(陽菜は颯爽とアパートを出て歩き始める。帆高は後ろから着いて行く)

帆高:(今、僕の頭はパンクしそうである。ちなみに僕が人生で最も頭をいっぱいにしたのは間違いなく3年前の8月22日だ。)
帆高:(多分この記録は一生塗り替えられることは無いと思う。でも、あの時はパンクしそうではなかった。)
帆高:(なぜなら、考えること、そしてやることが一つしかなかったから。…けど、今は考えることがとても多い。)
帆高:(ところで、ほんの1時間前も頭が一杯になるほどずっと考えていたはずであった。陽菜さんのこと。あの時のこと。)
帆高:(…でも、あれはすでに熟成されたことに立花のおばあさんと須賀さんの情報をほんのちょっと加えて考えてただけだった。)
帆高:(だから、まだ脳みそのキャパの限界には程遠かったと思う。)
帆高:(そして今、頭がフル稼働し、オーバーヒートの寸前に来ている理由…。)
帆高:(それは、陽菜さん、凪センパイから新たに大きな情報が追加入力されたからだ。)
帆高:(整理してみよう。僕の一杯な頭の内訳を…。)

陽菜:帆高ぁ?ねぇちょっと聞いてる?私、帆高を呼ぶの、アパート出てから三回目だよ?
帆高:あ、ごめん。考えごとしちゃって。
帆高:(陽菜さんのことが気になって、陽菜さんを無視しちゃったら本末転倒だ…。今は考えるのやめよう。)
陽菜:今日は帆高がお客さんなんだから、食べたいものリクエストしてくれる?
帆高:何だろう?…あ、3年前に陽菜さん家で食べたポテチチャーハンがまた食べてみたいな…。
陽菜:ごめんね。さっき、凪が黒鯛の鯛めし炊くって言ってたから、それは止めたほうがいいかも。
帆高:そっか…。お店に行ってから決めようか。ちなみにどこに向かってるの?
陽菜:旧駅前のアトレヴィ。夏美さんももうすぐ帰ってくるし、遠くには行けないよね。
帆高:あそこは沈んでいないんだ。
陽菜:船着き場みたいなのが付いて、商品の半分くらいは船で運び入れてるみたいだね。
帆高:北側ずっと海が続いているからそうなるよね。
陽菜:日本史の先生が、江戸時代は東北からの物資は全部利根川と江戸川を経由した船輸送だったって言ってた。
陽菜:今はその頃にタイムスリップした感じかな。
帆高:そう言えば、それと同じような話を、立花のおばあさんから今日聞いたな…。
陽菜:立花のおばあさん?
帆高:覚えてない?晴れ女サービスの依頼でスカイツリーの近くの日本家屋に行ったの。
陽菜:!あの人か。迎え盆を晴れにする依頼だったよね。
帆高:そう。その人。今日会って来たんだ。
陽菜:でも、どうして?
帆高:晴れ女サイトを久々に見たら依頼が来てたんだ。それで久々に会いに行ってみようって。
陽菜:曳舟のあたりは水没しちゃってるよね?
帆高:だから今は、高島平のアパートに引越してた。
陽菜:お元気だった?
帆高:元気そうだったよ。スイカを一緒に食べたお孫さんも結婚されたみたい。
帆高:お嫁さんはまるで女優さんみたいな美人だった。
陽菜:お孫さん夫婦にも会ったの?
帆高:写真を見せてもらっただけ。俺はどこかで会ったことが有る人のような気がしたけど…多分気のせいだと思う。

帆高:(立花のおばあさんがいう「東京が昔に戻っただけ」って話も僕たちが戻したってことならもっと深い意味になる。)
帆高:(陽菜さんがどう考えるのか…、聞くなら今の話の流れがチャンスだ…。)
帆高:陽菜さん。
陽菜:ん。どうしたの?お店着いたね。脱線しちゃってたんで、何食べたいの話に戻そうか。
帆高:…。そうだね。
帆高:うーん、メインは鯛めしと刺し身だよね…。サラダとか欲しいかも。
帆高:以前食べたチキンラーメンサラダとかどうかな。
帆高:ベビーリーフって人工光栽培だから晴れてた昔と値段変わってないし、いいよね。
陽菜:ちょっと帆高ぁ。こっちがご馳走してあげるってのに、値段の話とかするのって失礼じゃない?
帆高:えぇっ?天野家の家計とかも心配して…。何なら俺からお金出してもいいし…。
帆高:いや…。ごめん。
陽菜:よし、いい子。(ニッコリ)
帆高:…。(陽菜さんと話すとこういう展開ばっかり…)