グラデーション。それは思いつかなかった、と浅葱は思う。
 けれど頭の中でイメージしてみたら、それはより的確な気がした。
 ひとつの色でべったり塗ることはない。色を完全に変えてしまうこともない。微妙な色合いで繋げていったら自然に見えるし、より綺麗だろう。
「それ、きっと素敵です!」
 浅葱の言葉は輝いてしまった。やはり相談してよかった、と思える。
「それなら良かった。でも俺の言うことを全部実行しなくてもいいんだからな。あくまで六谷の表現したいことを重視したらいい。それが六谷らしい絵になるんだから」
 アドバイスをくれたのに、それを守れとは言わないのだ。
 守ってやってみろ、と言われるのも嬉しいと思う。アドバイスなのだ。教えてもらったからには実行して、より良くしてみるのは大切だと思う。
 けれどこれは練習作ではなく『作品』だ。それはやはり『自分の絵らしくあること』が重要なのであって。だから蘇芳先輩の言ってくれたことは優しいことであり、浅葱の自主性も尊重してくれるような言葉であった。そういう言葉をかけられることが、見守る立場である部長らしいことなのだ。
 ああ、やっぱりこういうところを尊敬している。浅葱は噛みしめてしまった。じんわり胸が熱くなる。
「はい! やってみて……それで調整してみます」
「それがいいよ」
 浅葱の声がやる気に溢れていたからか、蘇芳先輩はにこっと笑った。
「またわからないところや迷ったところがあったら相談してくれよ。的確かはわからないけれど俺に思いつけることがあったら伝えるから」
「はい! ありがとうございます!」
 そんなアドバイスと優しい言葉をくれて、蘇芳先輩は次の子のところへ行ってしまった。
 はぁ、と浅葱は心の中でため息をついた。嬉しいため息だった。
 話せたこともそうだが、先輩が本気で浅葱の絵を良いものにしたい、してほしい。そう思ってくれることが伝わってきたから。
 頑張らないと。
 浅葱は胸の中で気合を入れ直した。
 絶対に、いい絵にするのだ。
 上手に描くだけではない。私らしくて、満足できるような出来の絵に。
 そう決意していたところへひょいっとやってきたひとがあった。
 それは美術部仲間の萌江だった。
「良かったね。お話できてさ」