目の前にある、カミソリを、シオンは そっと 黒ハンカチに 包んで喪服の上着に 入れておいた。



通夜式が終わり 落ち着いた頃。

レンが シオンに シャワーを使うように声を掛けてくれた。

一足失礼をして、和室の奥にある浴室のシャワーで ゆっくりと 1日体に積もった寒さを流し、お湯の温かさに シオンは 息をつく。

もともと 10日間の旅行中だったから、洗顔 やメイク道具、着替えの一式は 鞄に入れていた。
式場に泊まるのに、不自由はない。
どちらにしても、今日は 寝ずの番なのだ。シオンは、リラックス出来る服を着る。

ドライヤーで しっかり 髪も乾かし たシオンは、次を譲る為、レンに シャワーを呼びかけた。
すると、

「通夜振舞いは、うどんと 稲荷寿司、お願いしてる。それで シオンも いいよね。ルイ、いいか?」

シャワーの用意を片手に レンが 夕食になる、通夜振舞いを 聞いて くる。通夜式が終わって、レンも まず今日の荷が 降ろせた雰囲気だ。

「ん、」

とだけ、言って ルイは了承した。
シオンも異論はない。

浴室のドアが閉まる。

脱いだ 叔母の喪服を 皺にならないよう、 和室のハンガーに掛ける 。そんなシオンに、

「おまえ。別に 大丈夫なのか?」

ふいに、ルイが ダイニングテーブルから 話かけてきた。

「どれが?」

1日有り過ぎて、さすがに ルイが 何のことを言っているか、シオンにも わからない。

「、んなの、いろいろ だろ。」

テーブルの上で、手のひらを組み合わせて、曖昧に ルイも聞いてくる。

「いろいろー。そうだね。んー、なんとか。大丈夫。かな。」

とりあえず ひっくるめて、返事をしておく。
ルイとの やりとりは、子どもの頃から 反射的だ。

ハンガーに掛けれた シオンは、ルイのいる ダイニングテーブルに 移動する。

「通夜、来てたの、隣のばあさんだな。」
見ると、司会をしていた 女性スタッフが 淹れてくれただろう、お茶の入った コップが、ルイの前にあった。

さすがに、わかってるんだなと、その 言葉をい聞いて シオンは感嘆する。

「やっぱり 解るんだ。あたしは、記帳に書いてる の見て、そうかなって思ったけど。あの人が、叔母さんのこと 警察に知らせてくれたみたいだね。」

この シオンの言葉に、

ふぅー。とルイは 息を吐いた。

話を変えてみることにして、

「ね、ルイって、今、何してるの?」

と、今日一番 ルイに聞きたかった事を シオンは やっと口に出来た。
ルイも 聞かれる事は予想していただろうが。

「堅田で、イタリアンしてる。」

「え、ルイ!マジ?! 何それ!レストラン?!」

少なくとも、子ども時代に、キッチンにルイが 立ったのを シオンは 見たことがないのだ。

「カフェに近いかもな、琵琶湖、良く見えっぞ。」

「へぇー。会社と 全然違う事してんだ。なんか、まるで お祖父様みたいだね。」

そういうなら、と シオンは 祖父が商人を辞めた後の道を 思い出して口にする。

「あぁ、そうだな。結局、そうかもな。」

ルイも 思うところが あるようだ。



『三代目』商人を辞めた シオンの祖父は その後、180度方向転換をして、洋菓子職人になったのだ。

終戦後の食料難が、祖父の考えを変えたのもあるらしいが、何より、物を作ることがしたいと、祖父は笑っていた。

祖父は特に、クリームの絞りで、大輪の薔薇を装飾する 技術を身につけた。そうして、その後コックに転職して、亡くなるまでフライパンを振っていた。

と、シオンは 通夜式での弔電を思い出して、今沸いた 疑問を ルイにぶつける。

「いきなりなんだけど、日野の叔母様と 叔父様って、子供いないの?
さすがに、レンとかルイも連絡、わからなくても、うちのママに聞いて、事後報告でも 知らせた方が良くない?」

実は さっき シャワーをしながら、親族を思い出して、 日野の叔母夫婦は どうしたのだろうか?と考えたのだ。

そんな、軽い気持ちで聞いたシオンに、
ルイは 今日、会って一番の トーンの低さで

「おまえ。、、日野の叔母上と、叔父上って、、、兄妹なんだぞ。」

言い含めるように 言った。

「……」

ルイには、無言で返したが、てっきり日野の叔母と叔父を、穏やかで仲睦まじい 夫婦だと思っていた、シオンの頭の中は 動揺で一杯だった。

只でさえ 頭が真っ白なのに、


「ありがとう。ルイ、待たせたね。シャワー空いた、よ?」

と、タオルで髪を乾かしながら、


レンが、ボクサーパンツ一丁でシャワーから どうして、出て来た!! んだよ!!