由宇は軽く息を吸って、淡々と語り始めた。

「……わたしたちの母親は、わたしを産んですぐにわたしの父の前からいなくなり、青葉を産んでまたすぐに、青葉のお父さんの前から姿を消したらしいの。小さい頃は、母が何をしたいのかわからなかった。だけど、十三歳のとき……言い方を変えると、わたしが初潮を迎えたとき、やっと腑に落ちたわ。母は、自分の能力を子どもたちに受け継がせようとして、子作りをしたのだと」

「……はい?」

「それはわたしが、ひとの記憶を奪う能力に気がついたときと同時期なんだけど……伝わったかしら?」

「……待って待って! 頭が追いつかないって!」

 ショチョウやらコヅクリやら、そんなあっさり言われても、恭矢は脳内変換すら追いつかなかった。補足するように青葉が続けた。

「えーっとね、つまりわたしたちのお母さんはね、由宇ちゃんの持つ『ひとの記憶を奪う力』と、わたしの持つ『ひとが忘れていた記憶を思い出させる力』の両方を持っているの。で、それがわたしたちに、それぞれ一つずつ受け継がれたってこと。そのタイミングが由宇ちゃんもわたしも、その……初潮と同時だったって話!」

 恭矢の理解力の問題ではなく、簡単に納得できるような話ではなかった。

「だけど……母は子どもに能力を引き継ぐことしか考えていなかった。子育てには微塵も興味がなかったから、生まれてすぐには能力を使えなかったわたしや青葉を捨てて、行方を眩ませたの。わたしのお父さんは苦労したみたい」

「わたしのお父さんも、大変だったって言っていたよ。うちは、恭ちゃんちがいろいろ面倒みてくれたから本当に有難かったって」

 顔を見合わせて苦笑する由宇と青葉の表情は、とてもよく似ていた。

「……そうやって話しているのを見ていると、姉妹に見えるな」

「そう言われると、わたしは嬉しいけれど……わたしは、青葉に姉と呼ばれる資格なんてないから」

 由宇は青葉から目を逸らし、天井を見上げた。

「母親がろくでもない人物だということ。わたしという、異父違いの姉がいること。青葉がそれらを知っていることは百歩譲って許せても、この能力のことだけは絶対に青葉には知ってほしくなかった。知ってしまったらもう、普通じゃいられなくなるから。……だからわたしは、青葉を探した。見つけて、わたしに都合のいいように記憶を奪った」

 由宇が一旦言葉を区切ると、代わって青葉が語り出した。

「わたしは……お母さんのことも、由宇ちゃんの存在も、自力で調べて大体わかっていたし、記憶を思い出させる能力にもすでに気がついていたよ。……中学校三年生の冬、学校帰りに由宇ちゃんがわたしに接触して、記憶を奪うまではね。わたしは能力のこともお母さんのことも、何もかもを忘れた。学校に行くと何かを奪われてしまうという恐怖から、学校には行けなくなっちゃったけど……由宇ちゃんの計画は成功したことになるね」

 青葉は静かに、淡々と言葉を紡いでいる。

「青葉には能力に対する耐性が少なからずあったのか、完全に記憶を消すことはできなかったわ。『奪われた』という記憶が残ってしまうことを、予想していなかったの。青葉にトラウマを植え付けてしまったこと、本当に申し訳ないと思っているわ。ごめんなさい」

 恭矢は由宇が言っていた、贖罪の対象が誰なのかを知った。由宇が辛辣な顔で深く頭を下げると、青葉は無表情のまま「顔を上げて」と呟いた。