ルイは、夏の暑さが見せる 陽炎のような闇の中にいた。

地面から昇る、熱気のような闇。
その向こうに、夕焼けの陽が見えて

人影がある。

ルイは、その陽を背景にいる、人影に 全力で走った。

まるで、
時間が半分になってしまったような、スローモーション。
自分の体が 思う速度で、動かない。

ルイは叫んだ。

なのに、ルイを取り巻く、燃える闇は、
無音の世界だ。

叫びながら、
ルイはこれが

夢だと思った。

いつの間にか、夢に落ちてる。
なら、
そうルイが 走しる先には
間違うことの無い、
人影。

人影は、
床から高く積み上げられた、
いくつかの『皿の搭』を前に、
絵付けをしている。

シオン。だ。


夢なら、

いつもの 夢なのだから、

そう声にならない、叫けびを上げて、ルイは目の前のシオンを
両腕で 閉じ込める。

途端に、閉じ込めた シオンは
霧散した。

ルイが交差させた 両手のままに、また叫びを上げる。

ふと、隣の闇に
赤い炎が揺らめいた気配。

その前に、黒紋付きの着物を上半身落とした 男が立っていた。

その手には、片手ずつ、
あり得ないほど薪が指の間に挟み込まれて。

指の間から 、どんどん生まれる薪を
男は、大きく振りかぶって、赤い炎に投げ込んだ。
投げて、投げて、投げ込みまくる。

ルイが 赤い炎だと思ったものは、窯だ。

男は窯に、薪を
ルイの目の前で、メチャクチャに投げ込んでいるのだ。

いや、メチャクチャじゃない。

ルイには
まるでその男が、
燃える大太鼓を 薪で舞叩く、
楽師の如くに見えた。

窯の楽師。

すると、その向こうに
夕焼けに焼ける、
田園風景が横たわって、
宴会?をする人々が
スローモーションに浮き上がってきた。

男が舞い入れる薪が、
勢いを増す。

窯は、機関車の煙と化した、火の粉を撒き散らし、ルイに纏わりつく。

払っても、払っても。

闇に浮き上がる宴と田園に、
火の粉は 散りばめた
蛍火にも見える。

ルイは、
その炎に当てられた男の顔を、
自分に似ているように感じた。

やめろ!
それ以上
燃やしまくれば、もう、

爆ぜてしまう!

ルイが 男に感じた瞬間、窯が燃え上がり まるで バックドラフトだろ!!

豪炎化した。

背景となる 宴の人々を照らす
赤い色が ぐっーと、深くなる。

炎の爆風と熱に飲まれそうになり、ルイは片腕をかざして、
必死で逃れる。

舞い上がる 紅の蛍。

窯は、燃え尽きて、

立ち上っていた闇が、

降ってきた。