白銀の風景を背に

二人の美丈夫の手に依って
棺は
霊柩車から 丁寧に鉄の台車へ
降ろされる

親族が『遺影』を
体の正面に 抱え、
喪主が 遺影を手にするのを
静かに 待つ

晴天に 雪野原が 煌めき
鉄の台車に 棺が 乗せられる

一翼に 遺族である 喪主弟
対側に 親族である 女性

棺の先頭に 喪主が遺影
と共に立ち
船頭となる



棺を乗せた鉄の台車が
左右の遺親族に
押され斎場へと進む

真っ白な洋風の棺
故人の趣味による 白雪姫の棺


朝 最初の時間 他に 人は無く

厳かに静まる
炉前室に
棺は静かに運ばる

火葬師が一礼 喪主を迎え

棺の傍らに
遺影と焼香炉の
祭壇がつくられた

喪主と二人だけの弔問
納めの式が 行われる

僧侶による送りの読経は 無い
遺親族のみが
自ら故人を送る 儀式



白雪姫の棺の蓋が
火葬師の手で 開けれられ

『おくり花』を 棺の中に
丁寧に手向けていく

喪主と遺族
親族が
故人の骸の回りに

純白の白百合を

入れていく
只無言で 手向ける儀式

遺族弟は 涙を流す
親族女は 流れる事無いよう
白百合を抱き堪えている


『おくり花』を手向ける刹那
焼香の儀が 行われる

喪主を先頭に

白百合を 手向け
合掌をし
抹香を 押し頂き
炉の炭へ 落とす

香煙が 螺旋を描いて昇る
合掌


また一人 遺族弟が

白百合を 手向け
合掌をし
抹香を 押し頂き
炉の炭へ 落とす

香煙の 螺旋が
更に強まり描いて昇る

そして
また一人 親族女は涙が

目立たぬように
白百合を 手向け
合掌をし
抹香を 押し頂き
炉の炭へ 落とす

香煙が 絡まり
螺旋を描いて昇った


水に湯を足し つくる
『末期の水』を
綿くくりの箸に
含ませる

故人の唇を濡らす
骸に
唇に綿を
這わせるのを

一人 一人 また一人


最後 親族女が 胸元から
黒レースのハンカチを
取り出す
開かれると
中には剃刀が 収められ

喪主は 驚いて親族女を見つめる

頷き 喪主は
故人の頭
頭髪部分に ゆっくりと
抜刀するように


剃刀をあてた

仏の道へと旅立つ
世俗からの別離を示す

焼香が行われる
白百合を 手向け
合掌をし
抹香を 押し頂き
炉の炭へ 落とす

香煙が 螺旋を描いて昇る

戻らぬ水を含ませ
三人による 礼の仕草である


棺の蓋を覆い締める

棺につけられた
小窓蓋を
観音開き

生 最後の別れ


小窓蓋が閉められ
鉄台車が ゆっくりと
火葬炉の扉の中へ
押し進められる

棺が炉室へ 入る
扉は閉められ
鍵はかけられる

鍵は喪主の手に渡され

炉前室から
炉の小窓前で
喪主は釦を押す

炎が炉に回り 喪主確認が
終わる

一瞬にして 火が廻る

ただ 三人

炉の炎を見る

骨を 後 拾う已




文字の連なり

弔問客の

列の如し