『ウーーー。ウーーー。ゥーー』

国道を 喧しく、サイレンを鳴らして走るのは、パトカーか、消防車か?
すぐに、音は小さく遠退いて行った。

「ママが言ってた『幻の饅頭』は、もう 出来ない 和菓子だった。残念だけどねー。」

そう言って シオンは 爪先が冷えて、足と足を擦り合わせ始める。

「子どもん時 食った、『旨い菓子』か。どんなモンか、まぁ… 気になるわな。てか、また冷えてきやがったか?」

電話から視線を外さずに、寝転がとていた ルイが、シオンの足に 視線を向ける。

「ちょっと、寒いかもね。あたし、小さい カイロ持ってたかも。出そっかなー。」

シオンが 横着をして、和室に置いている鞄に、延び 寝転がって手をかけようとすると、レンが 立ち上がった。

「事務所に、大きい カイロ置いてた.。見て来る。あれ、使おう。」

そう 和室の襖を開けて、レンは 手にした 電話の明かりを 頼りに、事務所へ入って行った。

手を付いて 起き上がろとする、シオンに、ルイが 自分の毛布を 広げて、
「一緒に入っとくか?」

読めない表情で聞いてきた。
シオンは 目で笑って答える。

「止めとくよ。」

「 ん、ガキん頃は やってたろ?」

「レンに、殺される。」

そう シオンが、ルイに言った時、開いた襖から、ルイの頭に 数個のカイロが 連打剛球の如く、打ち付けられた。

「いった、!!ごらっ!」

そう、ルイがレンに言った側から、容赦なくルイの顔面にレンが2連射目のカイロ連弾をぶち続けて、

「シオンは、『幻の菓子』見つからなくて良かったじゃないか?きっと、大人で食べたら、他が食べられなくなる。だろ?」

レンの顔は、最高に、口弓なりの笑顔だった。
シオンは、その顔に 呆気にとられるが、立ち上がって ダルマストーブをチラ見した。

「だねー。きっと、子供が 拗らせるような、魅惑的スイーツ。今 、手に入たら 虜だね。」

と、答えたが、もう肉弾戦ならぬ、カイロ弾戦が始まっていて、二人が聞いたかは、怪しい。

投げられた、カイロ弾を拾って それを、今度は ルイが 襖横に立つ、レンの顔面にぶち込んだのだ。

その間に、レンも 持ってきたカイロの 段ボールから カイロ弾を補充しながら、ルイの顔を目掛けて連投する。レンもルイも、切れていた。
和室は、カイロ弾が飛びかい、シオンは、ダルマストーブをカイロから 死守するしかない。

あっと、言う間に 部屋は カイロまみれになった。レンと、ルイの息が上がっている。

落ち着いたところで、シオンが言う。
「ストーブの火に、危ないって。葬儀場で、洒落になんない。」


お互い 最後に持っていた カイロがを

『うぉっらあーー!』

っとか何とか 怒号と一緒に、互いの頭に投げ打ち付けて、止まった。少し、レンもルイも気がすんだだろう。

何事もなかったように、ルイは 散らばったカイロを1つ開けて 胡座をかくと、

「しっかし、そのご隠居も よく覚えてたもんだな。しっかりしてら。」

レンを ガン見しながら言った。

シオンも、散らばるカイロを1つ拾って、

「覚えてたのは、お祖父様のベレー帽だって。 あたしも、お祖父様達でしか、ベレー帽を被る男の人知らないかなー。」

と、袋をあけて、立ったまま ズボンのポケット に ねじ込む。

「そうか。ベレー帽は 日野の叔父上のトレードマークって感じだけどね?」

そう レンは言う、自分の周りに散乱している、カイロを 少しかき集め、持ってきた段ボールに 入れる。

「え?!」

そのレンの言葉を聞いて、シオンの何かが ひっかかった。

「日野の叔父様?、お祖父様からじゃなくて?」

急に聞いてきた、シオンの顔を 不思議そうに見ながら、レンは カイロを1つ開けた。

そして、シオンに もう一度言う。

「ベレー帽は、日野の叔母上が、叔父上の『頭』を気にして、贈り物したんだよ。そしたら、お祖父様から、あの年代の男親族で、 ベレー帽被るように、なったんだけど?」

そこに、忌々しそうな顔の ルイが、

「なんせ、うちの男どもは、全員 、頭、薄いかんな!!」

と、言って レンの頭に、カイロを投げる。そして、ガードするように、毛布で頭を 覆った。

レンが、珍しく 表情を作らない。

「それ、禁句だろ。さっきといい、口、開けすぎで、頭沸いてるじゃないのか?」

氷のような、レンの声がした。

シオンは、冷気か、無意識に カイロを もう1つ拾って 開けた。

「ね、レン。あたし。お祖父様がベレー帽を被ったから、当主を真似て、思ってた、、違うんだ。」

そういうと、シオンは ペタリと畳の上に 力無く座った。

レンは、座ったシオンのすぐ横に、ゆっくり カイロの段ボールを置く。

「当主のお祖父様がする、スタイルに憧れて、って思ってた?」

散らばる カイロを レンは手で集めている。シオンは、ふと思った。

「ねぇ、レン。生まれる前から 決まってる相手って、お祖父様は どう 思ってたんだろ? だって、従兄妹だよね。」

シオンは、どこか 独り言のように、聞き始める。
レンは、ルイの周りに散らばるカイロも、集めている。

「べっつに、従兄妹だろうが、問題ねぇだろ。」

そう、ルイが、毛布を被ったまま、自分の後ろにある カイロを、レンの頭に 投げながら 言い放つ。

シオンは、毛布のルイを見る。

「ほら、ルイ 言ったよね。日野の叔母様と、叔父様は兄妹だって。あたし、全然 夫婦だって 思ってたけど。それって、」

ルイは、毛布を頭から被ったまま、無言で ゴロンと 寝転がってしまう。

レンが、ルイの代わりに答えた。

「お祖父様は、婚約者の心を、手に出来なかった。その相手達は法的にも 、婚姻できるわけ、ない。」

仕方なく決められた関係なら、お祖父様は 叔父様を真似たりしない。
そして、日野の叔母様達も婚姻 叶わない、家族という関係。シオンは、引き合わせて、理解する。

「チートキャラにも、ままなんねーモン、あるってことだろ。」

毛布のルイが、そう言って『同情するよ』と、顔を毛布に埋めた気が、シオンには した。

「あたしね、旅で思った。当主って、孤独だなって。もし世襲制じゃなかったら、血族で結婚すること、なかったんじゃないかなーって。」

すると、レンが シオンの横に置いた段ボールに、集めたカイロを ザッーーと、砂時計のように、注いだ。

「当主の孤独を、解って 分かち合う為の 血の婚姻かもね。一族の仕事が特殊であれば、尚更だと思うよ。」

さっき、撒き散らしたカイロは、全て レンが、シオンの隣にある 段ボールへ 注いだ。

シオンは、もう一度 毛布を 体に引き寄せて 、自分の体に巻きつける。

「家の習わしって、頭じゃ解っても、心、ついていかないよ。現に、お祖父様と婚約者の叔母様は そうならなかったじゃない?いい見本だよー。」

すると、さっきまで 毛布 頭に、寝転がっていたルイが 起き上がっている。

「ちがうな、子どもん時から、同なじに居たり、見たりすりゃ、理屈抜きに、似た考え方 するもんだろ。従兄妹、そんで兄妹は、もっとだろーよ。」

そうして、ルイは射抜く目をしている。シオンは、すぐに反対してて言った。
「なら、いつも一緒にいたら、『恋愛』より『家族』の気持ちの方が大きくなるじゃない?」

レンは、カイロの段ボールを壁に寄せ、シオンに向き直る。

「お祖父様と叔父上には 違いがある。当主は本家から、動かない。」
「シオンから、お祖父様の仕事、奉公人の育成を聞いて、ふと 思ったんだよ」

レンの胸に片手を当てて、

「思春期に、会える期間と、」
今度は、シオンの胸に 手を当てる。
「会えない期間があって、お互い、会う度、」

また、レンの胸に手をあて、

「異性に成長するのを、衣食住を同じにする環境や、」

そして、シオンの胸に手をあて、

「同じ思い出や、取り組みの 価値の中で、 意識するのを 繰り返したら」

そして、レンはシオンの頭を撫でる。

「恋に落ちるんじゃないかって」

そんな事を言うレンを 見つめながら シオンは、あの祖父が残した金庫の 印を 思った。

「一族は、特殊なサイクルで奉公する方法を取る事が、『同族』に『恋愛』、しやすい現象になったんじゃないかって。…ちょっと考えすぎかな?」

そう 口を弓なりにしたレンは、今度は、自分も毛布を肩に被る。

「まるでよぉ、『入れモン』、造りやがるみてーに、、、言ってんじゃねぇーよ。」

ルイは、シオンごしに、毛布ごと、レンの首あたりを掴んむと、怒気を孕んだ声で、言い押し付けた。

シオンは 巡らせる。


己れが 逢わない季節を 越える毎に、
成長して、180度対極に、艶やかになる 互いの身体能力に魅せられ、

必ずやって来る 季節を重ねる 毎に、

表面の『肌ざわり』から浸透して、
『土を同じく』する様に、食する物さえ同様にして、

そこを 一瞬にして 『業火』に焼べ

上書きされて、新しく深くなる、感情。

さらに、偶然浮かび上がった、虹色に煌めく『斑心』

本来なら、予期しない 容変が、
意図的に作り出されたものか、
偶然によるものか?



「知らず知らず、成りやすい器には、なるかもね。」

シオンが ルイの言葉が、 言い得て妙だと、感じ 囁いた。
そして、毛布のレンに繋ぐ。

「やっぱり、ベレー帽、被るの、皮膚が、敏感だから、かなあ」


「肌、髪は、一番、 身体に出やすいみたいだね。」

毛布のままで、レンは 静かにシオンに、返した。

カイロが 温かさを 体にくれてきたお陰で、シオンの強張りが 緩んだ気がした。少し目が潤んだからだ。

少しして、レンが 毛布を脱いだ。

「シオン、今、何、考えてる?」

と 聞いてきた。




「ーーー・・やっぱり、遺伝するモンかなぁーって。」

シオンは 諦めたように言って、泣きそうな顔をすると、静かに 打ち明けた。


「へへっ、ねぇ、あたし、剥げちゃうよー。」


シオンが
吐露した瞬間、
レンの目が
星に光って大きくなったと
シオンは 思った。

レンは シオンの こめかみ を、作った両拳で、グリグリと 締めて、

愉快そうに、

「もう、俺達は 剥げ上がってるんだよ。」

と、最上級に 破顔 した。