「本日の善き日に、神前にて、元服の儀を執り行い、三代目を襲名致します事、また、その儀の執り行い誠に有り難く存じます。」
只今を持って、元服をしたと同時に、幼名を 捨て 『三代目』となる。
未だ十代にての襲名は、余りに早計ではあるが、『二代目』である、父上が急逝。
まさか、元服の儀と共に襲名なるとは、思わない。
儀式の合図をする、鈴が鳴る。
一族が代々に 氏子頭を担っている、神社には、本来なら大勢の奉公人が、紋付き袴で居並ぶところだろう。
『三代目』の元服。
いや、元服したばかりの襲名主であろうだけでなく、国の状況もあり、『元服の儀』を内内で行い、襲名披露を明日挙行する。
巫女君が、聖水を手洗に 掲げ持ち寄る。聖水に、映り混む姿でもって、自ずから髪を上げるのだ。
それが、『髪上げの儀』。
水に映る 己の顔に、
若輩であっても
威厳、カリスマ、冷静さと、寛容さを張り付けねばならない。
『三代目』は、柘植の櫛で、伸ばした髪を簪で捻り上げ、頭頂にて
差し止める。
そして、頭髪に刀を、押し当てる。
開国となり、洋装もする為、髷を結う習慣も 変容してきた。
頭に、月代をつくる剃り上げも
失くなる。
『三代目』は、刀を手に ふと、思いを巡らせる。
大正なり、まだ数年。それが、開戦とは。
列強国に、参じて日ノ本も
大戦参加となった。
これが、どうでるだろうか。
巫女君が聖水を引き下げに来る。
『三代目』は 静かに 巫女君に、一礼した。
軍は 強気だと聞いていたが、
経済は、不況だ。
戦争景気をねらうようだが
そればかり、
甲高にも 言ってられない。
再び、鈴の合図がする。
今度は、巫女君が、烏帽子を 掲げ持ち寄る。
『加冠の儀』だ。
『三代目』は、烏帽子を 手にとり、先ほど、上げた簪部分を
入れ込むように、かぶる。
そっと、息を吐き出す。
先急ぎ 、自分にも 満州に入るよう、商い要請もあったが、乗る予定のプロペラ機が、墜落したと、聞いている。
予兆なのか、
何か意図が働いたものか。
知り得ないが、
本来 うちは、血族より衛星拠点の支配人を まず置く方針できている。
三度の鈴の合図がする。
『三代目』は、顎の下で 烏帽子の紐を結ぶ。
秀吉殿の中国遠征を
聞いてきた 一族としては、
必ずしも楽観できない。
戦の規模が、違い過ぎる。
巫女君が清酒の杯を、掲げ持ち寄る。
『三代目』は、一礼をして、杯を手に 清酒を含む。
一礼して、杯を盆へ戻す。
神主殿の祝詞があり、
舞殿で、神楽舞が始まる。
神楽の音色に乗せて、『三代目』は、さらに 思う。
一族が代々氏子頭を務めるこの社は、奥宮のある山の麓。
緑の壁となって、この聖地を
守護してくれる社。
山里の分類だろうが、
日ノ本中から、奉公人が集まる。
情報の拠点、物流の城。
琵琶湖という、自然の水瓶は、
農業、産業、運搬業さえ支えている。心臓なのだ。
巫女舞の鈴が 良い音色で
振られる。
『器』ひとつとっても『国の色』は、解る。
我が日ノ本の器は、漆即ち木。
中国、亜細亜は、陶器即ち土。
欧州は、ガラス、即ち鋼。
我が日ノ本ほど、
鉱山資源の数多さは
珍しい。金や銀もある。
しかし、外の国に比べ、土地が少ない。ゆえに 量が少ない。
多様だからこそ、流動し、活性する。
過ぎるような、大量になれば、枯渇する。
ああ、神楽舞が終わった。
これから、奥宮にも、ご挨拶に参る。しばらく、社の者達の
装束変えだな。
『三代目』の今日の儀礼服は、いつもの黒紋付きではなく、狩着ぬの為着替えはない。このまま合図があるまで、待機となる。
なれば、神殿に語ることにするか。
『三代目』は、囁いて、神前に襟を正し、座した。
「私は、陶器商いですからね、
神様に、器の余興話しでも
させて頂きましょう。」
一人本殿にて、神殿お相手に、落語だなと『三代目』は、笑えた。
「世の中には、名水、名刀など
ございますが、
私どもが扱って器にも、
名器なるモノが ございます。」
「主を選びますというか、
時代の流れの場所に
惹かれるのは、人だけにあらず、
器もなんでございますよ。」
「宗の時代より言われる
天下の茶碗なんど、気が付きましたら、
将軍家から、豪商へ、そこから、今度は財閥へと 渡りました。」
器は選んだのでしょうか?
「そこに権力あれば、宝は集まるものとは、不粋はご面ですよ。
選んだ主と、共にする器もございますからね。」
ああ、そろそろ、巫女君が参りますね。奥宮にこれから向かう合図がくるなと、『三代目』は分かった。
「神前で、いうのも何ですが、
『三衣一鉢』って言いますが、
人は、生き切る時には、器一つでいいものだと
本当は、私は、思っております。」
そう言って、『三代目』は深々と神前で、床に、頭をすり合わせて礼を取った。
そして、思う。この地には 葬儀の際に 故人の頭に剃刀をあてる。
仏の道に入る儀礼として。
元服は、親の庇護から抜ける儀礼でもある。
『三代目』は、只今もって、一族の砦となるのだ。
ですから、
どうか、
常しえに、
この里の、日ノ本にある家族を
護ってくださいませ。
只今を持って、元服をしたと同時に、幼名を 捨て 『三代目』となる。
未だ十代にての襲名は、余りに早計ではあるが、『二代目』である、父上が急逝。
まさか、元服の儀と共に襲名なるとは、思わない。
儀式の合図をする、鈴が鳴る。
一族が代々に 氏子頭を担っている、神社には、本来なら大勢の奉公人が、紋付き袴で居並ぶところだろう。
『三代目』の元服。
いや、元服したばかりの襲名主であろうだけでなく、国の状況もあり、『元服の儀』を内内で行い、襲名披露を明日挙行する。
巫女君が、聖水を手洗に 掲げ持ち寄る。聖水に、映り混む姿でもって、自ずから髪を上げるのだ。
それが、『髪上げの儀』。
水に映る 己の顔に、
若輩であっても
威厳、カリスマ、冷静さと、寛容さを張り付けねばならない。
『三代目』は、柘植の櫛で、伸ばした髪を簪で捻り上げ、頭頂にて
差し止める。
そして、頭髪に刀を、押し当てる。
開国となり、洋装もする為、髷を結う習慣も 変容してきた。
頭に、月代をつくる剃り上げも
失くなる。
『三代目』は、刀を手に ふと、思いを巡らせる。
大正なり、まだ数年。それが、開戦とは。
列強国に、参じて日ノ本も
大戦参加となった。
これが、どうでるだろうか。
巫女君が聖水を引き下げに来る。
『三代目』は 静かに 巫女君に、一礼した。
軍は 強気だと聞いていたが、
経済は、不況だ。
戦争景気をねらうようだが
そればかり、
甲高にも 言ってられない。
再び、鈴の合図がする。
今度は、巫女君が、烏帽子を 掲げ持ち寄る。
『加冠の儀』だ。
『三代目』は、烏帽子を 手にとり、先ほど、上げた簪部分を
入れ込むように、かぶる。
そっと、息を吐き出す。
先急ぎ 、自分にも 満州に入るよう、商い要請もあったが、乗る予定のプロペラ機が、墜落したと、聞いている。
予兆なのか、
何か意図が働いたものか。
知り得ないが、
本来 うちは、血族より衛星拠点の支配人を まず置く方針できている。
三度の鈴の合図がする。
『三代目』は、顎の下で 烏帽子の紐を結ぶ。
秀吉殿の中国遠征を
聞いてきた 一族としては、
必ずしも楽観できない。
戦の規模が、違い過ぎる。
巫女君が清酒の杯を、掲げ持ち寄る。
『三代目』は、一礼をして、杯を手に 清酒を含む。
一礼して、杯を盆へ戻す。
神主殿の祝詞があり、
舞殿で、神楽舞が始まる。
神楽の音色に乗せて、『三代目』は、さらに 思う。
一族が代々氏子頭を務めるこの社は、奥宮のある山の麓。
緑の壁となって、この聖地を
守護してくれる社。
山里の分類だろうが、
日ノ本中から、奉公人が集まる。
情報の拠点、物流の城。
琵琶湖という、自然の水瓶は、
農業、産業、運搬業さえ支えている。心臓なのだ。
巫女舞の鈴が 良い音色で
振られる。
『器』ひとつとっても『国の色』は、解る。
我が日ノ本の器は、漆即ち木。
中国、亜細亜は、陶器即ち土。
欧州は、ガラス、即ち鋼。
我が日ノ本ほど、
鉱山資源の数多さは
珍しい。金や銀もある。
しかし、外の国に比べ、土地が少ない。ゆえに 量が少ない。
多様だからこそ、流動し、活性する。
過ぎるような、大量になれば、枯渇する。
ああ、神楽舞が終わった。
これから、奥宮にも、ご挨拶に参る。しばらく、社の者達の
装束変えだな。
『三代目』の今日の儀礼服は、いつもの黒紋付きではなく、狩着ぬの為着替えはない。このまま合図があるまで、待機となる。
なれば、神殿に語ることにするか。
『三代目』は、囁いて、神前に襟を正し、座した。
「私は、陶器商いですからね、
神様に、器の余興話しでも
させて頂きましょう。」
一人本殿にて、神殿お相手に、落語だなと『三代目』は、笑えた。
「世の中には、名水、名刀など
ございますが、
私どもが扱って器にも、
名器なるモノが ございます。」
「主を選びますというか、
時代の流れの場所に
惹かれるのは、人だけにあらず、
器もなんでございますよ。」
「宗の時代より言われる
天下の茶碗なんど、気が付きましたら、
将軍家から、豪商へ、そこから、今度は財閥へと 渡りました。」
器は選んだのでしょうか?
「そこに権力あれば、宝は集まるものとは、不粋はご面ですよ。
選んだ主と、共にする器もございますからね。」
ああ、そろそろ、巫女君が参りますね。奥宮にこれから向かう合図がくるなと、『三代目』は分かった。
「神前で、いうのも何ですが、
『三衣一鉢』って言いますが、
人は、生き切る時には、器一つでいいものだと
本当は、私は、思っております。」
そう言って、『三代目』は深々と神前で、床に、頭をすり合わせて礼を取った。
そして、思う。この地には 葬儀の際に 故人の頭に剃刀をあてる。
仏の道に入る儀礼として。
元服は、親の庇護から抜ける儀礼でもある。
『三代目』は、只今もって、一族の砦となるのだ。
ですから、
どうか、
常しえに、
この里の、日ノ本にある家族を
護ってくださいませ。