秋季賞の結果も出た。
 その間にも春季賞の作品作りも進んでいる。
 季節は確実に前へ、前へと進んでいた。
 春が近づいてくる。
 壱樹先輩と別れ、ではないが同じ場所で毎日過ごせなくなるときが。
 二月が近づいてくるのは憂鬱だった。
 覚悟はしていて、四月に自分が二年生になるというのは『前に進める』『成長できる』ということなので嬉しくもある。
 それでも過ごす場所が離れるというのはやはり。
 そしてもうひとつ気になっていたこと。
 ……先輩の『尊敬するひと』のこと。
 壱樹先輩の受ける大学にいるのではないか、と思ってしまったことで余計に気になるようになってしまったのだ。
 それはそうだろう、壱樹先輩にとって彼女ではなくてもいい感情を抱いている相手。絵もうまく、壱樹先輩の先輩だった頃は賞を総ナメにしていたという。絵画を頑張る同志としてだって尊敬しているに決まっている。今の浅葱が先輩に憧れているのと同じ。
 だから心配だった。
 そんなことははっきり壱樹先輩には言えなかったけれど。
 それでも先輩の受験を応援しないはずはないし、志望校に絶対に受かってほしかった。
 一月の半ばに『クリスマス本番』としてのデートをしてもらって、電車で出かけて約束通りおいしいケーキを食べさせてもらった。
 おまけに連れて行ってもらったのはテーマパークで、たっぷり遊ぶことができた。
 だから恋人関係に不満などあるはずがないどころか十分以上に大切にしてもらっていると感じていた。
 それ以来、デートは受験に受かるまでお預けということになっていたけれど、やっぱりこれだって不満であるものか。勉強に集中してほしかったから。自分のせいで壱樹先輩の受験がうまくいかなくなるなど絶対に嫌だ。
 だから。
 「浅葱! 無事に終わったぞ!」と受験会場から満面の笑みで出てきた壱樹先輩と出会ったとき。
 会うのだって十日以上ぶりのことだった。