「あれだな、変なヤツだったな。」
ルイは 石のベンチに
骨壷と 座りながら 、前方の風景を 只、見ているような 風にしながら、
隣に座る シオンに投げ掛けた。
「そーだねー。変なひと、だよねー。」
シオンも 同じく、
石のベンチに 座りながら、目の前の車寄せの向こうに広がる 田園を、只 眺めているように、
隣のルイの問いかけに、応じた。
シオンの 向こう隣には、
石のベンチに 仰向けに体を横たえた、レンが 片腕で、顔を覆っている。
レンとシオンの 間には、
『若い叔母の遺影』が 立て掛けられていた。
晴天の空の下に、斎場の門の向こうには、春の田園と、太陽に水面を、白光する水の風景が開けている。
レンが助手席に乗った 霊柩車は、琵琶湖畔の 斎場に、シオンとレンを先導した。
式場にも 最近の傾向に、
驚かされたシオンだったが、この斎場にも 驚いた。
ちなみに 最近は、火葬場ではなく、『斎場』とか言うらしい。
「この『斎場』?ってゆーのも、驚いたけどねー。」
シオンは、さらに 言葉を重ねた。
「こんなに、里棟モダンな外観なのも、ちょっとした オリエンタル石室みたいな 内装も。お洒落なんだねー。イメージ変わるよ。」
そうは言いつつも、
シオンとルイは、視線を交わす事なく、前の田園風景を 見つめていた。
「どっかの、リゾートホテルグループ、やってそうだもんなぁ。Japanテイストとかいってよ。」
湖畔に佇む、3棟の低層モダンな建物が各々、
火葬炉棟、
告別・収骨室棟、
控えホール棟に なっている。
シオン達は 直葬なので、火葬炉棟の、それこそ炉前室で、全て終わらせた。
炉前室で 『納め式』を行なって、その時間まで待つ。
そして、また炉前室で 『骨拾い』を、さっき までしていたのだ。
「なんだな、雪だな、雪で、停電中、つー、せいだろうな。」
ルイは チラリと、自分と シオンの間に横たわる レンを 見舞って言った。
結局、今も 停電続行中だ。
幸いにも、火葬炉は 高温都市ガスで稼働に、問題はなかった。
ただ、他は昨日の夜と同じ状況になる。
本来なら 『焼き終わる』まで、端の控えホール棟で 、アナウンスがあるまで 親族は待つ。
けれども、シオン達は 停電による 照明と、暖房のストップで、またもや、 ダルマストーブで 暖を取りつつ、 炉前室で 待つ事になったのだ。
その際、式場から段ボールごと 貰ったカイロが 役に立った。
いろいろ役立つカイロだ、と シオンは ニヤリとして思う。
「昨日から、ダルマストーブに、好かれているよな。」
そう言って、ダルマストーブに乗せられた、薬缶を見つめて レンは面白そうに目を細めていた。
控えホール棟では、丁寧な事に、簡単な ポット茶と、焼菓子が要因されているらしい。
が、停電の為 ポットも使えないからと、薬缶にお湯を点てて、紙コップを用意してくれた。
これが、駄目だったのかも?と、シオンは追想した。
「すいませんっ、雪で停電な上、職員が遅れてましてっ。」
暫くして 奥から出てきた、若い火夫?が 説明らしき 言葉を、掛けてきた。
「本当は、前室を預かる係がいるんですがっ。雪で、遅れてまして。」
と、あまりに、1人で対応していそうな感じに、シオンが気の毒になってしまった。
だから、ダルマストーブのお茶受けに、鞄から忍び出した『丁稚羊羹』の笹の葉を開けたのだ。
確かに、あんなとこで、ちょっとどーかなと、思ったんだけどさ。
それが、餌付けになったのかもしれない。
シオンが、つらつら思っていると、
「ちたぁ、1人は、今日、大変だな。火夫?のやつ。」
ルイが、呟く。
そうなのだ、若い 職員は、自分を
「 まだ 新米で、中の所作にしても、先輩にまだ 追い付かないですよ。」
と、ダルマストーブの前で 話ていた。
『中の所作』?。
最初、聞いた時 シオンは、 かなり 目を細くした。
やれ、
「停電はしているが、ガスで対応出来るので そこは、いつもと変わらず、安心してください。」
とか、
「自動電動は、手動という 貴重な体験を積めました。」
とか。
「『中』の後、自分が 骨上げの方に すぐ参ります。いつもは、先輩が説明させてもらうんですけど。」
とか、いいながら
『中の所作』なんだろう、暫くした 戻って行った。
シオンは、炉前室で、待つ間
懸命に、『中』で棒を操る 火夫の姿を 思っていた。
「ここ、3基ぐらいあったよねー、釜、大変だよねー。」
シオンが呟く。
「…釜じゃねーだろ。炉だろ。
火夫?ったか? なんだか、あけちゃいけねーモン、開けた気分だぁな…」
それは、全く同感だと思って、さっきの事を 思い出す。
まだ 横たわる レンの髪は、湖畔からの 風を受けている。
シオンは そんな レン を見舞って 、
お蔭で、
『救われた』と 晴天の 空を見上げた。
『皆さん、どうぞ、終わりました。』
新米 火夫 の声かけで、
シオン達は 出された、鉄の台車に近づく。
そこを、光が指していた。
斎場の炉前室は、高窓から 自然光が入る設計。
停電で、電気は使えなくとも、炉前室は、晴天の太陽が 明かりと差し込み、反って神聖さを出している。
「『箸をたがえる』という 非日常の作法を行う、意味があります。」
そう 新米の火夫が 説明を しながら、『竹と木のたがい箸』を
喪主の レン、遺族の ルイ、親族の シオンへと 静かに 渡していく。
鉄の台車の上に 向き合う。
まるで、白く焼いた 大小の器が、散乱 置かれたようだ。
台車をはさんで、遺族 ルイと親族 シオンが立つ。
頭だという位置に、 喪主 レンが立った。
全て、喪主から 始まる。
火夫 による『骨上げ』、人体解説が 始まる。の、はずが。
「あ! この箸、使い難いですか?この箸で、三途の川を渡るときの橋渡しをするんです。なんとか 上手に使って拾いましょう。」
鉄台車を中心にして、
互い違いの箸を手にする 三人と、
白手袋の 火夫が 取り囲み
さながら、エジプトの石室で
作業をしている 気分になるのは、
何故だろうと?こんな考えも、不謹慎だー。
シオンは、ちょい、ちょい、火夫を見やり 思った。
言われた様に、まず、レンが箸を入れて、、両側から、ルイ、シオンの順番に足の骨 から摘まんでいく。
「私は、生まれも、育ちもこの地元ですから、琵琶湖が川で海ですよ。マザーレイクですから、故人さまも、琵琶湖に戻られたんですかね。」
骨壷を開けて、ニコニコしながら、新米は 口上以外の話も、ちょいちょい、入れていくるのだ。
「今日は、多くお見えになる感じが、したんですっ。こう、琵琶湖が震える感じで。」
いつもは 先輩がすると、言った人体解説。大丈夫だろうかと、シオンは 向かいのルイをみた。
「そんな日は、旅立つ方の お手伝いで忙しくなります。あ、間、空けると、体の全部が 入りませんので、丁寧にっ」
向かいの、ルイが 一瞬 骨壷から箸を出し。シオンを見る。
「足の骨から、体の上の骨へと、順番に拾い上げるんです。生きている時と 同じになる様に、骨壺に納めますよ。」
喪主のレンから 始めて、ルイ、そしてシオンの順で 拾う。
「でも、こんなに、ゆっくりと 『骨上げ』が出来るなら、雪も悪くないです、きっと雪も偲んでますよ。寒いと、多く来られるので、慌ただしいです。」
レンが、大きめの骨を 壺に 入れた。
「これ、一際 大きな骨は 大腿骨ですよ。あぁ、入らないんですね?じゃっ!!」
『パキン』
あ、手で、割るんだ?手袋してるけどねー。
ルイも、そんな顔を、向かいでしている。
「都会だと、1日で 90組とか あるんです。入れ違いで、炉前室に入って。 ゆっくりお別れとは、ならないですよ、」
いや、それ、何人で『中の所作』する?! もしや1人?と、シオンは 内心、つっこみまくる。
「これが第二頸椎、喉仏です。うん、綺麗きれいに残っていますよ。ほら、こうすると、座してる、仏様のように見えませんか?」
レンに、火夫が 1つの小さな骨を示した。
「骨がキレイに残るようにー、うん!残ってます。昔は、『末期の水』を含ませて、喉仏を見たんです。最後まで、故人を支えた骨なんて、思えない 控え目さですね。」
レンが、火夫を 見つめる。
「じゃあ、最後に、故人と 縁の深かった方、喉仏を 納めて下さい。」
「え、」
三人の箸が、止まる。
声にはしないが、全員が
『この場合、誰だ?』
と、脳裏で考えを巡らせる シオン。レンと、ルイも そうだろう。
「レン、どうぞ。」
「いや、俺は ここに居なかったし、ルイだろ。」
「どーだろ?てか、シオンが オカンの気に入りだろ?」
どーぞ、どーぞのネタみたいな 感じだ。
「じゃ、喪主さま、どうぞ、!!」
なら、最初から喪主にと 勧めてくださいよ。という、目してるよね、ルイ?
シオンの目も、白く細まる。
「はい、その上に、この 頭蓋骨で『蓋』をして、終了です。」
はーと、と三人は 息をついた。
エジプトの石室作業を、大学講義された様な 変な疲れがする。
そう、帰る気持ちになっていた。
「それにしても、この故人様は、羨ましいです。一体何の徳を積んだら、こう 逝けるんでしょうね!」
新米火夫は、閉められた骨壷を 風呂敷で包んで、レンに渡す。
「故人様には、新品の炉を 使って頂けましたから。良かった」
『???』
鉄の台車には、全部は入りきらなかった白く薄く骨が、残っている。
「ああ、新年度で、炉を1つ新しくしたんですよ。雪で、到着が遅れて、そのまま故人様が使えまして、新品の最初です!」
シオンも、レンも、ルイも 鉄の台車を 囲んだままだ。
「たくさん方の、お世話させてもらいます。これからもですが、」
シオンの目から、ツーっと水が落ちる。
「こればかりは、自分じゃ、どうにもならないですから、羨ましいです。できる、ことなら、僕も、新しい炉で逝きたいです!」
シオンは、自然と レンに言葉を 現した。
「レン、、、良かったね、、叔母さん、良かったんだよ、本当にーーー
その後は、シオンの言葉は、レンの号泣する声で、消えた。
驚いて、みた、レンは、
両目から 涙を 溢れさせて、
決壊したように、声を挙げていた。
ルイも 嗚咽を 食い縛って、涙を腕で拭っている。
火夫と、三人だけの 炉前室に、
レンの声が響いている。
『骨上げ』は「グリーフケア」としての場でもあると、聞いた事がある。
長きを共にした 『肉体』が消滅し、果てた『遺骨』を 遺族は 目の当たりにする 哀しさ。
人体解説は、『死者』と『生者』との 緩衝材にもなってくれるという。
死別を、ただの喪失にせず、
これからを生きる、残された「自分を知る」機会になると。
新米火夫も、目を皿の様にして、
レンを 見ていたが、
小さく頷いて、消えて行った。
豪雨に撃たれるような、
嘆きを挙げるレンには、
今どんな 哀しみが、降っている?
シオンは、
大人の男が 激しく泣く姿を
初めて 見た。
『カッコー♪ー、カッコー♪ー』
信号機の音響が
鳴っている。歩行者はない。
どうやら、停電区域を出たらしい。と、シオンは ホッと一息ついた。
シオンは、ルイが運転する車で、助手席にいる。
後部座席には、後ろ向きに、レンが シオンの鞄を枕に、寝転がっているのが、ミラーから分かった。
「レンは!壊れたな!」
そう 言って、ルイは ウシシッと面白そうに口端を上げる。
「こわれたー。こわれたねー!」
シオンも、フロントガラスから 琵琶湖を見たまま、ルイに合わせた。
湖面が キラキラしている。今日は 嘘みたいに、晴れた1日になるだろう。
「アイツさ、変なヤツだったけど、いいヤツだよな? ま、知らねーけどよぉ。」
BGMもラジオも 点けないまま、ルイは車を走らせている。
「なんか、天然っぽいかも?だけどー、あの仕事、あってるんじゃない? てか、知らないけどねー。」
斎場から なかなか、動こうとしないレンを、無理矢理 ルイの車に乗せて、シオン達は 車を走らせた。
そこで、シオンは ルイに、折角だから 湖畔の道を 走って欲しいと頼んだのだ。
「しっかしよ、びっくりしたよなぁー。アイツ なんか言ってたろ?今日は 多いだとか、なんとか。マジだったな!」
ルイは 指をわざわざ 1本、シオンの頬に出す。それを グイッと 戻して、
「霊柩車、3台だもんねー。」
と その光景を思い出して、シオンは笑った。
炉前室で、決壊したように泣く レンを 、シオンとルイは、抱きしめた。
夏に、三人丸まって、抱き合いそのまま、眠った日のように。
それから、レンを真ん中に、三人は 横に繋がったまま、斎場外に出る。
レンは、号泣は しなかったが、涙を流すのを すぐには、止めなかった。
だから、シオンとルイも 付き合い、玄関外にあった 石のベンチに座っていたのだ。
ルイは、そのまま石のベンチに 仰向けに横たわった。その ままになった。
昨日から、ずっと『喪主の気負い』もあったのだろう。
シオンと、ルイは、雪が残る 斎場の玄関外で、斎場の門の 向こうを見ながら、なんとはなく 話をしていたのだ。
さっき 炉前室で 仕込んでいたカイロが、そろそろ冷えてきたから、ルイの車に積んでいる カイロを追加で、開けようか?と 思っていた。
すると 急に、門の外から 立て続けに 霊柩車が入ってきたのだ。
それも、3台続けてだった。
ルイも 門から続々と侵入する 霊柩車に、呆気にとられている。
そうすると、マイクロバスが、その後に3台と、乗用車が2台入ってくる。遅れて タクシーも。
新米火夫が 言っていたように、今日は 予約が 怒涛のように入っている らしい。
雪で遅れていた、職員らしきスタッフも 何人か 通り過ぎていく。
先輩かな?っと、シオンは思った。
玄関が にわかに慌ただしくなり、
さすがに、このままでは居づらい。まだ 寝転がっているレンを、無理矢理起こして、ルイの車で 斎場を後にしたのだった。
「アイツ、あんな感じだと、先輩とか ゆーヤツに、けっこー扱かれるタイプだよ?なあ?」
やっぱり ルイは、ウシシッと笑っている。
「かもねー。」
シオンは、相づちを打って、
「でも、あの人なら、あたしも、最後は 焼いて貰いたいかも。」
本心から、言葉を口にした。もしかしたら、その頃には カリスマ火夫かも?と思ってしまったのだ。
シオンも、ルイみたいに、ウシシッと笑った
と、後部座席数から
「アイツ、シオン、気に入ったんだよ。」
と あからさまに、不機嫌な レンの声がする。
「壊れてたんじゃねーのか?レン?」
ミラーごしに、ルイがレンの背中を見るのが 分かる。
「・・・」
とくに、返事はないので、シオンは 話をすすめる。そもそも、『変なの』に 気に入られるのは、シオン的には 今更だ。
「ねぇ、てかさ、ルイ。これ、何処向かってんの?」
まだ、湖畔沿いの道路を ルイは走らせているが、 行き先は聞いていない。
「決まってる?オレん店だろ?」
ハンドルを握って、ルイは嬉しそうだ。
「堅田のカフェレストラン?!ー」
「イエーっス!。 レンは 壊れてんだろ? 適当ーに、野洲にでも 下ろすからよ、来いよ、オレんとこ。飯だすし。」
そう ルイが シオンに顔を向けた と 同時に、ルイの頭に カイロがぶち込まれた。
「あだっ!!って、レン 運転してんぞ!事故る気かぁ!」
片手で、頭を擦るルイから、シオンは、後部座席に 目をやる。
積んでいた、段ボールから まだ カイロを手にした、『氷の貴公子』が、
いつの間にか 降臨している。と、シオンは 嘆息をついた。
「・・・」
無言のレンを 見たまま、シオンはレンとルイに
「大津で 下ろしてくれる? あたし、船の時間が ある。」
と、 笑顔で 伝えた。
「あたし、まだ 旅の途中なんだよ。」
シオンは、石と煉瓦造りの水門を
疎水舟の乗り場から見上げた。
舟に座ると、水の匂いがする。
柔らかな 琵琶湖の匂い。
大津市三井寺の取水口。
この界隈は桜の名所で、山桜が枝下り「大津閘門」を飾っている。
2つの水門に 船を入れ、水位を調整。水門を開けて航行させる。
パナマ運河みたいなものだと、
ガイドが説明してくれた。
この門から 琵琶湖の水は、京都に流れる。
それは『水の路』だ。
シオンのルーツを巡る1人旅は、この疎水通舟の向こうに、ゴールがある。
琵琶湖は、460もの支流が流れ込むが、出河川は 只1つ。
しかし、もう1つ疎水による、水出がある。
マザーレイク2つの 生まれ出ていく 水の門。
ここから、シオンは 一族の墓がある、京都へ入る事にした。
それが、ルーツの旅 終着だ。
疎水は1メートルしか 川底がない為、自然と目線が低くなる。
水面を 這うように 舟。
その臨場感は、胎内巡りに似ているかも、とシオンは ドキドキした。
かつては この疎水を使って、大津~大阪間を 米、炭、木材、石材、紡績といったモノが運搬された。
物流だけでなく、遊覧船も行き交った。
また、疎水は、『水』そのもの、を運び、南禅寺別荘群の庭園用水となる。
京都の蹴上を目指して、疎水舟はゆっくりと進む。
ほどなく、 緑と山桜が造る 壁の中に、洋風玄関の如く トンネルが 見えた。
1番長い 第1トンネルだ。
入り口には、伊藤博文の
『気象萬千』額があり、意味は『様々に変化する光景は素晴らしい。 』である。
まさに、疎水からの風景そのものだと、シオンは思う。
ここからは、薄暗い トンネルに突入。
まるで、胎内の様な感覚が 延々と続く。そして、トンネルは寒い。昨日から、カイロが大活躍だ。シオンは、ポケットを触る。
まだ、暖かった。
と、突如
光の滝がみえた。
『竪坑の落水』
凄い勢いで、トンネルの上から水が落ちている。アトラクション並みか?
舟の透明な屋根に、容赦なく 滝が落ちて、スリリングだ。
湧き水や 貯まった雨水が、竪坑に流れて、降り注ぐという。
雪のせいだろうか、
竪坑から 勢いのよい、
滝の様な水音を 後ろに過ごして、舟は まだトンネルを進む。
前に光の無い、心細さ。
第2トンネル東口。
出口 には、
『仁以山悦智為水歓』額。
『仁者は動かない山によろこび、智者は流れゆく水によろこぶ』
『知者』は自身を楽しませる方法を得て賢く、豊な知識を持ち、自身の事が出来る。
『仁者』は周も楽しませ、 求めば助言し、必要なら、叱咤す。時に、人の為に損し、言われなき誤解を受けても、『仁』の心で思いやる。『仁者』を目指す人生、生きがい有。
その、額の心は?
シオンは自身に問う。
このような人を
もう、シオンは知っている。
胎内の様な、トンネルを、
抜けた。
太陽で シオンの目が 眩む。
ここからは、なんとも里山な 山科エリア。
闇の向こうに
ひろがる菜の花 、桜、
ぼけの花が 楽しい。
疏水沿いに、山桜660本の並木が、疎水の 天井を飾る。
遊歩道を散策する人 が見えた。
こちらを写真にとっている。
シオンも 先輩に送る為に、
写真だ。
相手が、手を振る。
良い舟旅をと。
良い人生を。
穏やかな『疏水みち』は
どんどん、次のトンネルへ進む。
第3トンネルの東口には
『過雨看松色』の額。
『時雨が過ぎると、
いちだんと鮮やかな
松の緑を見ることができる』だ。
水と共に生まれる瞬間を
シオンは、額に描いた。
こうして、
最後のトンネルを出ると、
すぐに 朱塗りの橋がみえてきて、
左奥に
旧御所水道ポンプ室が見えた。
約1時間の船旅。
滋賀から 疎水トンネルを抜けると、
そこは京都。
纏う空気が別物に、
そう雅になる。
水はもう鴨川の匂いだ。
シオンは そう感じて、
舟を降りた。
昔は、このまま蹴上のインクラインで陸上げて、鴨川に船は入った。蹴上の船着き場。先を行くと南禅寺の水路閣だ。
さらに、疎水は、京、宇治、大坂、瀬戸内海へと流れる。
都の桜、観光の響き、香の煙。
この蹴上から移動した場所に、
一族の墓はある。
『春の雪』本編もあと2話
ラストのサイドストーリー
「フリをして刻む」
レンの独白を投稿しました。
ルイほど、分かりやすくない
ですから、物足りないかなあ、
と 大分悩みました。
直接的な 書き方もあったと
思いつつ。
携帯?スマホで 執筆する、
アプリで読むを 意識して、
いろいろ試した本作なので、
この形容で
ラストサイドストーリーと
しました。
ここまで、有り難う御座います。
あと、少し
宜しくお願い致します。
執筆中のBGM書いてますが、
けっこうガンガンに
聞いてテンション上げてから
書きます。
だから、燃え尽きます。
さいけ みか
ルイが運転席で、片眉を上げたのが、見えた。
「はは、! おまっ、『ミシガン』でも乗んのか?!」
そんな風に 笑う ルイに、どや顔をして、シオンは 言い放つ。
「違うよー。京都に、お墓参りして、今回の旅は 終わりなのっ」
「…、疎水か。」
ルイが フロントガラスの遠くを見るように、言った。
「さすが、ルイ。よく知ってる!」
そんなシオンと、ルイのやり取りを レンは後部座席から、顔を出して、不思議そうにしている。
「疎水って? 俺、知らないけど。」
そんなレンに、ルイが
「そりゃ、レンは 知らないよなぁ。最近、大津から また京都に、疎水使って、船便が出てんだよ。」
と、ちょっと レンを見舞って、教えてやる。
明治時代に、疎水が物流で使われるようになったが、その期間は 長くなく、同じ明治のうちに、使用が終わる。
その 疎水舟が、最近 観光として復活しているのだ。但し、期間は 限定されている。
「春と秋だけ、なんだけどねー。ほら、大津から 京都まで電車で、すぐだけどさ、向こう着いてから、けっこう あるでしょ?」
シオンも、後部座席から顔を出している、レンを見て 説明を続けた。
「うん。お墓って、東山だろ? 京都駅から、タクシーでも、いいんじゃないのか?」
レンが、シオンを見る。
「レン、京都駅から、タクシーで、東山は、この季節、鬼だよ。」
レンの頭を シオンは ヨシヨシと 撫でた。
そのシオンの 仕草を、忌々しそうにしているルイ。
「レンよぉ、そーゆーフリ、小聡明いよなあ。なぁ、大津から、蹴上に出るんだよなあ、疎水舟。舟いいな!、オレも行くか!」
言いながら、早速 ルイが 車の案内を開いている。
「あのね、完全予約制だから、急には 乗れないのー。残念だねー。だから、近くで、下ろしてくれる?舟の時間 ギリかもー。」
シオンは、ルイが 開いた案内の地図を、 拡大して 指でカーソルを 滑らさせた。
湖畔の風景が、街並みに入っていく。空が、変わる。
「だあっぁ!なんだよ。くそっ。予約かよっ。じゃあ、大津の 乗り場まで乗せてくぞ。 お!レンは 飯は?どっかで食うか?」
あははーっと、笑ってシオンも、
「レンは、東京、戻るの、明日?今日?。四十九日とか、どーするの?」
と 振り返り 、レンに投げ掛ける。と そこに、ルイが しゃべり 被せてくる。
「あ、レン、初七日どーすんだ?」
矢継ぎ早に、話を振られたレンは、それを 穏やかに 往なす様に、
「帰り、どうしようかな?仕事は、明後日まで休み、出してる。
なかなか、後の世話もできないし、お袋は、永代供養で、親父方の菩提寺に お願いするよ。」
そう言って 隣に置いている、骨壷を 見る。
「そっかー。なら、京都のお墓に、叔母さんの事、ちゃんと 報告、あたしが するね。」
シオンも 心寂しい気になって、レンの隣の骨壷を見ながら、
「あと ルイやっぱり 、どっかの コインランドリーで、下ろしてくれない?この叔母さんの喪服、いい加減、脱いで返さなきゃ。」
そうなのだ、シオンは まだ『叔母の喪服』を着ている。
それに、すぐレンが 答え、
「シオン、その喪服、持っていて。きっと、お袋、シオンに渡すと思う。」
シオンが着る、喪服の肩を フワッと 撫でた。
「そうだぞ、おまえ、オカンのお気に入りだかんな。」
「うーん。そうなのかな。うん。なら、このまま、着て舟に乗るかな。」
そりゃ、いい。なんかの、撮影だなとか、笑う、ルイ。
「で、この叔母さんの喪服を、あたしのエンディングドレスにするよ。」
シオンは、静かに ハッキリと、口にする。レンとルイが、止まる。
「それ、」
レンの 語りかけに、シオンは 後部座席を見て、
「いいでしょ?故人の喪服で、参列した、あたしが、自分が逝く時に、叔母さんの、喪服 着ているの。」
「、、うん、シュールだね」
レンの
表情を、読めないまま、シオンは 二人に 乞う。
「ね、いつか、レンとルイで、叔母さんの事、あの神社に、報告してくれる?」
隣で 運転する、ルイにも シオンは、視線を投げた。
「うん。」
レンが、短く、答えた。その直ぐだった。
「おい!レンいくぞ!」
「今日、行くぞ!帰んの、明日でもいいんだろ?行こうぜ。おう、昔みてーに、チャリンコだ。」
ルイが 勢いよく、レンに言い放った。レンが 後部座席で 後退る。
「マジなのか?」
白い視線を、ルイに打ち返した。
「マジ、マジ。行こうぜ、琵琶湖なあ、サイクリングロード けっこうあっからな。よし、ラーメン喰って、行くぞっ 。」
なぜか、ラーメンも くっついてきたと、シオンも 目を細くする。
なんのノリだ。
「やだ。自転車。」
レンも、子どもの様に、反抗する。
「んなこと、言うなって。ぜってー良いって。滋賀はなぁ、ラーメン、トッピングも、激熱だ。」
「ラーメン・・・」
シオンは、このレンの反応が、わかる。ルイもだろう。
「レンが好きな、あれも入れ れっぞ。ラーメン喰って、ガキん頃みてーに、『見渡す限りの 田んぼ』をよ、激走だよなぁ。」
レンの好きなラーメンね、シオンは 夏を思い出して、笑う。
そして、
だいぶん、街に入ってきたけど、と思いつつ、シオンは 二人のやり取りを、楽しむ。
まだ、二人は、やりあっている。
「ーーー体力ない。」
「舐めてんのか?昨日見たぞ、鍛えてるんだろぉ?細マッチさんよぉ」
「チッ」
初めて、レンの舌打ちが、、。
「決まりだなあ!」
完全に、女子シオンは、置いてきぼりだと、思った。
「じゃあ、大津まで 送りはいいよ。草津で下ろして。今からじゃ、帰り困るでしょ?」
そう 弱冠、拗ね気味に、シオンが ルイに 突っかかる。
「いーよ。どーせなら、シオン泊まった、茅葺き宿行くのもオツだろ?」
さらに、驚きワードを ルイは言ってきた。
レンは、シオンの座席に、頭をくっ付けて、諦めのポーズだ。
「なっ、!よっぽど、お漬け物、気に入ったんだー?!」
シオンも、呆れる。
「日野菜の桜漬けサイコー!!」
額に手を当てる シオンと、レンに お構い無しで、ルイは 嬉しそうに、片手を握り上げた。
そろそろ、草津の駅だろうか?
そう、思ったのは ルイが、
「今度、会うのは。」
と シオンに聞いたからだ。
少し考えて、うん。
「きっと、来世だね。」
シオンは、答えた。
後部座席から、
「ん? 誰かのお葬式だよ、きっと。」
レンが言った。
「そうかも、じゃあ、三人で会うのは 最後かも?」
今度は、振り返り、シオンは言葉にしてみる。
そんな、シオンの言葉に、ルイが、
「なら、レン、先に逝くよな?そん時は、遠慮なくシオン、迎え行にいってやる。」
真っ直ぐ、言いきる。
「ルイ、逝け。」
お、魔王降臨、とルイの呟き。
「そんな事 、言って、わかんないよ、あたしが、それこそ、明日かもよー。」
シオンは、二人に向けて 口にする。
そう、最後に残る 『未来が分からない厄災』は、明日 箱から、出るかもしれない。
シオン達には、『再会の希望』。
そして、きっと 誰か 欠ければ、必ずわかる。そんな気がする。
だって、繋がってる。んでしょ?
「そん時はぁ、・・オレが おまえを、焼いてやる。明日なら、アイツんとこなら 頼めるだろ?」
わざと明るく ルイは シオンに応えた。
「明日とか、冗談やめろ。例え、そうなるなら、俺が する。アイツも 新しい釜も買収して、シオンを逝かせる。」
あちゃー、
レンは、壊れたままだったかー、と シオンは思ってしまった。
「こえー。マジ、窯元だな?」
ルイが 苦笑いをしている。
「面白くないよ。」
まじめかっ!!とルイは
レンに 突っ込んだ。
シオンも、うん。突っ込む。
「釜じゃないよ、炉だって。」
ルイの車が、駅前につく。
「ここでいーのか?」
ルイが、シオンに、確認してくる。
「ありがとう」
シオンは、ルイの頭を 撫でた。
それにルイが
「じゃ、次、会う 葬式まで。」
と、泣きそうな 顔で答えた。
「そこは、来世でって言うところだろ。」
そう、言い放って、後部座席のドアを、レンが 勢いよく 開けた。
そして、シオンのドアを開ける。
シオンの手を取ってくれる。
シオンは その手てで、
車を出る。
そして、レンの頭も、撫でた。
「じゃあ、、、、来世で、」
レンは、猫のように、
シオンの撫でる手に、
名残惜しそうに、
すり寄って、離れた。
青蓮院の前、
この坂道からは 平安神宮の大鳥居が とても良く見える。
春の快晴に、
朱が映えて奥に見える。
シオンは、坂道を わざわざ振り返り、大鳥居を眺め、
そして、又前に向き直って、坂道を歩き方だした。
ちょうど、青蓮院前の邸宅結婚式場から、前撮りなのだろう 新郎新婦が、カメラマンと外門に出てきた。
桜の下で、
京都 らしく、
新婦は色打掛姿で、
新婦は紋付き袴だ。
そんな、人生で最高に幸せそうな姿を、シオンは 眩しく眺めて
喪服姿で 歩く。
琵琶湖疎水の 大津乗り場から、
舟で京都に入った シオンは、
蹴上の船着き場から、
歩いている。
春先の京都は、相変わらず 観光の人々で賑わい、季節の行事が 至るところで華やかに、行われている。
それでも、今シオンが歩く 坂道は、京都らしい小路でありながら、人の流れが少なく 散策には丁度いい道だろう。
只、
今日は 散策ではなく、『墓参り』
登りし坂が、
緩やかに下る頃、知恩院が見えてきた。
今日も、大きな車寄せ ロータリーは、観光バスが 入ってきている。
シオンは、そのまま知恩院の横にある門を入る。
円山公園だ。
「子どもの頃は、もっと大きいと、思ったんだけどなあー。」
シオンは、公園の中央にある、
『枝垂桜』を 離れた所から見つめる。
今は、どこも 小綺麗な気がする。
祖父に連れられて来た、
円山公園界隈は、シオンにはピンクの迷宮だった。
屋台も、見世物も、どこか裏へ入ると、怖いもの見たさで惹かれるような、
陰陽なモノや場所が存在した。
そんな、ど真ん中で 佇む『枝垂桜』は、
もっと妖艶な色と、
女神の様な 存在感で、
シオンは 絡め取られそうだった。
でも、今は違う。大人になったから?
その答えを 探しつつも、
シオンは 旅の終着地へ足を運ぶ。
豪奢な洋風建築、
門に、桜が咲いている、
長楽館の前で、足を止めた。
その前で、
夫婦が出す、花屋台があるのだ。
シオンは、いつものように、この屋台で、2つ、色墓花を買った。
この花屋台の直ぐ後ろ、
山部へと伸びる石畳が、
シオンいく場所の入り口だ。
石畳を 厳かな気持ちで、
歩く。
心静かに。
観光の繋争が絶え間ない、
八坂神社から円山公園の、
ほんの目の前に、こんなにも、静寂な場所があることに、
京都の深さを感じる。
祖父に手を引かれて歩いた石畳は、今日も、空は抜けるように明るく、香の煙が流れている。
石畳の先には、階段。
中折れで、知らない人なら、
この先には訪れる事はないだろう。
そのまま階段を上がると、社務所がある。
龍の手水で、手口を清めて、
建物の前を通り過ぎる。
奥にいくと、墓稜だ。
傾斜を利用して、無数の墓が並ぶ。
真ん中には六角堂。
シオンは 入り口で、柄杓と、水入れを手にして、墓稜を上がる。
一族の代々の墓は、
もちろん滋賀の本家近くにあった。
けれども、『三代目』は、終戦後に、墓を丸々 滋賀から出した。
そして、この京都に、移したのである。
一族にとって、一番縁の薄い場所でもある。
あえて、選んだのだろう。
祖父は、
「円山の『枝垂桜』が綺麗だから」
と、移動させた理由を シオンに話ていたが、
本心は何処だったのだろう。
ふと、シオンはレンとルイを思った。
今頃、話ていた、
守山でラーメンを食べ終わり、
自転車で、近江八幡宮から日野に 着くのではないだろうか?
水口あたりまで走れば、
ルイが言っていた通り、
春の田園の中を、
爽快に走れるはずだ。
「本当は、一緒に走りたい、かもねー」
シオンは、そう 言って
風に言葉を飛ばした。
空が、近い。
この場所は、高台にあるから、振り返ると、京都の盆地を見渡せる。
蛇口を捻って、ジャっと新鮮な水を水桶に入れて、
目印をみつける。
大人になっても、目印を覚えて、目指す場所に行くのは 、
なかなか骨が折れるものだ。
税引き後された、小路をいく。
見覚えのある 墓碑が見えた。
一族の墓だ。
水桶から、柄杓で水を掬って、タオルを濡らす。
ヒンヤリする 墓石を磨いて、
花立に、新しい水を注いだ。
そこに、色花を指しす。
石の水入れに、
新鮮な水をいれた、シオンは、
そっと、喪服のポケットに、
手を入れた。
取り出したのは、
黒のレースハンカチ。
この喪服の持ち主が、ポケットに入れていたモノだ。
「お祖父様、今日は、報告があります。」
シオンは、そのハンカチを 綺麗に広げた。
そして 万感の想いを込めて、ハンカチを、
墓石に被せる。
「今日は、よく晴れてますから、皆さんの『日除け』です。」
もう1救い、水を 注ぐ。
「叔母さんが、亡くなりました。もう、お逢いしたかもしれませんね。レンが、喪主です。ルイと あたしで、参列しましたよ。」
一筋、風が吹いて、
被せたハンカチのレースが
応えるように、棚引く。
「叔母さんにお願いに行ったのに、先にお祖父様にお話し行かれてしまいましたね。」
シオンは、ゆっくりと両方の掌を合わせ、
礼をとり、
合掌する。
「どうか、あたしを 入れて、ください。あと、レンとルイもです、って。一族で、最後に入ります」
顔を上げる。
祖父は、どこまでも シオン達を 分かっていたのだろう。
金庫に最後、残しくれた『希望』
最後に、シオン達が 一番幸せになる方法も、指し示してくれたとだとも、今、やはり、
シオンは全身で感じている。
あ、もしかして、今
レンとルイも、
あの樹の間に、立ってる?
だよね。
「なんでしょうね。こんなにも、未来が 幸せに思える様になるなんて。」
もう、
その日が来ることに、
怖さがない。
人は、やはり その時を怖れる。
でも、 そうではなくなった。
白い砂になって、
レンとルイと、
また、重なり、
交われる時になる。
それが、
酷く、愛おしく
涙が出る
「何故でしょうね。」
言葉には、ならない
喉の奥が ヒリヒリする
幸せの痛みに、胸の潰れる
そんな 感情。
シオンは、そのモノに
名前を見つける事は
出来ない。
叔母の喪服が、風に微風ぐ。
きっと、代々誓いを立てた、
あの本殿の前で
今 、二人が 報告してる。
繋がる
『ブブッブブッ』
電話が振動した。
シオンは、電話を耳に当てる。
「ママ?」
『シオン!貴女!どう?ちゃんと、出れた?』
電話の向こうで、シオンに名代を頼んだ本人の声がした。
「ママぁ」
『何?どうしたの?子どもの時みたいな声だして。』
シオンの目から、水が出る。
「今から、帰る。京都だから。帰りに、そっち、顔だすねー。」
ツーッと、頬を水が ひと筋。
『あら、そう?京都なの?なら桜餅買ってきて!!いつもの、八坂さんとこ、真っ直ぐ行った、』
それを、シオンは、そのままに。
「ハイ、ハイ、あそこのね。あっさり甘さの桜餅ね。好きだねぇー。」
流れるままに。
『そう、良くわかってるじゃない。ママが選ぶ、お菓子に、間違いはないのよ!!宜しく。」
そう言って、電話の主は、勝手に切ってしまった。
まあ、いいけど。
この母親がミラクル起こすのだから。
「さあ、お祖父様、もう降ります。序でに、八坂さんの『厄除けぜんざい』、食べて帰りますね。お祖父様が教えくれたでしょ?この時期だけ、桜餅が入るんだって。」
ザアーっと、甘いような香の香りがする。いつも、京の風は、雅な風だ。
今日は、その雅がことのほか
「花弁が混じって、」
「見目さえ、麗しいですよー。」
シオンは、水桶を手に
頬をゆるりと撫でた
桜弁を、手に
下界へ降りる。
墓石の 黒レースの ハンカチが、
桜の風で、
舞 消えた。
『春の雪、喪主する君と二人だけの弔問客』2020.3/29~4/20
=脱稿 さいけ みか
最後まで、読んで頂き 本当に、有り難うございました。
春の作品『春の雪、喪主する君と二人だけの弔問客~旅すれば恋はある』
完結です。
また 夏の作品を、お目見えできるようにと思っています。
『~旅すれば恋はある』を季節シリーズで、描きたいと。
追加ですが、続短編「喪主する君と青い春」を執筆始めました。
夏作品の序章エピソードです。
よろしければ、覗き見して下さいませ。
拙い文章、誤字等、お見苦しい箇所、すいません。
では、また来世なる前には。
次回作品を。