これは、ホラーか?

背筋がさむくなる。冗談めかしに、シオンは頭に浮かんだ、
『三代目』への畏怖が口から漏れた。


「『三代目』のお祖父様が、チート過ぎる、、、」


つい、額に手を当てる癖をした、シオンを ため息まじりに、レンが見て同感する。

「只者ではないなって、思ってたけどね。」


ルイは、ついた片手を枕に 半分寝転がっている。

「だいたい、おかしーと思ってたんだよ。ケーキ職人だぁ?コックだ?クソみてーに、粋な祖父ーさんがよ。とんだ、タヌキだ。」

そんな ルイの言葉を聞いて、シオンも 思わず自嘲気味に、喉を鳴らした。

そうだ、そうなのだ。
シオンの祖父は、格好良すぎた。

頭は、ツルツルに禿げ上がっていたが、被られたベレー帽が、髪の無さを 当たり前にして、頭に高貴さを出していた。

外も、中も 祖父は、インテリの権現だった。

シオンが見て、『こんな、年の取り方が 人は出来るのか?』というぐらい、

潔く 格好良かった。

そんな、祖父がベレー帽を、シェフ帽に替えて、年がら年中フライパンを振っていた。

「そもそも、器用スキルがチートなんだよ。いくら、諸国中のモノを知ってて、半端ない拘りグルメで、この季節は、この場所でこの食べ物を食べるのが旬とか言って、それをスマートにやっちゃう人だとして、どーして、ちゃっかり お菓子も 料理も出来ちゃうかな!!」

一気に 祖父の事を言い切ったシオンを 横目に、ルイは

「ありゃ、バケモン。勝てねぇよ。」

空を見つめて 言う。

その言葉に、シオンは頭を振った。

「勝てないけど、ちゃんと、レンもルイも お祖父様の血を引いてるなあって、思うよ……。」

すると、レンが シオンの頭を撫でながら諭す。

「シオンも、引いてるだろ?」

その言葉に、シオンは そうなのか?そうだろうか?と思った。

「でも、さすがに 金庫みたいな事、仕掛けられないよー。って、思うよ。」

少しシオンの目が遠くなる。

狭く囲われた 和室。
ダルマストーブで、なんとか温かさを保っている。
毛布を シオンは 両手で引き寄せる。何か、寒い。
ルイも、シオンに寄って、ダルマストーブに当たっている。

「祖父ーさんの 思い出のモン、詰めたって、だけじゃねーって、事は、いえるな。」

そして ルイも、肩を擦った。

「シオンの話、本家は 『人を育てる場所』なら、当主は その上のスキルか。」

そう レンが 言うと、
ダルマストーブに乗せた鍋がまた、沸騰してきた。

商人なんて、物流の一旦を担う生業だと、 一面だけで考えると、
祖父の存在は違和感があった。

けれど、
『モノは、縁』と紐解くと、

『土から金を』なんてものより、

『モノから縁を繋ぐ』の方が

よっぽど 祖父の仕掛けは、

しっくりとする。

近江商人の『三方よし』が仏教哲学も踏まえてるなら、その奥義は深淵なのでは?

『人と時間』の 錬金術

と シオンの 頭に ボンヤリ 現れる。

でも、

そういえばいいのか?
シオンには、まだ この祖父の所業を言える単語が、ソウルを体現する言葉が
見つからない。

ただ、これだけは、シオンはわかった。
『三代目』の祖父は、シオン達を

『知っている。』

きっと、シオン達自身よりも、深く深く。