今日、浅葱がしていた作業は色分け。
カラーパレットを見て、ここにはこういう色。ここはもう少し薄い色。そういう割り振りを大まかに決めていく。
地道だが楽しい作業だ。浅葱はどの工程だって好きだけど。
少しずつ頭の中にあるものが形になるのにわくわくしてしまうのだ。
だからこそ絵を描いているのだといえる。
「……あれ、六谷(ろくや)。まだ残ってたのか?」
から、と、ふいにドアが音を立てた。おまけに浅葱の名字も呼ばれる。
浅葱はどきりとしてそちらを見る。
先生か誰かだろうか。
もしくは先輩だろうか。
所属している美術部の。
『まだ』と言われたということはもう遅い時間になっているのかもしれない。夢中になっていて気がつかなかったけれど。
怒られちゃうかな。
そう思った浅葱だったけれど今度、違う意味でどきっとした。
そこにいたのはイルカ……を思わせるようなすらっと背の高いひとだった。
茶色の髪を綺麗に整えて、前髪は流して。
いつも優しい目をしているその男子生徒は先輩だ。
美術部、部長。蘇芳先輩。フルネームは蘇芳 壱樹(すおう いつき) 先輩。
「す、すみません。夢中になっちゃったみたいで……」
浅葱はあわあわと謝った。誰かがいるかと思って蘇芳先輩はきてくれたのかもしれなかった。
部長なのだ。部員が残っていては蘇芳先輩の責任になる。
なので慌てて言ったのだけど、蘇芳先輩はふっと微笑んだ。
「いいや。確かにもうすぐ下校時間だけどもうちょっとあるよ。今から片付ければ間に合うさ」
「……ありがとうございます」
優しい言葉をくれた。それにくすぐったくなってしまう。
優しい言葉と、残っていた自分を気遣って見に来てくれたことだけではない。
今は美術室、実はほかに誰もいないのだ。
今日、部員たちはなんだかみんな早々帰ってしまった。
偶然だ。「習い事があるから」とか「寄りたいところがあるから」とか普通の用事。
けれど普段一人きりになることはあまりない。
特に活動がない日でもなにかしら部室で過ごす生徒は多い。
美術部としての決まった活動、例えばみんなで集まってデッサンをするとかクロッキーをするとか、そういう日は当たり前のように基本、全員参加。しっかり集まる。
もしくは今の浅葱のように描きたいものがあるとき。そういうときだって部室で活動するのだ。
そういう部員が今日に限って誰もいなかった。
しかしそれがラッキーだった、と浅葱は思った。
一人で集中して作業できるのは良かったけれど、少し寂しいなとは思っていたのだ。
そこへこのできごとである。
一人で残っていて良かった、とも思った。
カラーパレットを見て、ここにはこういう色。ここはもう少し薄い色。そういう割り振りを大まかに決めていく。
地道だが楽しい作業だ。浅葱はどの工程だって好きだけど。
少しずつ頭の中にあるものが形になるのにわくわくしてしまうのだ。
だからこそ絵を描いているのだといえる。
「……あれ、六谷(ろくや)。まだ残ってたのか?」
から、と、ふいにドアが音を立てた。おまけに浅葱の名字も呼ばれる。
浅葱はどきりとしてそちらを見る。
先生か誰かだろうか。
もしくは先輩だろうか。
所属している美術部の。
『まだ』と言われたということはもう遅い時間になっているのかもしれない。夢中になっていて気がつかなかったけれど。
怒られちゃうかな。
そう思った浅葱だったけれど今度、違う意味でどきっとした。
そこにいたのはイルカ……を思わせるようなすらっと背の高いひとだった。
茶色の髪を綺麗に整えて、前髪は流して。
いつも優しい目をしているその男子生徒は先輩だ。
美術部、部長。蘇芳先輩。フルネームは蘇芳 壱樹(すおう いつき) 先輩。
「す、すみません。夢中になっちゃったみたいで……」
浅葱はあわあわと謝った。誰かがいるかと思って蘇芳先輩はきてくれたのかもしれなかった。
部長なのだ。部員が残っていては蘇芳先輩の責任になる。
なので慌てて言ったのだけど、蘇芳先輩はふっと微笑んだ。
「いいや。確かにもうすぐ下校時間だけどもうちょっとあるよ。今から片付ければ間に合うさ」
「……ありがとうございます」
優しい言葉をくれた。それにくすぐったくなってしまう。
優しい言葉と、残っていた自分を気遣って見に来てくれたことだけではない。
今は美術室、実はほかに誰もいないのだ。
今日、部員たちはなんだかみんな早々帰ってしまった。
偶然だ。「習い事があるから」とか「寄りたいところがあるから」とか普通の用事。
けれど普段一人きりになることはあまりない。
特に活動がない日でもなにかしら部室で過ごす生徒は多い。
美術部としての決まった活動、例えばみんなで集まってデッサンをするとかクロッキーをするとか、そういう日は当たり前のように基本、全員参加。しっかり集まる。
もしくは今の浅葱のように描きたいものがあるとき。そういうときだって部室で活動するのだ。
そういう部員が今日に限って誰もいなかった。
しかしそれがラッキーだった、と浅葱は思った。
一人で集中して作業できるのは良かったけれど、少し寂しいなとは思っていたのだ。
そこへこのできごとである。
一人で残っていて良かった、とも思った。