危機はいつも突然だ。

「トモくん。
海、好き?」

「好きじゃない!
俺………海のしょっぱさが嫌いなんだ。
砂で汚れるのも嫌い」

「そうなんだ。
じゃあ、プールは?」

「嫌い!!
俺………昔、プールで溺れそうになった事があって、怖いんだ。
泳ぎたくない」

「泳がなくて良いよ。一生!
怖いなら、無理しなくて良い!!」

「ありがとう…。ナユ」

回避OK…。

「トモくんに似合うと思って、Tシャツ買ったんだ!
どう?」

「…ピンク……。
俺に…似合うかな?」

「似合うよ!
着てみて!!」

「…分かった……」

「どこに行くの?」

「寝室」

「どうして?
上着をかえるだけなんだから、ここでも」

「ここは駄目だ!
俺………着替えた時の自分の姿を、等身大の鏡で見てみたいんだ。
その鏡が寝室にある」

「私を疑ってる?」

「信用してるよ!
だから俺………すぐにでも見たいんだよ」

「早く着替えて、見てきて!
私に、見せて!!」

「待ってて…。ナユ」

回避OK……。

「トモくん。
温泉行きたい?」

「行きたくない!
俺………湯船に長くつかるとか無理なんだ。
のぼせたりするからさ」

「長くつからなければ良いんじゃない?」

「そういう事じゃないんだ!
俺………シャワーが好きなんだ。
つかりたくないんだ」

「女友達と行こうかな!
私はつかるのが好きだから」

「好きなら行って来なよ…」

回避OK………。

「トモくん……」

「ナユ………。
どうして居るんだ………」

「僕だよ!
家の前で会ったからさ」

「そうか………。
ありがとう………弟よ………」

「どういたしまして!
兄ちゃん……。
相変わらず腹が出てるね。ねっ?」

「う……うん………」

「もしかして……。
兄ちゃんの腹見るの初めて?」

バレるのも突然だ。
弟には帰ってもらった。

「お腹の事、どうして私に隠してたの?」

「服を着てる時は身長が高くて、スタイルも良いように見えるのに、脱いだら腹が出てるんだぞ?
幻滅するだろ………」

「それが私に隠してた理由?」

「ああ………」

「私が元カノに似てるからじゃないの?」

「それ…」

「弟くんが言ってたの。
私は昔、トモくんにひどい事を言って別れた元カノにそっくりだって」
9年前。

『何……その体……』

『びっくりした?
俺…』

『あり得ない!!!
そんな体で私と寝ようと思ったわけ?
別れましょう!!!』

『別れるって……腹が出てるってだけで?』

『そうよ!!!』

『俺の事が……好きじゃないのか?』

『好き?
私はただあなたの体が良い体で、抱かれたいと思ったから付き合ったの。
じゃなきゃ私があなたと付き合うわけないでしょ』