人は 沈黙すると、
より五感が冴えるのだろう。


さっきまで、全く気が付かなかった微かな 薫りを、
三人が纏っている。

そんな事に、今 気付いた。

そうか 三人共、
ここのシャンプーを
レンもルイも、あたしも
使ったってことだ。

と、シオンは 静けさの中、
納得した。

子どもの時のお風呂上がり、
日記を読む時以来だな。

とも、考える。

そう思うと、
何故だろうか、自然と
シオンは口を開く事が出来た。

幼なじみとか、
従兄弟とか、
そんなものだ。

ダルマストーブを、見つめるだけのレンとルイに、独り言のように
シオンは語る。

「お金って、国や時代が変わると、価値も変わると思う。でも、お祖父様の金庫で見つけた皿は、 100年たっても、国とか、それこそ星が変わっても、『その力』が感じられる『モノ』だって思った。お祖父様達が扱っていたモノの『正体』を 垣間見たって。それこそ、天目茶碗なんて、その最たるモノだと思う。」

レンも ルイも きっと、まだ黙ったままだろうから、シオンは、続けた。

「天目茶碗って、『覗くと、宇宙が見える茶碗』って、いわれる 世界で4つしかない、中国で焼かれた茶碗なんだよ。なのに、何故か全部、日本にある。かつて、信長も持っていたなんて、ロマンあるじゃない?その1つが信楽にあるんだから、見に行かないわけない。」

レンが 横で、コクリと 頷いたのが分かる。

「それにね、信楽のミュージアムに『夜寒焼』もあって、近江商人が持っていた、ステンドグラスもあるって 分かったから。」

そこで、ようやく ルイが、

「それって、金庫ん中のやつみたいなってことか?」

ちょっと食い気味できた。

「同んじゃないけどね。でも、ちゃんとした状態を見たかった。それに、あと、もう1つのモノ、忘れてない?」

「あとは、陶器のお金だよね。それって、本当に、お祖父様が作ったモノなのかな」

そのレンの問いに、シオンはレンを見つめる。

「だいたい、節操ないだろ!陶器商人が、なんでカネなんか、つくんだ。それも、そんなモン 本当に使えたのか?」

反対に座る、ルイを 今度は見つめた。

「ルイ、『初代の酔雪焼』、『二代目の夜寒焼』ときて、『三代目』のお祖父様は、『陶器の貨幣』を作ったんだよ。その違いはね、お祖父様が世襲した時の事に意味があった…、第一世界大戦、だよ。」

「戦争か…。」

レンが、ダルマストーブの火を目に宿した。

「そう、お祖父様は、正式に、造幣局から、戦時中流用貨幣を陶器で増産する依頼を受けてた。とうとう、経済そのものを動かすモノを扱う事になる」

「おま、でもそれ、金でも、銅でもねーじゃねーか。」

レンも 同じ表情だ。シオンは 言った。

「そうだよ、土から金を、本物の錬金術の要請だよ。」

ルイの息が 一瞬止まったのが、
シオンは、面白いほど 分かった。

今、

外では、降りしきっている
であろう雪。
停電の暗闇の中

三人の日記の宿題は、
間違いなく、山場を迎えた。

と、思わされた。