[番外編] 圭介が陽菜に電話するまでと電話中の会話内容
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帆高:お邪魔しましたー。
社員:またおいでね。
圭介:おい。
圭介:まあ気にすんなよ、青年。
圭介:世界なんてさ、どうせ元々狂ってんだから。
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社員:今のは社長のご親戚の子ですか?
圭介:いや、違うよ。あいつは俺が3年前にここの事務所にバイトとして雇ってたんだ。元従業員というやつだな。
社員:それにしては若過ぎません?
圭介:まあ、雇った目的ってのが、家出少年の保護だからな。
社員:家出少年…?親御さんに頼まれたとかですか?
圭介:いいや。普通、親が息子の家出を認めたりはしないだろ。
社員:えっ、勝手に保護したんですか?それだと略取誘拐で罪に問われません?
社員:昨日も家出少女を家に連れ込んだ男が逮捕されたって報道有りましたよね?
圭介:…。実際罪に問われて逮捕されたよ。
社員:ええっ?!
圭介:気になるよな?でも…その話は本題から外れるからまた今度ね。
圭介:で、前にも話したけど、俺自身も家出して上京した口なんだ。
圭介:家出少年ってのを見ると捨てておけないんだよ。この気持ちは俺にしかわかんねぇだろうなぁ。
圭介:で、聞きたくないかも知れないが続けるぜ。
圭介:あいつとは3年前の6月、伊豆大島に取材に行った時の帰りのフェリーで出会ったんだな。
社員:伊豆諸島の子なんですか?
圭介:そうだよ。今も変わらないかもしれないが、当時のあいつは大人のいうことを聞くのが大嫌いな性格でさ。
圭介:豪雨の危険が有るってアナウンスを聞いた直後に面白そうだからって甲板に出やがったんだ。
圭介:それで滑って海に落ちそうになっているところを俺が助けてやったわけだ。まさに命の恩人。
社員:何で社長も甲板に出てるんですか?
圭介:それは聞いちゃいけない。で、あいつが命の恩人にお礼がしたいと言うんで、定食とビールを奢らせたんだよ。
圭介:これが付き合いのはじまり。
社員:お礼って、お金が無い少年になぜ奢ってもらうなんてしたんですか?
圭介:俺の計算に決まってるだろ。6月の平日にフェリーに一人で乗ってる少年がいたとする。
圭介:それが家出少年でない可能性は何%だ?
圭介:俺はこの時点であいつの面倒を見てやろうと心に決めてた。
圭介:家出少年ってのはさ。誰にも雇ってもらえないの。俺はその辛さを痛いほど経験していてだ…。
圭介:とにかく、家出時の資金なんて10万持っていても20万持っていても意味無いの。
圭介:家出を続けられるかは面倒見てくれるアテが有るかというそれだけ。
圭介:あいつに奢らせれば、俺への貸しが出来たと感じて頼る口実ができるだろ?
社員:そんなマドロっこしいことしなくて、事務所に来るように誘ったらいいんじゃないですか?
圭介:それは家出少年の気持ちがわかっていない人のセリフ。あいつは一人で生きていきたいと思ってたんだ。
圭介:でも、それがどれだけ難しいかをわからせてからでないと駄目なんだ。
圭介:だから、奢らせて名刺だけ渡しておく。これがあの場面でのベストな選択肢なんだよ。
社員:そこまで考えたんですか。意外ですね。
圭介:意外は余計だろ。
社員:ところで、あの子はこれから誰かに会いに行くとかなんですか?
圭介:ああそうだよ。夏美が引き取って一緒に暮らしてる女の子。前にも話したこと有ると思うけど天野陽菜ちゃん。
圭介:あいつは陽菜ちゃんの元ボーイフレンドってやつだ。
社員:夏美さんと暮らしてる子の元カレ?
圭介:ただな、あいつは今もあの子にベタぼれ状態。
圭介:高校3年間律儀に貞操を守ってんだけど、一方で彼女に一切連絡をしようとしない。この内気さ、バカだろ?
社員:事情が飲み込めないんですが…。
圭介:まあ。あいつは事件を起こしたせいでちょっと前まで保護観察期間だったんだよ。
圭介:それで陽菜ちゃんに気を使っていたというのは否めないんだがな。
圭介:その辺りの話聞きたい?ってか仕事中だったな。なんで、また今度。
社員:ちなみに、陽菜ちゃんには今カレ氏さんとか、いるんですか?
圭介:夏美から特に聞いてないけど…。
社員:可愛い子なんですよね?じゃあ、いるんじゃないですかね。
圭介:なるほどな…。とすると、帆高を陽菜ちゃんとこに向かわせて良かったのかな…?
圭介:そして、あいつは陽菜ちゃんの家に無事たどり着けるのかな…。
圭介:よし、陽菜ちゃんに電話してみるか…。
(ピッ。トゥルルルルルル…)
圭介:あ、もしもし、陽菜ちゃん。
陽菜:須賀さん、こんにちは。
圭介:萌花の誕生日プレゼントのバッグありがとう。すごく気に入ってくれてたよ。
陽菜:喜んでくれてとても嬉しいです。作りがいがありますから。
陽菜:バイトが入ってて直接渡せなかったの残念でしたけどね。
圭介:そうだね。また萌花と会う機会が出来たら、よろしくね。あいつも会いたがっているし。
陽菜:はい。よろしくお願いします。
圭介:それでさ。ここからが本題。実は今日、帆高のやつが俺の事務所に来たんだよ。
陽菜:ホダカ?
圭介:そう。陽菜ちゃんもよく知ってる森嶋帆高。
陽菜:本当?!懐かしい。
圭介:大学受かったってことで、今後はこっちに住むらしいんだな。
圭介:それでさ、陽菜ちゃんは帆高に会いたい?
陽菜:はい。とっても。
圭介:良かったー。嫌だって言われたら、俺どうしようかと思ったよ。
圭介:あいつ、陽菜ちゃんのことメッチャ気にしてて、それでいて女々しくてさ。
圭介:連絡して良いものか悪いものか…みたいなことばっかり言ってたよ。
圭介:それで、イライラした俺が今すぐ会いに行けって言っちゃった。
陽菜:いいですよ。私も会いたいですから。
圭介:帆高は水上バス乗りたいとか言ってたから、五反田経由で陽菜ちゃん家に訪ねていくと思うんだよね。
圭介:到着は1時間半後くらいじゃないかな。
圭介:そこでさ。お願いが一つ有って。あいつを田端ステーションに迎えに行ってやってくれないかな。
陽菜:帆高がそうして欲しいって?
圭介:あいつがそんなこと言うわけないぜ。帆高の性格、陽菜ちゃんも知ってるだろ?
圭介:アパートの前に行ってチャイム鳴らすか1時間迷って結局帰っちゃうってオチ。それを阻止する俺の親心。
陽菜:ふふ。帆高らしい(笑)。いいですよ。
圭介:ありがとう。で、ごめん、さらに相談。出迎えの際にステーションのとこで、あのポーズやってくれない?
陽菜:あのポーズ?
圭介:3年前に芝公園でやってくれた祈りのポーズ。
陽菜:晴れ女のですね。どうして?
圭介:それ帆高に見せたら多分泣いて喜ぶって思う。
陽菜:そうなんですか(笑)。わかりました。1時間半後ですね。
圭介:ありがとう。よろしく。
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帆高:お邪魔しましたー。
社員:またおいでね。
圭介:おい。
圭介:まあ気にすんなよ、青年。
圭介:世界なんてさ、どうせ元々狂ってんだから。
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社員:今のは社長のご親戚の子ですか?
圭介:いや、違うよ。あいつは俺が3年前にここの事務所にバイトとして雇ってたんだ。元従業員というやつだな。
社員:それにしては若過ぎません?
圭介:まあ、雇った目的ってのが、家出少年の保護だからな。
社員:家出少年…?親御さんに頼まれたとかですか?
圭介:いいや。普通、親が息子の家出を認めたりはしないだろ。
社員:えっ、勝手に保護したんですか?それだと略取誘拐で罪に問われません?
社員:昨日も家出少女を家に連れ込んだ男が逮捕されたって報道有りましたよね?
圭介:…。実際罪に問われて逮捕されたよ。
社員:ええっ?!
圭介:気になるよな?でも…その話は本題から外れるからまた今度ね。
圭介:で、前にも話したけど、俺自身も家出して上京した口なんだ。
圭介:家出少年ってのを見ると捨てておけないんだよ。この気持ちは俺にしかわかんねぇだろうなぁ。
圭介:で、聞きたくないかも知れないが続けるぜ。
圭介:あいつとは3年前の6月、伊豆大島に取材に行った時の帰りのフェリーで出会ったんだな。
社員:伊豆諸島の子なんですか?
圭介:そうだよ。今も変わらないかもしれないが、当時のあいつは大人のいうことを聞くのが大嫌いな性格でさ。
圭介:豪雨の危険が有るってアナウンスを聞いた直後に面白そうだからって甲板に出やがったんだ。
圭介:それで滑って海に落ちそうになっているところを俺が助けてやったわけだ。まさに命の恩人。
社員:何で社長も甲板に出てるんですか?
圭介:それは聞いちゃいけない。で、あいつが命の恩人にお礼がしたいと言うんで、定食とビールを奢らせたんだよ。
圭介:これが付き合いのはじまり。
社員:お礼って、お金が無い少年になぜ奢ってもらうなんてしたんですか?
圭介:俺の計算に決まってるだろ。6月の平日にフェリーに一人で乗ってる少年がいたとする。
圭介:それが家出少年でない可能性は何%だ?
圭介:俺はこの時点であいつの面倒を見てやろうと心に決めてた。
圭介:家出少年ってのはさ。誰にも雇ってもらえないの。俺はその辛さを痛いほど経験していてだ…。
圭介:とにかく、家出時の資金なんて10万持っていても20万持っていても意味無いの。
圭介:家出を続けられるかは面倒見てくれるアテが有るかというそれだけ。
圭介:あいつに奢らせれば、俺への貸しが出来たと感じて頼る口実ができるだろ?
社員:そんなマドロっこしいことしなくて、事務所に来るように誘ったらいいんじゃないですか?
圭介:それは家出少年の気持ちがわかっていない人のセリフ。あいつは一人で生きていきたいと思ってたんだ。
圭介:でも、それがどれだけ難しいかをわからせてからでないと駄目なんだ。
圭介:だから、奢らせて名刺だけ渡しておく。これがあの場面でのベストな選択肢なんだよ。
社員:そこまで考えたんですか。意外ですね。
圭介:意外は余計だろ。
社員:ところで、あの子はこれから誰かに会いに行くとかなんですか?
圭介:ああそうだよ。夏美が引き取って一緒に暮らしてる女の子。前にも話したこと有ると思うけど天野陽菜ちゃん。
圭介:あいつは陽菜ちゃんの元ボーイフレンドってやつだ。
社員:夏美さんと暮らしてる子の元カレ?
圭介:ただな、あいつは今もあの子にベタぼれ状態。
圭介:高校3年間律儀に貞操を守ってんだけど、一方で彼女に一切連絡をしようとしない。この内気さ、バカだろ?
社員:事情が飲み込めないんですが…。
圭介:まあ。あいつは事件を起こしたせいでちょっと前まで保護観察期間だったんだよ。
圭介:それで陽菜ちゃんに気を使っていたというのは否めないんだがな。
圭介:その辺りの話聞きたい?ってか仕事中だったな。なんで、また今度。
社員:ちなみに、陽菜ちゃんには今カレ氏さんとか、いるんですか?
圭介:夏美から特に聞いてないけど…。
社員:可愛い子なんですよね?じゃあ、いるんじゃないですかね。
圭介:なるほどな…。とすると、帆高を陽菜ちゃんとこに向かわせて良かったのかな…?
圭介:そして、あいつは陽菜ちゃんの家に無事たどり着けるのかな…。
圭介:よし、陽菜ちゃんに電話してみるか…。
(ピッ。トゥルルルルルル…)
圭介:あ、もしもし、陽菜ちゃん。
陽菜:須賀さん、こんにちは。
圭介:萌花の誕生日プレゼントのバッグありがとう。すごく気に入ってくれてたよ。
陽菜:喜んでくれてとても嬉しいです。作りがいがありますから。
陽菜:バイトが入ってて直接渡せなかったの残念でしたけどね。
圭介:そうだね。また萌花と会う機会が出来たら、よろしくね。あいつも会いたがっているし。
陽菜:はい。よろしくお願いします。
圭介:それでさ。ここからが本題。実は今日、帆高のやつが俺の事務所に来たんだよ。
陽菜:ホダカ?
圭介:そう。陽菜ちゃんもよく知ってる森嶋帆高。
陽菜:本当?!懐かしい。
圭介:大学受かったってことで、今後はこっちに住むらしいんだな。
圭介:それでさ、陽菜ちゃんは帆高に会いたい?
陽菜:はい。とっても。
圭介:良かったー。嫌だって言われたら、俺どうしようかと思ったよ。
圭介:あいつ、陽菜ちゃんのことメッチャ気にしてて、それでいて女々しくてさ。
圭介:連絡して良いものか悪いものか…みたいなことばっかり言ってたよ。
圭介:それで、イライラした俺が今すぐ会いに行けって言っちゃった。
陽菜:いいですよ。私も会いたいですから。
圭介:帆高は水上バス乗りたいとか言ってたから、五反田経由で陽菜ちゃん家に訪ねていくと思うんだよね。
圭介:到着は1時間半後くらいじゃないかな。
圭介:そこでさ。お願いが一つ有って。あいつを田端ステーションに迎えに行ってやってくれないかな。
陽菜:帆高がそうして欲しいって?
圭介:あいつがそんなこと言うわけないぜ。帆高の性格、陽菜ちゃんも知ってるだろ?
圭介:アパートの前に行ってチャイム鳴らすか1時間迷って結局帰っちゃうってオチ。それを阻止する俺の親心。
陽菜:ふふ。帆高らしい(笑)。いいですよ。
圭介:ありがとう。で、ごめん、さらに相談。出迎えの際にステーションのとこで、あのポーズやってくれない?
陽菜:あのポーズ?
圭介:3年前に芝公園でやってくれた祈りのポーズ。
陽菜:晴れ女のですね。どうして?
圭介:それ帆高に見せたら多分泣いて喜ぶって思う。
陽菜:そうなんですか(笑)。わかりました。1時間半後ですね。
圭介:ありがとう。よろしく。
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