シオンの目が光ったように見えると、レンの意識は ボンヤリとした
闇に降りたった。

そこは、優しく、暖かな闇。
それは、光を通す 水の底のように感じる場所だと レンは思った。

ふと見ると、灯りがある所が見えたので、レンは そこに寄って行くことにした。

見ると、ダウンライトのような光の先から、金色の粉がハラリ、ハラリ、落ちてきていた。

いつの間に居たのだろうか?
金の粉が落ちる所に、
ひとり 黒紋付袴に たすき掛けの男が 瞑想するかの様に座している。

驚いたことに、彼に金の粉が 触れると、粉は 黄金の小判に変わり、音を立てて 床に落ちるのだ。
それは、まるで錬金術のような 光景だと、レンは感じる。

そして、男の周りには、黄金輝く小判が 散らばっていた。

全ての時間が半分になったような スローモーションの動きの中で、闇は、レンを無音で包んでいる。

近づくと、男は レンにどこか似ているように見えた。

何をしているんだ?と思うと、男の前の闇に、4間の障子が現れて、サアッーと左右に開く。
途端に、その空いた間口から ブアッーと風が起きてすごい。

しかし、男は黒羽織をはためかせ、微動だもせずに、間口を見ている。

レンは、腕を使って風の勢いを払おうとした。が、そこに シオンが 、大きな陶器の植木鉢を持って現れた。スッと 、、障子が閉まる。

シオンは 植木鉢を 男の前に 静かに置くと、闇へと歩き去った。
男は、置かれた植木鉢に、散らばっている 小判を詰める。

満杯に小判が入ると、再び シオンが現れた。
今度は 根付きの松の木を 手にしている。
そのまま シオンは 手の松を、
男の前に置かれた、小判入りの植木鉢に置いた。

シオンが消える。
レンは、ボンヤリと 目の前の情景を見ていた。

すると 松は植木鉢に植わり、男がたすき掛けをほどいて、松の植木鉢に紐掛けた。

その瞬間、今度は障子が開いて ゴーッと風が巻き入り、二人の編笠山男が1つ棒を掛け持って走りこむ。

暴風に、レンは吹き飛ばされそうになりながら もがくいてる中、
走り来た 2人は松の植木鉢を籠掛にし、紋付き袴の男は、長い天秤棒を
舞を舞うような仕草で、前に突き出す。

それは まるで、武将が出陣の合図をするかのように、レンには見えた。

たちまち、その先に光が差し込み、男の天秤棒を合図に 男達は、闇から光へ 暴風と消えて行った。

男の横顔が 爽快で、レンは闇の中で、只 その姿に 見惚れていた。

そうして、レンは、落としていた意識を シオンの声で、浮かび上がらせのだった。







「『当主』さんは、年に1回、伊豆でお酒の醸造で財を成したのを回収に出向くんだけど、それを どうやって近江に 安全に持って帰るか、すごく苦心するんだよ。」

いつの間にか、シオンは急須を手にしていた。お茶を淹れ直すのだろう。

「あれか?街道に、盗賊がでるからか?」

ルイが、空のコーヒーカップを 振る。それを見た シオンは、

「あ、あたし『丁稚羊羮』あるんだなー。どうする?コーヒーでいいの?」

と言って、ルイに 口を弓なりにしてやる。

「シオン、俺も、お茶、もらおうかな?」

意識を戻した レンは そうシオンに頼み、ルイも習って 湯飲みを出した。
それに、シオンは 満足そうに頷く。

「よし、よかろう!で、話を戻すと、盗賊の目を欺くのに、『初代』さんは、松の盆栽を使うの。植木鉢に 大量の売り上げ小判を入れて、松の木を上から植えて。一見盆栽ってダミーにして、近江に運び入れるって、わけ。『初代』さんは、酒業と合わせた料亭も経営して、造園業もしてたんだって。それが流行って、農民が庭に花を作ったのを 見物するってブームも起こるんだ。だから、流通の品に盆栽もあったんだろね。」

淹れ直した急須を シオンは持ってきた。

「親父とお袋も、庭をわざわざ 庭師を呼んで、手入れしてたよね。そーゆー、由来もあったのかな。」
レンは、呟いた。

レンとルイに お茶を注いだシオンは、荷物を取りに行く。

「ほら、この松の木が、『初代』さんが使った松。安全に運んだ『初代』さんは、松の木を 氏子頭している神社に 感謝の寄進をしたんだって。今もちゃんとあって、立身出世と、安全祈願のシンボルになってる。」

そう 電話の中にある写真をシオンは 見せてくれ、荷物から取ってきた『丁稚羊羮』の竹の葉を開いてくれる。

レンは、写真の松を しばらく見つめていた。

あの松は、間違いなく この松だ。