと重ねて着るようになるのだと。
浅葱も着物を着たことは何度かあった。七五三とか。それに夏の浴衣はもっと身近だし。
毎年、お祭や花火大会のときに着ていくのだ。中学生になってからは自分で着られるように頑張るようになっていた。まだ全部自分ではできないけれど、お母さんに直してもらうことも年々少なくなってきていた。
そういう和服。着る機会はあまりないのでそれが着られるというだけでも心がわくわくした。
襦袢(じゅばん)という下着を着せられて、軽くウエストを留められて。その上から着物だ。
綾のお母さんは自分でも着るのだし、綾にも着せてあげるのだろう。ぱっぱっと気持ちのいいほどの鮮やかな手つきだった。
綾は今は自分で着るのかもしれないが、子供の頃はお母さんに着せてもらっていたはずだから慣れているに決まっている。
「浅葱ちゃん、細いねぇ」
着物を仮に留めるための紐でウエストを結びながら綾のお母さんは言った。浅葱はちょっと恥ずかしくなってしまう。
痩せているのは勿論女子高生としては嬉しい。ダイエットはしていないけれど食べすぎないようには気を付けているし、体型には気を使っている。
けれどお母さんくらいの年齢のひとには、不健康と思われてしまうのではないだろうか? それが気になって。
「綾はバレーをやってるから結構がっしりしてるでしょう」
綾のお母さんはくすくす笑う。浅葱もつられてちょっと笑った。
確かに綾は筋肉が結構ついていてしっかりした体型だ。それはバレー部で活躍しているのだから当たり前。
「だからこういうのはなんか新鮮ね」
綾のお母さんは話しながらも手はとめない。「きつくない?」と時々、浅葱に確認してくれながら最後に帯を結んでくれた。
華やかな着物ではないので特に豪華な帯ではない。細い帯を巻いて基本的な結び方をするだけのようだ。それは上にエプロンをするからという理由もあるだろう。
「これで仕上げね」
着物を着せ終えた綾のお母さんが、エプロンを手に取って浅葱に「はい、手を通して」と言ってくる。そのエプロンも着て、うしろで結んでもらった。
「さ、できたわ」
ぽん、と肩を叩かれる。いつもの服よりずっと質量があるのだ。ちょっと重かった。
けれど動くのに困るほどじゃない。真冬のコートよりはずっと軽いし。
ちょっと袖を持ち上げてみる。ひらっと暗い赤色の袖が動いた。
すごい、かわいい。
その気持ちは、覗き込んだ姿見、大きな鏡で見たときにもっと大きく膨れた。
暗い赤色の着物は大人しくもかわいらしい印象。
そこへ白い、控えめなフリルの付いたエプロン。
やはり明治時代のお給仕のメイドさんのようだった。
薄めの普段着なのよ、と教えてもらう。冬になればもっと重ねて着るようになるのだと。
浅葱も着物を着たことは何度かあった。七五三とか。それに夏の浴衣はもっと身近だし。
毎年、お祭や花火大会のときに着ていくのだ。中学生になってからは自分で着られるように頑張るようになっていた。まだ全部自分ではできないけれど、お母さんに直してもらうことも年々少なくなってきていた。
そういう和服。着る機会はあまりないのでそれが着られるというだけでも心がわくわくした。
襦袢(じゅばん)という下着を着せられて、軽くウエストを留められて。その上から着物だ。
綾のお母さんは自分でも着るのだし、綾にも着せてあげるのだろう。ぱっぱっと気持ちのいいほどの鮮やかな手つきだった。
綾は今は自分で着るのかもしれないが、子供の頃はお母さんに着せてもらっていたはずだから慣れているに決まっている。
「浅葱ちゃん、細いねぇ」
着物を仮に留めるための紐でウエストを結びながら綾のお母さんは言った。浅葱はちょっと恥ずかしくなってしまう。
痩せているのは勿論女子高生としては嬉しい。ダイエットはしていないけれど食べすぎないようには気を付けているし、体型には気を使っている。
けれどお母さんくらいの年齢のひとには、不健康と思われてしまうのではないだろうか? それが気になって。
「綾はバレーをやってるから結構がっしりしてるでしょう」
綾のお母さんはくすくす笑う。浅葱もつられてちょっと笑った。
確かに綾は筋肉が結構ついていてしっかりした体型だ。それはバレー部で活躍しているのだから当たり前。
「だからこういうのはなんか新鮮ね」
綾のお母さんは話しながらも手はとめない。「きつくない?」と時々、浅葱に確認してくれながら最後に帯を結んでくれた。
華やかな着物ではないので特に豪華な帯ではない。細い帯を巻いて基本的な結び方をするだけのようだ。それは上にエプロンをするからという理由もあるだろう。
「これで仕上げね」
着物を着せ終えた綾のお母さんが、エプロンを手に取って浅葱に「はい、手を通して」と言ってくる。そのエプロンも着て、うしろで結んでもらった。
「さ、できたわ」
ぽん、と肩を叩かれる。いつもの服よりずっと質量があるのだ。ちょっと重かった。
けれど動くのに困るほどじゃない。真冬のコートよりはずっと軽いし。
ちょっと袖を持ち上げてみる。ひらっと暗い赤色の袖が動いた。
すごい、かわいい。
その気持ちは、覗き込んだ姿見、大きな鏡で見たときにもっと大きく膨れた。
暗い赤色の着物は大人しくもかわいらしい印象。
そこへ白い、控えめなフリルの付いたエプロン。
やはり明治時代のお給仕のメイドさんのようだった。