シオンは、ダイニングチェアに座る ルイの足を、テーブルの下で、カッと蹴った。

「って!」

目の前にある、ルイの肩がビクついたのを、ニヤついて見るシオン。

「ルイ!目、開けたまま、寝ないのー。」

「おまっ、なにしゃがる、ん、だっと!」

そう言って、ルイは 自分の長い両足で、シオンの両足首を 挟んで 自分に ぐっと 引き寄せた。
足を挟み引かれた、反撃で ルイの向かいに座る、シオンの頭が テーブルに くん、と沈む。

「やっ?! 、やめてよ。落ちる!、寝てたくせにー!」

シオンは、ダイニングチェアの座面に肘を立てて、ズレた態勢を直しながら 憤慨。

「ざまーみろ。寝てねーつーの。」

そう 言って、ルイは足と腕を 大用に組みながら、

「で、祖父ーさまのじーさま?は、窯を興して、酒屋から陶器に、扱う品モンをかえたってことだな?」

と、シオンを 上から目線を入れつつ見た。シオンの横に座る、レンが シオンの乱れた後ろ髪を、直して、宥める。

「まあ、寝てなかったってことでね?」

それに、捻るようにシオンは、

「う~。まあ。」
続けて

「簡単な、扱業種を変えるって事でもない、かなあ?~」

と、まとめる。



『初代』は
料亭の庭で 楽焼の窯を作り、料理皿として 世に出す。
そうして 『酔雪焼』が
まず、文化人の目に留るようになった。

『二代目』は更に、城下に近い所に窯を持つことが出来ようになる。
『夜寒の里』と言われる区画。
現在の熱田神宮の北に、興した楽焼の窯での、茶道器は
『夜寒焼』と呼ばれ、ちょうどWA・BI・SA・BIスタイルにマッチしていく。

御庭焼のような 楽焼は、決して量産のタイプではない。
後、『初代の酔雪焼』と、『二代目の夜寒焼』共、余り数が無い事でも分かる。

一族の当主は、
自ず窯元の陶器で、
量的な、市場シェアの支配を目指さない。
もっと 違うアプローチ。
国内外陶器の価格を、
全て決定する実権を、
結果、手にした。


たかだか、陶器商人の話かもしれない。
けれども、
戦乱が終結し、
褒章の領土を渡すこと叶わなず、金小判も産出が自由でなし、
過ぎたるは 謀反資金になり得る
金とて 易々と渡せぬ。

そんな時、
『類い稀なる茶器』というのは、江戸においても、
男の社交にあって
誉れという名の
重要かつ安全な禄となる。
信長も使った手法だ。


市場にある、
全ての陶器の価格を決定出来る力。

それは、江戸幕府が用いる、
『禄の価値決定』を持つ事と
闇に同様となる。



レンは、シオンが体験で絵付けした皿を、ルイに ツィーと渡す。

「この焼きって、信楽焼きと違うの?」

レンの手から皿を受けると、ルイは眺めながら、

「んじゃあ、この皿みてーな楽焼って、 どーゆーモン?」

と、シオンに問うた。

「もともと 秀吉が京に建てた、『聚楽第』近くで焼いた『聚楽焼』からの 『楽焼』なんだよ。『ろくろ』を使わないで、手で作った器を、庭なんかに組んだ窯で焼く焼物。よく、いかにも信楽ーって窯は、穴窯、登窯って、もっと 高い温度の窯なんだって。」

シオンの応えに、皿を指の爪で、チンと弾く、ルイ。

「陶器商人なのに、大量生産じゃ無い。オモシロイね。」

レンは 呟いて、さっき再沸騰させたポットから、今日何度目かのコーヒーを淹れようとした。ので、シオンは、

「あ、あたし、淹れるよ!」

慌てて立とうとする。けれど、レンは シオンを制して、三人分のコーヒーを淹れてしまった。