「キリ君、どうだった?」
夢中になって真っ先に読み終えた俺に、桜さんがやや不安げに訊いてくる。
「すごいです……面白い」
前かがみになっていた彼女は、良かった、と力を抜いてソファーに腰を落とす。
何の飾りっけもない小学生みたいな返事だったけど、それが正直な感想だった。
そもそも、脚本を書ける時点で才能だと思う。
俺だって小さいときは小説の真似事くらい書いたことがあるし、ヒットしてる映画も人並みに見る。でも、こうして場所や状況を想像しながら映像化するための物語を紡ぐなんて、とてもできそうにない。
そして、この構成がまた見事だ。
佳澄と和志が遊んでいるシーンと、佳澄が妄想する「和志と陽菜が遊んでいるシーン」が綺麗に対比されていて、佳澄の不安が浮き彫りになるし、彼女に共感してしまう。
そこからまた良い雰囲気になってからの、和志の告白話。すぐに祝福する佳澄の演技を見抜けないであろうことは、エイプリルフールの話が伏線になっている。
そしてラストの種明かしで、お互いの本当の気持ちとそれが届かない切なさが描かれる。佳澄の視点でジェットコースターのようにポジティブとネガティブを行ったり来たりしたと思ったら、最後は不器用な和志の駆け引きに、彼にも感情移入してしまうのだ。
面白い。突飛な設定でなくても、日常のなんてことないシーンからこんなドラマを作れる桜さんを、真正面から尊敬してしまう。
「うん、これいいな。もう少し読み込むけど、場所も色々出てきて映画映えしそうだ。ラストもオレは結構好きだな」
「ワタシも話全体好きです。序盤で佳澄と和志のキャラクターが分かる描写が多いから、終盤の2人の言動が違和感なく入ってきますね」
颯士さんと月居が口々に褒めるも、桜さんは墨汁のように色濃い黒髪を揺らして、小さく首を振った。
「みんながアイディア出し手伝ってくれたおかげよ。あれで大分固まったのを起こしただけだから」
穏やかな目つき、晴れやかな表情で謙遜する彼女。もう鮮やかに咲き始めているであろうマリーゴールドのように明るく色づいた俺の心は、颯士さんの全く悪意のないゴシップで仄暗く濁る。
「終盤が渓谷のロケだな。そういえばさ、あそこって何年か前に学生の事故なかった?」
音として吸収したその言葉を脳内で文字に変換し、「事故」という軽い言葉に唇をクッと噛む。
そうだ、おかしくはない。地域ニュースでも、そのくらいの軽い扱いだった。
「そうなんですよ。友達が亡くなって」
唐突に吐き出した重い話題に、3人が目を見開きながら一斉にこっちを向く。
一時的に太陽を解放していた雨雲もまたその体を覆い、日の当たらない教室を静寂が包んだ。
「2年経つんでアレですけど、同じ学校だったんですよね」
「そう……なの……」
「あ、そんなに気にしないでください。もう大分前の話なので」
全くもって平気だ、ということを自分自身にも言い聞かせたくて、口に出していく。
これ以上気を遣われないように、付き合ってたことや、映画制作部だったことは、伏せておいた。
夢中になって真っ先に読み終えた俺に、桜さんがやや不安げに訊いてくる。
「すごいです……面白い」
前かがみになっていた彼女は、良かった、と力を抜いてソファーに腰を落とす。
何の飾りっけもない小学生みたいな返事だったけど、それが正直な感想だった。
そもそも、脚本を書ける時点で才能だと思う。
俺だって小さいときは小説の真似事くらい書いたことがあるし、ヒットしてる映画も人並みに見る。でも、こうして場所や状況を想像しながら映像化するための物語を紡ぐなんて、とてもできそうにない。
そして、この構成がまた見事だ。
佳澄と和志が遊んでいるシーンと、佳澄が妄想する「和志と陽菜が遊んでいるシーン」が綺麗に対比されていて、佳澄の不安が浮き彫りになるし、彼女に共感してしまう。
そこからまた良い雰囲気になってからの、和志の告白話。すぐに祝福する佳澄の演技を見抜けないであろうことは、エイプリルフールの話が伏線になっている。
そしてラストの種明かしで、お互いの本当の気持ちとそれが届かない切なさが描かれる。佳澄の視点でジェットコースターのようにポジティブとネガティブを行ったり来たりしたと思ったら、最後は不器用な和志の駆け引きに、彼にも感情移入してしまうのだ。
面白い。突飛な設定でなくても、日常のなんてことないシーンからこんなドラマを作れる桜さんを、真正面から尊敬してしまう。
「うん、これいいな。もう少し読み込むけど、場所も色々出てきて映画映えしそうだ。ラストもオレは結構好きだな」
「ワタシも話全体好きです。序盤で佳澄と和志のキャラクターが分かる描写が多いから、終盤の2人の言動が違和感なく入ってきますね」
颯士さんと月居が口々に褒めるも、桜さんは墨汁のように色濃い黒髪を揺らして、小さく首を振った。
「みんながアイディア出し手伝ってくれたおかげよ。あれで大分固まったのを起こしただけだから」
穏やかな目つき、晴れやかな表情で謙遜する彼女。もう鮮やかに咲き始めているであろうマリーゴールドのように明るく色づいた俺の心は、颯士さんの全く悪意のないゴシップで仄暗く濁る。
「終盤が渓谷のロケだな。そういえばさ、あそこって何年か前に学生の事故なかった?」
音として吸収したその言葉を脳内で文字に変換し、「事故」という軽い言葉に唇をクッと噛む。
そうだ、おかしくはない。地域ニュースでも、そのくらいの軽い扱いだった。
「そうなんですよ。友達が亡くなって」
唐突に吐き出した重い話題に、3人が目を見開きながら一斉にこっちを向く。
一時的に太陽を解放していた雨雲もまたその体を覆い、日の当たらない教室を静寂が包んだ。
「2年経つんでアレですけど、同じ学校だったんですよね」
「そう……なの……」
「あ、そんなに気にしないでください。もう大分前の話なので」
全くもって平気だ、ということを自分自身にも言い聞かせたくて、口に出していく。
これ以上気を遣われないように、付き合ってたことや、映画制作部だったことは、伏せておいた。