10話進んだので、
サイドストーリー5
『夜明けに逝くが、目覚める』
投稿しました。
今回は、亡くなった。叔母さんの
つぶやきです。
ちょっと説明的さが 否めない。
さて、次10話進んでの
サイドストーリーは、
ラスト、レンのつぶやき。
あと、12話ほどで、
この
『春の雪、喪主する君と二人だけの弔問客』完結です。
ここまで読んで下さり、
有り難うございます。
あとも、宜しくお願いします。
ルイは、ダルマストーブの火に照らされてか、顔を真っ赤に火照らせていた。
揺らめく ほの暗い明かりでは、確信はもてないが、シオンには ルイの目から ツッと 水が 落ちたようにも 感じた。
そして、いつにも無い 可細さで、
「やっぱ、、ハ ゲ、てんじゃ、」
と 言葉を漏らした。
シオンは、そんなルイを
「はーげ、はーげ。」
と、囃して 微笑みかける。
「もう、、つるっ、つるに 剥げてるんだろ?ルーイ。」
ルイの頭を、ワシャワシャ粗っぽく撫でて、レンが 口を弓なりにして笑顔になる。
わざと、ルイの髪をぐちゃぐちゃにして、レンは 手を離した。
「ごらっ!くそっ。オレぁ、、ベレー帽なんざ 被って、隠さねぇし。」
と、ルイは 乱された髪を 自分の手で掬いで 直して、レンを見た。
その、ルイをレンは斜に見ると、
「ルイは、親父似だろ?、俺の方が お袋の方を 継いでる。きっと、ルイは、俺ほどじゃない。安心していいよ。」
シレッと 牽制するかに、言う。
ルイは、また毛布を纏って、ふてて、寝転がった。
シオンは、レンとルイを 見比べて、肩を透かす。
「お祖父様が 、婚約通りに生きる事もあったよね?」
ふと、シオンが そう口にする。
「祖父ーさまが、そう思や、力尽くで、出来たろ!」
それには、急かさず ルイが 寝姿のまま、応える。
「なら、今、俺達は、誰も 此処にいないな。」
レンの冷静な言葉が、三人の間に横たわった。
そして、レンは 続ける。
「思いは別に、どうしても、外からの、婚姻を選んだと、 思うよ。」
シオンも、そうだと思う。
だから、お婆様は、大お婆様に冷たくされた。
お祖父様は、一族の慣習を 敢えて壊したのだと それで分かる。
それだけの
考えがあったのだろう。
「現に、お袋達の男兄弟は 育たなかった。お袋だって、男兄弟しかなくて 、全く一族の縁が無い家から、親父、探してる。」
レンは、重ねて語った。
「それでも、俺やルイは お袋方の気質が、出てるって、言われて来た。」
シオンが 繋ぐ。
「そうだね、うちも、全員女だし、親族で の婚姻は 限界だったかなー。時代も変わったし、ね」
ルイは 何げなく、電話を触りながら、自棄気味に言った。
「それで 自分ん事、抑えれんのか?それって何のためだ?だってよ、家は家で 婚約させてんだろ? Win-Winだろ。」
シオンは 反応して、寝返りをうったルイに 言い放つ。
「一族とお祖父様が、Win-Winでも、当の婚約者は違う!」
「いや、そりゃ、それこそ それはダメな関係だろーが。」
ルイが、シオンに上体を浮かして言った言葉に、シオンは思わず
「ルイ、それ、言う?!」
批難するように 声にした。
弾みに、掛けた毛布が 勢い落ちた。
ルイは、気不味そうに、シオンに背中を見せる。
「本当に、パンドラだね。」
ダルマストーブを 見つめて、手を 立てた膝に組んだ レンが 、シオンとルイの やり取りを止めるように、
「お祖父様の金庫。お祖父様は、幾つも意味を持たせて、凍めたんじゃないかな?」
と、投げ掛けた。
そんな レンに、何言ってるんだと言わんばかりに、下から ルイが 言い放つ。
「パンドラって、災いってかよ?」
そんな、ルイをレンは 上から 見据えた後、シオンに 視線を合わせた。
「力や欲も、因習も時代も。」
「後に続く様に一旦凍めた。そして、凍めた金庫を 残したんじゃないかな。」
そして、落ちた毛布を 手にして、シオンの体を包みこむ。
レンから 毛布を 掛けられるままにしていた、シオンは 眉を 不快そうに、寄せあげて、
「それは、、あたしに、なの?」
と、苦し気に 吐露した。
すると、レンは、シオンの頭をいつもの様に 撫でる。
「違うよ、さっき、言ったと思うけど、きっと『お祖父様自身への 戒め』だよ。シオンに 要求とか、何か迫ったり 、してない。」
「あたし、」
「それに、俺達の感情は、ちゃんと、自分の感情だ。つくられたモノじゃないよ。」
「例え、時代を動かすような 人達が 作った、血を継承する、仕掛け、されてたとしても、」
「絶対、俺達の 感情は、俺達のものだ。」
レンは、シオンの頭を撫でていた手を、シオンの頬に サラリと 移動させた。
「ねぇ、シオン、さっき、墓の話してたよね。」
急に、話を意外なところへされて、シオンは 躊躇ぎながら、
「もう、お祖父様のとこは、継ぐ墓守りがないし、」
「あたし、きっと他の家のに入りそうにないから、」
と、言葉にした。
シオンの頬に 添えていた レンの手が、シオンの 首筋まで ゆっくり這って、
「シオン、」
動脈のあたりで ユルリっと 撫でられる。
その指が、酷く 愛おしそうに
止まった。
「シオンが入る、墓。俺も 最後、入っていいかな?」
「え、」
まるで、
脈を測られるように、
首肌を抑えられると、
鼓動を
見透かされてるように、
シオンは、
感じる。
「俺、きっと、この先、孤独死だよ。」
もしも、否と言えば、
そのまま首を
どうにかされそうだとも、
シオンは、
感じていた。
「最後、シオンが入る、墓に、俺を入れておいてよ。」
レンの指から、
シオンと同じ
シャンプーの薫りが、
く揺る。
胸に吸い込むと
体中に染み
渡って
「いいなあ。それ、すごく 幸せだー、」
と、口から 溢れた。
レンは、
シオンの顔から
首をジッと
眺めて、
指を 離した。
と、シオンの足首に、縋る感触がして、
シャンプーの薫りが昇る。
「オレも、連れろ」
シオンが立てた足先に、
寝転がる ルイが
頭を
すり寄せて
いた。
そうしていたルイに
シオンは、
「じゃあ、三人でね。」
と、揃って、安心したように
微笑を口にした。
ルイが シオンの足首を
祈るように 持ったまま、
「なあ、パンドラの底に残ったモンて何だと、思うよ?」
レンとシオンに、訊ねる。
なに電話を、触ってたかと思えばだと、
シオンは、待つ。
「『未来の全てがわかる災い』だとよ。」
「・・・そこって、『希望』って、いうとこだよ。」
シオンが 答え合わせた。
すると、
この旅から、また燻り
あの夏から 追われる様に
子宮につながる場所に
感じた
『臍の奥の 疼き』が
昇化されたと、
シオンは 解った。
外の国道から
夜が明けるのが、
聞こえる。
『寝ずの番』が 終わる。
そして、朝は来る。そして、晴天。
「結局、停電、直んなかったねー」
目の下の隈を、メイクで誤魔化しながら、シオンは 二人に言った。
昨日の『寝ずの番』を
停電で過ごした シオン達は、結局そのままダルマストーブとカイロだけで、なんとか 暖をとる事が出来た。
けれども、春先に湖東を襲った、記録的大雪は、各所の電線に、湿り雪を乗せ、複数ヵ所を断線させたらしい。
国道を始め、雪による車両の走行が 難しいことも含めて、電力復旧が、大幅に遅れていると、出勤してきた、式場管理者が 説明してくれた。
「この度、雪による事情で、暖房が使用出来できず、ご不便御掛けしました。」
その式場の管理者は、今、 女性スタッフと共に、喪主である レンのところへ、いの一番に、声をかけに来ていた。
シオン達も、事務所のカイロを 非常時とはいえ、無断で使用したわけで。レンが、
「こればかりは、仕方ありませんし、カイロの代金も 支払いますね。」
と、極上の 笑顔を、張り付けて、面倒を無しにした。
この シオンから見れば、わざとらしい笑顔も、 見るのは最後だろうと 思う。
もともと、告別式を行わない、直葬の予定だ。
火葬場の1番時間に、間に合うように、雪も考慮して出発をする事になった。
レンが、シオンとルイに、予定の説明をする。
シオンは、昨日借りた『故人の喪服』を今日も、借りて着ていた。
葬儀には、都心部を離れた分だけ、独自の風習が 地域に 多少は、あるものだ。
この 式場は、地域性から、 出棺を 正面玄関からしないと 説明されシオンは、驚いた。
広いリビング式になっている 式場に、出窓があり、そこから お棺を運び出すようになっているのだ。
「すごいね、『古き良き』で、しかも、合理化!」
シオンは、思わず感嘆の声を上げたが、ルイも、
「棺桶運ぶのも、男手じゃあねーんだな。ふつうに台車だなあ。」
と、驚いていた。
少子化がすすめば、葬儀参加の数も少なくなるのからだな、と 変に二人で感心した。
出窓から霊柩車に棺が乗せられる。
それを 見守る、二人のところへ、レンが来る。
「シオンも、ルイも、もう式場には戻ってこないから、荷物全部、持っていくよ?」
レンが 昨日から、祭壇に飾っていた『若い叔母の遺影額』を、体の 正面に抱えながら、二人に促した。
「火葬してる間に、1回戻ってくるんじゃないのー?」
シオンは 意外そうに、レンに聞く。
「焼くのは、1時間半しか、かからないみたいだよ?向こうで 待てるみたいだからね。」
そして、チラッと腕の時計に目を流して、
「シオンは、ルイの車に乗せて貰って来てくれる? 俺は、霊柩車の助手席に、 額持って、乗るから。」
シオンに伝えて、託すように、ルイを見た。女性スタッフが、恥かみながら、レンに声を掛にくる。
霊柩車の助手席に、遺影を持った 『氷の貴公子』が乗ると、
『パアアアーーーーーン』
と、クラクションが 高く鳴らされた。
それを合図に、シオンとルイの二人が、合掌する中、
霊柩車は その体を黒光させて、 雪景色に消えた。
白銀の風景を背に
二人の美丈夫の手に依って
棺は
霊柩車から 丁寧に鉄の台車へ
降ろされる
親族が『遺影』を
体の正面に 抱え、
喪主が 遺影を手にするのを
静かに 待つ
晴天に 雪野原が 煌めき
鉄の台車に 棺が 乗せられる
一翼に 遺族である 喪主弟
対側に 親族である 女性
棺の先頭に 喪主が遺影
と共に立ち
船頭となる
棺を乗せた鉄の台車が
左右の遺親族に
押され斎場へと進む
真っ白な洋風の棺
故人の趣味による 白雪姫の棺
朝 最初の時間 他に 人は無く
厳かに静まる
炉前室に
棺は静かに運ばる
火葬師が一礼 喪主を迎え
棺の傍らに
遺影と焼香炉の
祭壇がつくられた
喪主と二人だけの弔問
納めの式が 行われる
僧侶による送りの読経は 無い
遺親族のみが
自ら故人を送る 儀式
白雪姫の棺の蓋が
火葬師の手で 開けれられ
『おくり花』を 棺の中に
丁寧に手向けていく
喪主と遺族
親族が
故人の骸の回りに
純白の白百合を
入れていく
只無言で 手向ける儀式
遺族弟は 涙を流す
親族女は 流れる事無いよう
白百合を抱き堪えている
『おくり花』を手向ける刹那
焼香の儀が 行われる
喪主を先頭に
白百合を 手向け
合掌をし
抹香を 押し頂き
炉の炭へ 落とす
香煙が 螺旋を描いて昇る
合掌
また一人 遺族弟が
白百合を 手向け
合掌をし
抹香を 押し頂き
炉の炭へ 落とす
香煙の 螺旋が
更に強まり描いて昇る
そして
また一人 親族女は涙が
目立たぬように
白百合を 手向け
合掌をし
抹香を 押し頂き
炉の炭へ 落とす
香煙が 絡まり
螺旋を描いて昇った
水に湯を足し つくる
『末期の水』を
綿くくりの箸に
含ませる
故人の唇を濡らす
骸に
唇に綿を
這わせるのを
一人 一人 また一人
最後 親族女が 胸元から
黒レースのハンカチを
取り出す
開かれると
中には剃刀が 収められ
喪主は 驚いて親族女を見つめる
頷き 喪主は
故人の頭
頭髪部分に ゆっくりと
抜刀するように
剃刀をあてた
仏の道へと旅立つ
世俗からの別離を示す
焼香が行われる
白百合を 手向け
合掌をし
抹香を 押し頂き
炉の炭へ 落とす
香煙が 螺旋を描いて昇る
戻らぬ水を含ませ
三人による 礼の仕草である
棺の蓋を覆い締める
棺につけられた
小窓蓋を
観音開き
生 最後の別れ
小窓蓋が閉められ
鉄台車が ゆっくりと
火葬炉の扉の中へ
押し進められる
棺が炉室へ 入る
扉は閉められ
鍵はかけられる
鍵は喪主の手に渡され
炉前室から
炉の小窓前で
喪主は釦を押す
炎が炉に回り 喪主確認が
終わる
一瞬にして 火が廻る
ただ 三人
炉の炎を見る
骨を 後 拾う已
文字の連なり
弔問客の
列の如し
古来から、
人が生まれる時間、死の時間、と
潮の満ちる時間、引く時間の関係を 「知期表」として、表し体系する流れがあった。
現在も臨床の場で 意識されることも、少なくない。
月と太陽、地球にて引力が働く中、海洋は その引力により、高速度の潮流をつくる。
引力は、地球における海洋のみならず、巨大な湖にも働きかける。
琵琶湖は 100万年以上前から存在する、世界でも数少ない 古代湖でもある。
それ故 、湖底には100以上の遺跡も内包する。
注ぎ込む支流は、約460河川。
歴史の中で、水上航路として活用され、湖岸には 多数の港がある。
日本海の若狭湾から 陸揚げされた物品は、琵琶湖から、京、大坂、瀬戸内海へと運ばれてきた。
県内一級河川、琵琶湖。
それだけ、支流が流れ込むにも、関わらず、出流川は、たった1つ。
瀬田川のみである。
その為、滋賀には 二級河川が存在しない。
そんな
海ではなき 琵琶湖にも、
『満ち引き』は存在する。
潮のような大きな、水位変化ではなく、
引力による震え、
『精震』である。
それは、常より 琵琶湖と共に生きる人々が ようやく感じる事が
出来る わずかな 潮流である。
時間は30分ほど。
わずかな時間であっても、
その震えは 水中を泳ぐモノ、
水上を行くモノに
体感として 伝わる。
潮のリズムと、
人の呼吸のリズムは同じ。
鮭は、満ち潮の時に 遡上して、
産卵をする。
人は月の引力に押されるように、
生まれ、引かれるように 逝く。
水上から顔を出して、
息をして 生まれた人は、
逝く時、潜るように、
大きく息をを吸い込んで、
終わる。
シオンが、夏。
水中で抗うことが叶わなかった
流れは、
マザーレイクの 震え
だったのだろうか。
「あれだな、変なヤツだったな。」
ルイは 石のベンチに
骨壷と 座りながら 、前方の風景を 只、見ているような 風にしながら、
隣に座る シオンに投げ掛けた。
「そーだねー。変なひと、だよねー。」
シオンも 同じく、
石のベンチに 座りながら、目の前の車寄せの向こうに広がる 田園を、只 眺めているように、
隣のルイの問いかけに、応じた。
シオンの 向こう隣には、
石のベンチに 仰向けに体を横たえた、レンが 片腕で、顔を覆っている。
レンとシオンの 間には、
『若い叔母の遺影』が 立て掛けられていた。
晴天の空の下に、斎場の門の向こうには、春の田園と、太陽に水面を、白光する水の風景が開けている。
レンが助手席に乗った 霊柩車は、琵琶湖畔の 斎場に、シオンとレンを先導した。
式場にも 最近の傾向に、
驚かされたシオンだったが、この斎場にも 驚いた。
ちなみに 最近は、火葬場ではなく、『斎場』とか言うらしい。
「この『斎場』?ってゆーのも、驚いたけどねー。」
シオンは、さらに 言葉を重ねた。
「こんなに、里棟モダンな外観なのも、ちょっとした オリエンタル石室みたいな 内装も。お洒落なんだねー。イメージ変わるよ。」
そうは言いつつも、
シオンとルイは、視線を交わす事なく、前の田園風景を 見つめていた。
「どっかの、リゾートホテルグループ、やってそうだもんなぁ。Japanテイストとかいってよ。」
湖畔に佇む、3棟の低層モダンな建物が各々、
火葬炉棟、
告別・収骨室棟、
控えホール棟に なっている。
シオン達は 直葬なので、火葬炉棟の、それこそ炉前室で、全て終わらせた。
炉前室で 『納め式』を行なって、その時間まで待つ。
そして、また炉前室で 『骨拾い』を、さっき までしていたのだ。
「なんだな、雪だな、雪で、停電中、つー、せいだろうな。」
ルイは チラリと、自分と シオンの間に横たわる レンを 見舞って言った。
結局、今も 停電続行中だ。
幸いにも、火葬炉は 高温都市ガスで稼働に、問題はなかった。
ただ、他は昨日の夜と同じ状況になる。
本来なら 『焼き終わる』まで、端の控えホール棟で 、アナウンスがあるまで 親族は待つ。
けれども、シオン達は 停電による 照明と、暖房のストップで、またもや、 ダルマストーブで 暖を取りつつ、 炉前室で 待つ事になったのだ。
その際、式場から段ボールごと 貰ったカイロが 役に立った。
いろいろ役立つカイロだ、と シオンは ニヤリとして思う。
「昨日から、ダルマストーブに、好かれているよな。」
そう言って、ダルマストーブに乗せられた、薬缶を見つめて レンは面白そうに目を細めていた。
控えホール棟では、丁寧な事に、簡単な ポット茶と、焼菓子が要因されているらしい。
が、停電の為 ポットも使えないからと、薬缶にお湯を点てて、紙コップを用意してくれた。
これが、駄目だったのかも?と、シオンは追想した。
「すいませんっ、雪で停電な上、職員が遅れてましてっ。」
暫くして 奥から出てきた、若い火夫?が 説明らしき 言葉を、掛けてきた。
「本当は、前室を預かる係がいるんですがっ。雪で、遅れてまして。」
と、あまりに、1人で対応していそうな感じに、シオンが気の毒になってしまった。
だから、ダルマストーブのお茶受けに、鞄から忍び出した『丁稚羊羹』の笹の葉を開けたのだ。
確かに、あんなとこで、ちょっとどーかなと、思ったんだけどさ。
それが、餌付けになったのかもしれない。
シオンが、つらつら思っていると、
「ちたぁ、1人は、今日、大変だな。火夫?のやつ。」
ルイが、呟く。
そうなのだ、若い 職員は、自分を
「 まだ 新米で、中の所作にしても、先輩にまだ 追い付かないですよ。」
と、ダルマストーブの前で 話ていた。
『中の所作』?。
最初、聞いた時 シオンは、 かなり 目を細くした。
やれ、
「停電はしているが、ガスで対応出来るので そこは、いつもと変わらず、安心してください。」
とか、
「自動電動は、手動という 貴重な体験を積めました。」
とか。
「『中』の後、自分が 骨上げの方に すぐ参ります。いつもは、先輩が説明させてもらうんですけど。」
とか、いいながら
『中の所作』なんだろう、暫くした 戻って行った。
シオンは、炉前室で、待つ間
懸命に、『中』で棒を操る 火夫の姿を 思っていた。
「ここ、3基ぐらいあったよねー、釜、大変だよねー。」
シオンが呟く。
「…釜じゃねーだろ。炉だろ。
火夫?ったか? なんだか、あけちゃいけねーモン、開けた気分だぁな…」
それは、全く同感だと思って、さっきの事を 思い出す。
まだ 横たわる レンの髪は、湖畔からの 風を受けている。
シオンは そんな レン を見舞って 、
お蔭で、
『救われた』と 晴天の 空を見上げた。
『皆さん、どうぞ、終わりました。』
新米 火夫 の声かけで、
シオン達は 出された、鉄の台車に近づく。
そこを、光が指していた。
斎場の炉前室は、高窓から 自然光が入る設計。
停電で、電気は使えなくとも、炉前室は、晴天の太陽が 明かりと差し込み、反って神聖さを出している。
「『箸をたがえる』という 非日常の作法を行う、意味があります。」
そう 新米の火夫が 説明を しながら、『竹と木のたがい箸』を
喪主の レン、遺族の ルイ、親族の シオンへと 静かに 渡していく。
鉄の台車の上に 向き合う。
まるで、白く焼いた 大小の器が、散乱 置かれたようだ。
台車をはさんで、遺族 ルイと親族 シオンが立つ。
頭だという位置に、 喪主 レンが立った。
全て、喪主から 始まる。
火夫 による『骨上げ』、人体解説が 始まる。の、はずが。
「あ! この箸、使い難いですか?この箸で、三途の川を渡るときの橋渡しをするんです。なんとか 上手に使って拾いましょう。」
鉄台車を中心にして、
互い違いの箸を手にする 三人と、
白手袋の 火夫が 取り囲み
さながら、エジプトの石室で
作業をしている 気分になるのは、
何故だろうと?こんな考えも、不謹慎だー。
シオンは、ちょい、ちょい、火夫を見やり 思った。
言われた様に、まず、レンが箸を入れて、、両側から、ルイ、シオンの順番に足の骨 から摘まんでいく。
「私は、生まれも、育ちもこの地元ですから、琵琶湖が川で海ですよ。マザーレイクですから、故人さまも、琵琶湖に戻られたんですかね。」
骨壷を開けて、ニコニコしながら、新米は 口上以外の話も、ちょいちょい、入れていくるのだ。
「今日は、多くお見えになる感じが、したんですっ。こう、琵琶湖が震える感じで。」
いつもは 先輩がすると、言った人体解説。大丈夫だろうかと、シオンは 向かいのルイをみた。
「そんな日は、旅立つ方の お手伝いで忙しくなります。あ、間、空けると、体の全部が 入りませんので、丁寧にっ」
向かいの、ルイが 一瞬 骨壷から箸を出し。シオンを見る。
「足の骨から、体の上の骨へと、順番に拾い上げるんです。生きている時と 同じになる様に、骨壺に納めますよ。」
喪主のレンから 始めて、ルイ、そしてシオンの順で 拾う。
「でも、こんなに、ゆっくりと 『骨上げ』が出来るなら、雪も悪くないです、きっと雪も偲んでますよ。寒いと、多く来られるので、慌ただしいです。」
レンが、大きめの骨を 壺に 入れた。
「これ、一際 大きな骨は 大腿骨ですよ。あぁ、入らないんですね?じゃっ!!」
『パキン』
あ、手で、割るんだ?手袋してるけどねー。
ルイも、そんな顔を、向かいでしている。
「都会だと、1日で 90組とか あるんです。入れ違いで、炉前室に入って。 ゆっくりお別れとは、ならないですよ、」
いや、それ、何人で『中の所作』する?! もしや1人?と、シオンは 内心、つっこみまくる。
「これが第二頸椎、喉仏です。うん、綺麗きれいに残っていますよ。ほら、こうすると、座してる、仏様のように見えませんか?」
レンに、火夫が 1つの小さな骨を示した。
「骨がキレイに残るようにー、うん!残ってます。昔は、『末期の水』を含ませて、喉仏を見たんです。最後まで、故人を支えた骨なんて、思えない 控え目さですね。」
レンが、火夫を 見つめる。
「じゃあ、最後に、故人と 縁の深かった方、喉仏を 納めて下さい。」
「え、」
三人の箸が、止まる。
声にはしないが、全員が
『この場合、誰だ?』
と、脳裏で考えを巡らせる シオン。レンと、ルイも そうだろう。
「レン、どうぞ。」
「いや、俺は ここに居なかったし、ルイだろ。」
「どーだろ?てか、シオンが オカンの気に入りだろ?」
どーぞ、どーぞのネタみたいな 感じだ。
「じゃ、喪主さま、どうぞ、!!」
なら、最初から喪主にと 勧めてくださいよ。という、目してるよね、ルイ?
シオンの目も、白く細まる。
「はい、その上に、この 頭蓋骨で『蓋』をして、終了です。」
はーと、と三人は 息をついた。
エジプトの石室作業を、大学講義された様な 変な疲れがする。
そう、帰る気持ちになっていた。
「それにしても、この故人様は、羨ましいです。一体何の徳を積んだら、こう 逝けるんでしょうね!」
新米火夫は、閉められた骨壷を 風呂敷で包んで、レンに渡す。
「故人様には、新品の炉を 使って頂けましたから。良かった」
『???』
鉄の台車には、全部は入りきらなかった白く薄く骨が、残っている。
「ああ、新年度で、炉を1つ新しくしたんですよ。雪で、到着が遅れて、そのまま故人様が使えまして、新品の最初です!」
シオンも、レンも、ルイも 鉄の台車を 囲んだままだ。
「たくさん方の、お世話させてもらいます。これからもですが、」
シオンの目から、ツーっと水が落ちる。
「こればかりは、自分じゃ、どうにもならないですから、羨ましいです。できる、ことなら、僕も、新しい炉で逝きたいです!」
シオンは、自然と レンに言葉を 現した。
「レン、、、良かったね、、叔母さん、良かったんだよ、本当にーーー
その後は、シオンの言葉は、レンの号泣する声で、消えた。
驚いて、みた、レンは、
両目から 涙を 溢れさせて、
決壊したように、声を挙げていた。
ルイも 嗚咽を 食い縛って、涙を腕で拭っている。
火夫と、三人だけの 炉前室に、
レンの声が響いている。
『骨上げ』は「グリーフケア」としての場でもあると、聞いた事がある。
長きを共にした 『肉体』が消滅し、果てた『遺骨』を 遺族は 目の当たりにする 哀しさ。
人体解説は、『死者』と『生者』との 緩衝材にもなってくれるという。
死別を、ただの喪失にせず、
これからを生きる、残された「自分を知る」機会になると。
新米火夫も、目を皿の様にして、
レンを 見ていたが、
小さく頷いて、消えて行った。
豪雨に撃たれるような、
嘆きを挙げるレンには、
今どんな 哀しみが、降っている?
シオンは、
大人の男が 激しく泣く姿を
初めて 見た。
『カッコー♪ー、カッコー♪ー』
信号機の音響が
鳴っている。歩行者はない。
どうやら、停電区域を出たらしい。と、シオンは ホッと一息ついた。
シオンは、ルイが運転する車で、助手席にいる。
後部座席には、後ろ向きに、レンが シオンの鞄を枕に、寝転がっているのが、ミラーから分かった。
「レンは!壊れたな!」
そう 言って、ルイは ウシシッと面白そうに口端を上げる。
「こわれたー。こわれたねー!」
シオンも、フロントガラスから 琵琶湖を見たまま、ルイに合わせた。
湖面が キラキラしている。今日は 嘘みたいに、晴れた1日になるだろう。
「アイツさ、変なヤツだったけど、いいヤツだよな? ま、知らねーけどよぉ。」
BGMもラジオも 点けないまま、ルイは車を走らせている。
「なんか、天然っぽいかも?だけどー、あの仕事、あってるんじゃない? てか、知らないけどねー。」
斎場から なかなか、動こうとしないレンを、無理矢理 ルイの車に乗せて、シオン達は 車を走らせた。
そこで、シオンは ルイに、折角だから 湖畔の道を 走って欲しいと頼んだのだ。
「しっかしよ、びっくりしたよなぁー。アイツ なんか言ってたろ?今日は 多いだとか、なんとか。マジだったな!」
ルイは 指をわざわざ 1本、シオンの頬に出す。それを グイッと 戻して、
「霊柩車、3台だもんねー。」
と その光景を思い出して、シオンは笑った。
炉前室で、決壊したように泣く レンを 、シオンとルイは、抱きしめた。
夏に、三人丸まって、抱き合いそのまま、眠った日のように。
それから、レンを真ん中に、三人は 横に繋がったまま、斎場外に出る。
レンは、号泣は しなかったが、涙を流すのを すぐには、止めなかった。
だから、シオンとルイも 付き合い、玄関外にあった 石のベンチに座っていたのだ。
ルイは、そのまま石のベンチに 仰向けに横たわった。その ままになった。
昨日から、ずっと『喪主の気負い』もあったのだろう。
シオンと、ルイは、雪が残る 斎場の玄関外で、斎場の門の 向こうを見ながら、なんとはなく 話をしていたのだ。
さっき 炉前室で 仕込んでいたカイロが、そろそろ冷えてきたから、ルイの車に積んでいる カイロを追加で、開けようか?と 思っていた。
すると 急に、門の外から 立て続けに 霊柩車が入ってきたのだ。
それも、3台続けてだった。
ルイも 門から続々と侵入する 霊柩車に、呆気にとられている。
そうすると、マイクロバスが、その後に3台と、乗用車が2台入ってくる。遅れて タクシーも。
新米火夫が 言っていたように、今日は 予約が 怒涛のように入っている らしい。
雪で遅れていた、職員らしきスタッフも 何人か 通り過ぎていく。
先輩かな?っと、シオンは思った。
玄関が にわかに慌ただしくなり、
さすがに、このままでは居づらい。まだ 寝転がっているレンを、無理矢理起こして、ルイの車で 斎場を後にしたのだった。
「アイツ、あんな感じだと、先輩とか ゆーヤツに、けっこー扱かれるタイプだよ?なあ?」
やっぱり ルイは、ウシシッと笑っている。
「かもねー。」
シオンは、相づちを打って、
「でも、あの人なら、あたしも、最後は 焼いて貰いたいかも。」
本心から、言葉を口にした。もしかしたら、その頃には カリスマ火夫かも?と思ってしまったのだ。
シオンも、ルイみたいに、ウシシッと笑った
と、後部座席数から
「アイツ、シオン、気に入ったんだよ。」
と あからさまに、不機嫌な レンの声がする。
「壊れてたんじゃねーのか?レン?」
ミラーごしに、ルイがレンの背中を見るのが 分かる。
「・・・」
とくに、返事はないので、シオンは 話をすすめる。そもそも、『変なの』に 気に入られるのは、シオン的には 今更だ。
「ねぇ、てかさ、ルイ。これ、何処向かってんの?」
まだ、湖畔沿いの道路を ルイは走らせているが、 行き先は聞いていない。
「決まってる?オレん店だろ?」
ハンドルを握って、ルイは嬉しそうだ。
「堅田のカフェレストラン?!ー」
「イエーっス!。 レンは 壊れてんだろ? 適当ーに、野洲にでも 下ろすからよ、来いよ、オレんとこ。飯だすし。」
そう ルイが シオンに顔を向けた と 同時に、ルイの頭に カイロがぶち込まれた。
「あだっ!!って、レン 運転してんぞ!事故る気かぁ!」
片手で、頭を擦るルイから、シオンは、後部座席に 目をやる。
積んでいた、段ボールから まだ カイロを手にした、『氷の貴公子』が、
いつの間にか 降臨している。と、シオンは 嘆息をついた。
「・・・」
無言のレンを 見たまま、シオンはレンとルイに
「大津で 下ろしてくれる? あたし、船の時間が ある。」
と、 笑顔で 伝えた。
「あたし、まだ 旅の途中なんだよ。」
シオンは、石と煉瓦造りの水門を
疎水舟の乗り場から見上げた。
舟に座ると、水の匂いがする。
柔らかな 琵琶湖の匂い。
大津市三井寺の取水口。
この界隈は桜の名所で、山桜が枝下り「大津閘門」を飾っている。
2つの水門に 船を入れ、水位を調整。水門を開けて航行させる。
パナマ運河みたいなものだと、
ガイドが説明してくれた。
この門から 琵琶湖の水は、京都に流れる。
それは『水の路』だ。
シオンのルーツを巡る1人旅は、この疎水通舟の向こうに、ゴールがある。
琵琶湖は、460もの支流が流れ込むが、出河川は 只1つ。
しかし、もう1つ疎水による、水出がある。
マザーレイク2つの 生まれ出ていく 水の門。
ここから、シオンは 一族の墓がある、京都へ入る事にした。
それが、ルーツの旅 終着だ。
疎水は1メートルしか 川底がない為、自然と目線が低くなる。
水面を 這うように 舟。
その臨場感は、胎内巡りに似ているかも、とシオンは ドキドキした。
かつては この疎水を使って、大津~大阪間を 米、炭、木材、石材、紡績といったモノが運搬された。
物流だけでなく、遊覧船も行き交った。
また、疎水は、『水』そのもの、を運び、南禅寺別荘群の庭園用水となる。
京都の蹴上を目指して、疎水舟はゆっくりと進む。
ほどなく、 緑と山桜が造る 壁の中に、洋風玄関の如く トンネルが 見えた。
1番長い 第1トンネルだ。
入り口には、伊藤博文の
『気象萬千』額があり、意味は『様々に変化する光景は素晴らしい。 』である。
まさに、疎水からの風景そのものだと、シオンは思う。
ここからは、薄暗い トンネルに突入。
まるで、胎内の様な感覚が 延々と続く。そして、トンネルは寒い。昨日から、カイロが大活躍だ。シオンは、ポケットを触る。
まだ、暖かった。
と、突如
光の滝がみえた。
『竪坑の落水』
凄い勢いで、トンネルの上から水が落ちている。アトラクション並みか?
舟の透明な屋根に、容赦なく 滝が落ちて、スリリングだ。
湧き水や 貯まった雨水が、竪坑に流れて、降り注ぐという。
雪のせいだろうか、
竪坑から 勢いのよい、
滝の様な水音を 後ろに過ごして、舟は まだトンネルを進む。
前に光の無い、心細さ。
第2トンネル東口。
出口 には、
『仁以山悦智為水歓』額。
『仁者は動かない山によろこび、智者は流れゆく水によろこぶ』
『知者』は自身を楽しませる方法を得て賢く、豊な知識を持ち、自身の事が出来る。
『仁者』は周も楽しませ、 求めば助言し、必要なら、叱咤す。時に、人の為に損し、言われなき誤解を受けても、『仁』の心で思いやる。『仁者』を目指す人生、生きがい有。
その、額の心は?
シオンは自身に問う。
このような人を
もう、シオンは知っている。
胎内の様な、トンネルを、
抜けた。
太陽で シオンの目が 眩む。
ここからは、なんとも里山な 山科エリア。
闇の向こうに
ひろがる菜の花 、桜、
ぼけの花が 楽しい。
疏水沿いに、山桜660本の並木が、疎水の 天井を飾る。
遊歩道を散策する人 が見えた。
こちらを写真にとっている。
シオンも 先輩に送る為に、
写真だ。
相手が、手を振る。
良い舟旅をと。
良い人生を。
穏やかな『疏水みち』は
どんどん、次のトンネルへ進む。
第3トンネルの東口には
『過雨看松色』の額。
『時雨が過ぎると、
いちだんと鮮やかな
松の緑を見ることができる』だ。
水と共に生まれる瞬間を
シオンは、額に描いた。
こうして、
最後のトンネルを出ると、
すぐに 朱塗りの橋がみえてきて、
左奥に
旧御所水道ポンプ室が見えた。
約1時間の船旅。
滋賀から 疎水トンネルを抜けると、
そこは京都。
纏う空気が別物に、
そう雅になる。
水はもう鴨川の匂いだ。
シオンは そう感じて、
舟を降りた。
昔は、このまま蹴上のインクラインで陸上げて、鴨川に船は入った。蹴上の船着き場。先を行くと南禅寺の水路閣だ。
さらに、疎水は、京、宇治、大坂、瀬戸内海へと流れる。
都の桜、観光の響き、香の煙。
この蹴上から移動した場所に、
一族の墓はある。