もう一度『初めまして』から始めよう

 私のもとへたどり着いた百合さんは、息も絶え絶えといったふうに肩で大きく息をする。
 私はあらかじめ準備しておいた湯呑みを手渡し、百合さんはすぐにそれを飲み干した。

「大丈夫ですか? 百合さん」
「百合なんてそんな……たいそうな名前……どうか私のことは『おい』とか、『お前』とでも呼んでください……」

 死にそうに息を切らしている時でも、どうしてもそう主張せずにはいられない百合さんに、私は笑いながら提案してみる。
「じゃあ『ハナちゃん』でいいですか?」
「ハナちゃん……」

「ごく普通の花の『ハナちゃん』です。もちろん、百合の花の『ハナちゃん』でもいいですけど……」
「ごく普通の花でお願いします!」

 その後も「ハナちゃん、ハナちゃん」としきりに呟いている百合さんは、どうやらその呼び名を気に入ってくれたようだった。

(もとは誠さんが、今夜そう命名するはずだったんだよね……でももう百合さんと誠さんは、今夜は会うことはないから、私が付けてもいいよね……?)

 自問自答する私に、百合さん改め『ハナちゃん』は、椿ちゃんが今夜来れなくなったことを、懸命に伝えてくれた。
「旦那さまから、祭りへ行く許可が出なかったんです。お嬢さまは一日かけてずっと頼んでたけど……もう浴衣だって着てたけど……部屋から出るなっていつものように言い渡されて、それで私に……『二人が待ってるから、今日は行けないって伝えてくれ』って……」

 そこまで話してから、ハナちゃんは我に返ったように周囲を見回す。
「あれ? そういえば誠さまは……?」

 私は慌てて、曖昧に笑ってごまかした。
「あ! なんか急な用事で、来れなくなっちゃったそうです」

 それは私の嘘だったのに、ハナちゃんはとても気の毒そうに私を見つめた。
「それじゃ和奏お嬢さん一人ですか? この町に越してきて初めての『燈籠祭り』なのに?」

 あまりに憐みの目で見られるので、私はハナちゃんの腕をがしっと掴んだ。
「じゃあ代わりにハナちゃんが、一緒に燈籠を見てまわってくれますか? もう今日のお仕事は済んだんですよね?」

 ハナちゃんは目をぱちくりと瞬かせてから、何度も首を縦に振った。
「そうです、そうです、仕事はもう終わりました! じゃあ私でよければ……!」



 それから私たちは、人の波に乗って拝殿まで進んでお参りし、また参道まで下りてきた。
 その間、左右や頭上に掲げられた燈籠の中に、椿ちゃんや父の名前が書かれたものはないかと探したが、見つけられなかった。

「こんなに数が多いんだから仕方がないですよ」
 ハナちゃんに取り成され、最後にとまた二の鳥居の近くまで帰ってきた時、赤い花が描かれた小さな燈籠を見つけた。

 どうやら私たちが立っていた鳥居の反対側に提げられていたので、今まで気がつかなかったらしい。
『成宮椿』と力強い筆致で、それだけはとても美しく名前が記されていた。

 それに比べて絵のほうは、確かに椿ちゃんが誠さんに見られたくないと慌てるレベルだ。
「ええっとこれは……椿ちゃんの名前と同じ……『椿』かな?」

 中央が黄色く、赤い大きな花という情報しかない中で、私がなんとか導き出した答えに、ハナちゃんは申し訳なさそうに首を横に振った。
「すみません……それ『ハイビスカス』だそうです……」

「ハイビスカス!?」
 驚く私に、ハナちゃんは詳しく説明してくれる。

「はい。なんでも南国の花らしくて、『同じ色なら椿なんてしみったれた花じゃなく、これくらい華やかなのがいいわ』とお嬢さまがたいそうお気に入りで……」
 その勢いで、椿ちゃんは父の仕事小屋兼住居のあの庭にも、周囲との調和などまったく無視して、ハイビスカスを植えてしまったのかと思うと、私はもう笑うしかない。

「椿ちゃんって、とっても面白いですね」
「はい。でもそれだけじゃなくて、とても優しくて聡明な方なんですよ……」
 ハナちゃんが語る『椿ちゃん』は、私が知る彼女そのもので、嬉しくなる。

「どうぞこれからも、お嬢さまと仲良くしてくださいね」
 以前もかけられた言葉に、私は「はい」と頷き、同じような言葉をハナちゃんにも返した。

「どうぞハナちゃんも、ずっと椿ちゃんの傍にいてあげてくださいね」
 ぱあっと表情を明るくしたハナちゃんが、「はい」と力強く頷き、私はまた更に嬉しくなった。
 ハナちゃんと別れたあと、私は最後にもう一度、拝殿まで上って父の仕事小屋兼住居へ帰ることにした。
 参道から石段を百段ほど上ったところにある拝殿からは、実は直接山道へ抜ける別の出口がある。

 神社へは正面から入るものだと、老婆のハナちゃんに口酸っぱく言われていたので、お参りする時に通ることはない道だが、帰る時は話が別だ。
 すでにお参りを済ませたあとならば、今日は疲れたからと裏口から帰っても、神様も笑って見送ってくださるとハナちゃんも語る。

(特別疲れたってわけじゃないけど……どうしても確かめたいことがあって……)
 途中で近道を使ったとはいえ、山の頂上付近まで上ったり、そこから麓まで駆け下りたりと、今日は絶対に体が疲れているはずなのに、気持ちのほうは高揚している。

 椿ちゃんと誠さんをなんとか引きあわせて、私が望む未来に近づけたからかもしれない。
 もう少しだけ、燈籠を見てまわりたい思いもあった。

 少女のハナちゃんと一緒に椿ちゃんの燈籠を見つけたのは、まだ太陽が沈みきる前だった。
 遠くに沈む夕日を感じながら、ハナちゃんと笑い、それから別れた。
 その間に、太陽は山の向こうへ沈みきってしまい、燈籠の灯りがいよいよ本来の役目を果たす時間になった。

 さっき椿ちゃんの燈籠を見つけた二の鳥居へ行ってみたが、もうそこには彼女の描いたハイビスカスの絵の燈籠はなかった。
 代わりに違う少女の絵が貼られた燈籠があった。
(やっぱり……)

 昼と夜の境の時間が終わると同時に、あの世界の人たちとは生きる世界が異なってしまったのだ。
 今私がいるのは、私が本来生きるべき世界。
 だとすれば、あの時間にはいくら捜しても見つけられなかった父の燈籠が、今の世界にならば存在するのではないかと思った。

 父は確か『町役場から頼まれて燈籠の絵を描いた』はずだ。
 ならば参道の左右にずらりと列を成す小さな燈籠ではなく、石階段を上る時に頭上を渡っている大きな燈籠を描いたのではないかと、私は思っていた。

 予想通り、石段をちょうど半分上り、参拝者が疲れて休憩する辺りに設けられた、茶店と社務所が連なる大きな見晴らし場へ入る直前に、父の描いた大きな絵は高く掲げられていた。

(あー……お父さんの絵だ……)
 私がしみじみと見上げたのは、淡い水彩の風景画だった。

 この祭りを長い時間見てまわってわかったことだが、一口に燈籠の絵と言っても、その種類は無限にある。
 夏らしい金魚やかき氷や西瓜の絵。
 海や山や虹などを描いたもの。
 今流行りのアニメキャラクター。
 好きなアイドルの似顔絵。
 真剣に動物や昆虫の絵を描いてあるものなどもあって、見ていて飽きることはなかった。

 その中にあって、さすがは頼まれて描いた芸術家だけあり、父の絵はとても私の心を惹きつけた。
 縁側に座った小さな女の子がシャボン玉で遊んでいて、それを家族が見守っている、なんでもない日常のひとコマを切り取った風景なのだが、随所に夏らしさが散りばめられている。

 少女が被った麦わら帽子。
 庭の草木に水をやっているらしいお祖父さんが、上向けて持ったホースから飛び散る水飛沫。
 母親らしき人が晴天の下に真っ白な洗濯物を干しているところにも、祖母らしき人が少女の隣で大きな西瓜に包丁を入れているところへも、少女が丸い頬を膨らませて作ったしゃぼん玉が煌きながら浮いており、まるで夢の世界のように幸せで満ち足りた時間を、見事に描き出している。
(綺麗……)

 他の人の邪魔にならないよう、端に避けて、私はその絵をずっと眺めていたが、ふと気がついた。
(そういえば、この子のお父さんは……?)

 これだけ家族が揃った絵を描いているのだから、わざわざ父親だけ省くことはしないだろう。
 そう考えて初めて、しゃぼん玉のストローを口にくわえた少女が体を捩って、半分ふり返り、こちらへ手を振っていることに気がついた。
「あ……!」

 少女の父親は、この絵を描いている人物だ。
 だからこの中には描かれていない。
 だけど確かに存在はしている。

 そう思い当たり――私は涙が溢れて仕方がなかった。
(お父さん……!)

 よくよく見れば、少女は私の小さな頃に似ている気がする。
 描かれている縁側と庭は、父の仕事小屋兼住居の、私の大好きなあの庭。
 お祖父さんもお祖母さんもお母さんも、見れば見るほど、誠さんや椿ちゃんや私のお母さんに見えて仕方がなく、私は長いことその場に縫い留められていた足を、ようやく動かして帰り始めた。

 ちょう拝殿まで上りきったところで、シューッと夜空を何かが駆けのぼっていく音がし、バーンと大きな大輪の花が夜空に開く。
「――――!」

 あまりにも近すぎて、鼓膜に響くような大きな音に、私は両耳を手で塞ぎ、父の仕事小屋兼住居へと続く山道を急いだ。
(早く! 早く! 間に合うかな……?)

 椿ちゃんが「数はあまり多くないけど」と花火のことを語っていたのを思い出し、急いだのだったが、よくよく考えてみれば、それは彼女が生きたあの世界での話だった。

 私が生きるこの世界では、私が神社の敷地を抜けて山道へ入り、家路を急ぐ間もずっと鳴りやむことなく、夜空を彩る大輪の花は、私の頭上で次々と花開き続けていた。
 
 父の仕事小屋兼住居にたどり着くと、私は急いで母屋へ駆け寄った。
 中へ入るまでもなく、父が縁側に座り、煙草をくわえながら庭を眺めている姿が見える。
「お父さんただいま!」

 きっとここで待っていてくれるとは信じていたが、また父のいない世界になっていたらどうしようという不安もあり、いつも通りの姿を見て、ほっと安堵する思いは大きかった。

 花火は見ていないのかと訊ねると、「和奏と一緒に見ると約束したから、帰ってくるまでは音だけ聞いていた」とにやりと笑われ、私はまた泣きたいような気持ちになる。

 母屋の食卓から庭へ運び出した椅子を二つ並べて、ほぼ自分たちの頭上へ打ち上がる花火を、父と二人でじっくりと眺めた。
 椿ちゃんが言っていたとおり、火薬の匂いは凄いし、なんなら煙も酷かった。
 花火が連続して上がると、煙でその半分は見えなくなるほどだ。

「毎年派手になるなー……お金持ってるんだな、髪振町……」
 父は煙草を吸うのをやめ、花火を見上げて苦笑していた。

「お父さんの燈籠……私、見つけたよ」
 私が報告すると、苦笑いが本当の笑顔になる。

「お、そうか? でもよくわかったな……名前なんて入れてないのに……」
「え? そうだった?」

 確かに私は、絵に記された父の名前を確かめたわけではなかった。
 でも一目見た瞬間から、あれが父の絵だとわかってしまったのだから、確認の作業など必要なかった。

「あれってこの庭だよね?」
 訊ねると、父は照れくさそうに頬を指で掻く。

「やっぱり、知ってる奴にはわかるな……もっとデフォルメしとくんだったかな……」
 恥ずかしそうにため息を吐く父に、私は更に問いかける。

「じゃあ……あれって私?」
 父は照れもごまかしもせず、まっすぐに私を見つめて頷いた。
「まあな……」

「そっか……」
 逆に私のほうが照れてしまう。
 
 誠さんも椿ちゃんの絵を描いていたが、身近な人を描くというのはどういう気持ちなのだろう。
 私自身は、風景や静物の絵しか描かないので、父や誠さんにぜひ訊いてみたいところだ。

 二人の話を父としてみたくて、私は慎重に言葉を選びながら、父に話した。
「私、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会ったよ。お父さんが描いたような夢の中で……」

 実際の私の感覚としては、二人との邂逅は夢よりもっとリアルなものだったが、あの不思議な体験を語るには、『夢』で片づけるしかないだろうという結論に至ったのだった。

「お祖父ちゃんは、すごく絵がうまくて、手先も器用な穏やかな人で、お祖母ちゃんのことが大好きだった……お祖母ちゃんは、泣いたり笑ったり忙しくて、でもそんなところがとっても可愛くて、やっぱりお祖父ちゃんのことが大好きだった……」

「おお! 当たってる!」
 父は手を叩いて笑いながら、私の顔を見た。

「でも和奏……あの燈籠の絵は、夢じゃなくて、現実なんだよ……」
「え……?」

 驚いて目を瞬かせる私に、父は思いもよらない話をしてくれる。
「和奏が五歳の夏だったかな……この町へ家族で帰省して、この家に泊ったんだ。その時の絵だ。あの頃はもうすでに俺は本家に出入り禁止だったから、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんもわざわざ、本家からここへ泊まりに来てくれて……」
「本家?」

 首を傾げる私に、父は頷いた。
「ああ、『成宮家本家』。お前がこの間ちらりと聞いた『成宮』だよ……俺の実家……」
 やはりそうだったのだと、私も父へ頷き返した。

「お前が友だちになったっていう『成宮』のお嬢さんから、どこまで聞いてるかは知らないが……家督を継ぐことを放棄して、『成宮』と決別した叔父さんというのがいたとしたら、それが俺だ……『成宮』は、今はあの子の母親――俺の姉貴が継いでいる」
「そう……なんだ……」

 ここで私はとても重要なことに気がついた。
 父は、私が友だちになった『成宮のお嬢さん』を、今現在あのお屋敷で暮らしているらしい女の子のことだと持っているようだが、それは違う。
 私が友だちになったのは、『うてな』でこことは違う世界へ迷いこんで出会った、椿ちゃん――父の母だ。

 しかしそのまちがいを正すには、もういったいどこから説明しなければならないのかわからなくなるほど複雑で、その上そんな突拍子もない話を、信じてもらえる自信もない。
 ここは異を唱えず、とりあえず父と話を合わせておくことを選ぶ。

「特には、聞いてないけど……」
「そうか……」
 
 父は大きく息を吐き、椅子の背もたれに深く背中を預けた。
 花火を見上げ、その音に時々声をかき消されながら、話をしてくれる。

「俺と姉貴の上には兄貴がいて、『成宮』は当然その兄貴が継ぐものだと、周りも本人もまったく疑ってなかった。子供の頃から、俺たちとは別に英才教育を受けて、お前のお祖母ちゃんのお父さん――和奏から見たらひいお祖父ちゃんだな……その人から帝王学を叩きこまれて……頭のいい、優しい兄貴だったけど、まだ若いうちに亡くなったんだ……」

 父の家族の話など、これまで一度も聞いたことがなく、私は驚きの思いで目を見開く。
「そう……なの……」

「ああ。当然次は、次男の俺がって話になったけど、その頃にはもう俺はこの町にいなくて、和奏も生まれたばかりで、ここへ帰るっていう選択肢は選べなかった……それで姉貴が「だったら私が!」って継いだんだ。昔からしっかり者だし、人づきあいはいいし、却って和奏のひいお祖父ちゃんの代より、『成宮』は町への影響力と人脈を広げてるかもしれないな……」
「そうなんだ……」

 父の話によれば、あの椿ちゃんのお父さんから、椿ちゃんの娘に当たる人が家督を継いだということになる。
 だとすれば、椿ちゃんと誠さんはいったいどうしたのだろうと、私は不安になった。

「私のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは……?」
 父は「ああ」と頷き、二人について教えてくれた。

「もともと俺を生んだあとからお祖母ちゃんは病気がちだったけど、兄貴が亡くなってからめっきり体を壊して……お祖父ちゃんと二人でこの家へ通うのが楽しみの、晩年だったな……」
「そっか……」

 その老後は、あれほど元気な椿ちゃんからは想像がつかないが、年をとっても誠さんと仲良しだったふうなのには、少し安心した。

「和奏が小学校へ上がる頃、もう長くはないと医者から診断されて、この家に引きこむことを決めたから、俺も最後の親孝行と思って一緒に住むことにした。そのせいで和奏には寂しい思いをさせることになったけど……悪かったな」
「ううん。あの時は寂しかったけど……今はもう大丈夫だから……」

 父が母と別れてこの町へ帰ってきたのにはそういう理由があったのかと、私は驚くばかりだった。
「お母さんと私もここへ連れて帰ろうとは思わなかったの?」

 訊ねてみると、とても驚いた顔をされる。
「冴子……いや、お母さんを? 無理だろ。あの仕事人間には……」

 酷い言い分の中にも、気心の知れた気安さが垣間見え、私は嬉しかった。
「そんなこと言うと怒られるよ」

「和奏が言わなきゃわからないだろ……まさか俺を裏切るつもりか?」
「大丈夫、大丈夫」
「本当かぁ……?」
 疑うように私の顔を見ながらも、父の目は笑っている。

「実際、東京生まれ東京育ちのバリバリのキャリアウーマンに、一緒に田舎へ帰ってくれとは言えないだろう……」
 少し未練を残したふうのぼやきには、私は何も答えなかった。

「その代わり、和奏を呼び寄せることには成功したからな」
 得意そうに胸を張る父は、私を横目に見る。

「どういうこと?」
 私は首を傾げる。

「お前が小さな頃にこの町を好きだったとわかってて、いかにも好きそうな風景の写真を送り続けた……こう見えて頭脳犯なんだよ、俺は。今頃、冴子が悔しがってるかもしれないな……」
 どこまでも天狗になりそうな父には悪いが、私はこのあたりで一度、釘を刺しておくことにした。

「それ、お母さんはわかってたと思うよ?」
「え?」

 意外そうに目を見開く父に、私は事実を告げる。
「お父さんが送ってくれた写真。いつでも私が見れるように、コルクボードに貼ってリビングに飾ってくれてたのはお母さんだもの……」

「……な! コルクボード? そんなの俺のパクリじゃないか!」
「どっちが先かは私にはわからないけど……お父さんの仕事部屋でコルクボードを見た時、今は他人でも『元夫婦』ってやっぱりすごいなーって、私、感心したよ」
 心から褒めているというのに、父の機嫌は直らない。

「なんだよ……じゃあやっぱり冴子のてのひらの上で転がされてただけかよ……」
 しょんぼりしてしまった父に、私は問いかける。

「でも今私はここにいるんだから、お父さんの『作戦勝ち』には違いないんでしょ?」
 父はにやりと、唇の端を歪めて笑った。
「まあな……」

 ふんぞり返った格好で椅子に座っていたので、少し眠けが出てきたのかもしれない。
 花火はまだバンバンと賑やかに頭上で鳴り響いているというのに、父の目はとろんと閉じ始める。

「でも一番大切なのは、お前自身がどうしたいのか、だからな……」
 少しトーンの下がった父の声に、私は「うん」と頷く。

「どこで生きていくのでも、何をするのでも、お前の好きなようにすればいい。俺は……冴子も、それを全力でバックアップするだけだ」
「うん!」

 父の言葉は、椿ちゃんと誠さんから、実際に父自身が言われた言葉なのかもしれないし、兄弟の死などの半生を経て、この自然豊かな土地でたどり着いた答えなのかもしれない。

 いつか私も、自分の子どもに、そういう言葉を伝えられる親になれたらと、私は微かな憧れを胸に抱いた。
 月が変わり、八月になると、山の中腹に位置する父の仕事小屋兼住居でも、さすがに暑さを実感するようになった。
「暑い……」

 縁側にだらしなく伸びている私を、ハナちゃんは情けないと笑う。
「私の若い頃は、暑さなんて気合いで吹き飛ばしちょったけえ……いつでも着物をぴしっと着ちょったけえ……!」
「確かに……」

 若かりし頃のハナちゃん――百合さんの着物姿を思い返しながら、私は彼女が持ってきてくれたアイスキャンディーを舐める。

「お父さんにも、持っていってあげてねぇ」
 そう言い残して帰っていったハナちゃんに従い、私は残りの五本のうち四本を台所の冷凍庫へ入れ、あと一本を持って、父の仕事小屋へ向かった。

 途中、現在稼働中らしい焼きものの窯が、あり得ないほどの熱を発している。
「暑い! 熱い!」

 私はそこから逃げるように、父が作業場として使っている部屋の扉を開けた。
「お父さーん。アイス食べるー? って……わあっ!」

 中から一気に流れ出してきた熱気に、思わずのけ反ってしまった。
 父の作業部屋は、もともと祖父が絵を描いていたアトリエで、外の景色がよく見えるよう窓が多く設けられていたが、父がそれを改造して、いっそう増やしていた。

 焼きものを乾燥させる時や、絵付けのあと部屋の空気を入れ替える時などに、窓を開けることが多いからで、「窓さえ開けておけば夏でも涼しい」と父は自慢していたが、その窓を閉めきっているとなると話にならない。
 ガラスが多いぶん室内温度が上がりやすく、かえって自殺行為だ。

「ちょっとお父さん! 生きてる!?」
 私が慌てて父のいる部屋の左奥へ踏みこむと、机代わりのテーブルの上に上半身を乗せ、完全に伸びている父の姿があった。

「生きてる、生きてるって……あれ? なんで冴子がここにいるんだ?」
「私がお母さんに見えるくらい、完全に参っちゃってるじゃない!」
 私は持ってきたアイスキャンディーを袋ごと、父の顔に押しつけた。



 夕刻、ようやく起き上がれるようになった父と、少し早めの夕食を食卓で囲んだ。
 脱水しかけたのだから、水分を多めにとったほうがいいだろうと、ハナちゃんが持ってきてくれた夏野菜を中心に、今日のメインは冷しゃぶにした。

 軽く湯通しして薄く切った茄子や糸瓜を、同じように薄切りにした胡瓜と一緒に酢味噌で食べると、とても美味しいということを、私は父のところへ来てハナちゃんから学んだ。

 細かく切ったオクラにだし醤油をかけて、飽きることなく混ぜ続けている父は、時々思い出したかのようにそれをすする。

「いやぁ、あの時、和奏が来てくれて本当によかった……そうじゃないと脱水で死ぬか。軽くても熱中症で病院へ運ばれるところだった……」
「本当にそうだよ! どうしてあの暑い中、窓も開けないで仕事してるの?」

 硬めに炊いた玄米入りのご飯に、ハナちゃんが山で掘ったという自然薯をすりおろしてかけて、モリモリ食べる私の真似をし、父もオクラをご飯にかける。

「実はあの部屋。エアコンがついてるんだ……」
「ええっ?」
 思いもかけない返答に、私は目を見開いて父の顔を凝視した。

「今年もついに使う日が来たかと思って、窓を閉めきってスイッチを入れて、効き始めるのを今か今かと待っていたら、いつの間にか……」
「意識が朦朧としてきて、そこに私が踏み入ってきたってわけね?」
「ああ……だから本当に、和奏は命の恩人だ。ありがとう!」
「…………どういたしまして」
 始めのうち私をお母さんと見まちがえていたとは、教えずにおいてあげた。



「だけど実際、これからもっと暑い日があるかもしれないことを考えると、いくら山の中でも、扇風機だけっていうのは、少し心配だよね……」
 私と父の間で、懸命に首を振り続けている扇風機のことを見ながら言うと、父も頷く。

「ああ……それにも関連して、一つ提案があるんだが……」
「何?」
 ご飯をほおばりながら視線を上向けた私に、父は少しいたずらっぽくにやりと笑った。

「これからも俺とこの家で暮らすなら、自分の部屋がほしくないか? 和奏」
「ほしい! それはもちろんほしいよ!」
 私は猛烈な勢いで父の話に食いついた。

 古い日本家屋によくある造りの、縁側に面した六畳二間と、その北側に寝室と台所と水回りが集中するこの家は、襖で仕切ればそれぞれが独立した部屋になるとはいえ、普段はそれを開けたままの、実質2DKだ。

 しかもそのうち寝室は、もともと父が自分の部屋として使っていたので、私は床の間のある部屋に布団を敷いて、毎日それを上げ下ろししている。
 どうしてもベッドがいいわけではないが、せめて自分の荷物を置いておける私室はほしかった。

「どうするの? お家を建て替えるの?」
 夢に胸を膨らます私に、父はため息を吐く。
「そこまでのお金はないよ」
「そうよね……」

 父の仕事がどれだけの収入になっているのか、実際のところを私は知らないが、あまりお金を使わず、質素倹約を心がけていることは確かだ。

「じゃあどうするの?」
 問いかけた私に、父はまたにやりと笑ってみせた。

「自分でリフォームする。まあ仕事の合間を縫ってだから、何年計画になるかわからないがな」
「え……すごいじゃない」

 最近は古い古民家を買って、リフォームするのが流行っているし、リノベーションしたアパートに借り手が殺到するなどの例もある。
 ものを作ることが仕事の父ならば、おそらく細部にこだわって、他にはないリフォームをするのではないかと、それはそれでわくわくした。

「いいよ、いいよ。がんばって」
 応援する私に、父は呆れたように言う。

「もちろんお前もやるんだよ、和奏」
「え? ……私も?」
 それは発想になかったが、考えてみれば自分でやるのも楽しそうではある。

「おおもとは俺がやるけど、何か希望があったらあらかじめ言ってくれ。洗面所とは別のパウダールームがほしいなんて、後で言うなよ」
「え? なにそれ? ほしい! ほしい!」
 叫ぶ私に、父は床に無造作に積まれたインテリア雑誌を指した。

「お前の部屋の内装は、お前に任せるから……いろいろと見て勉強して、考えてみろ。絵に描いてたりしてたら、夏休みなんてあっという間に終わるぞ」
「うん、そうだね」

 せっかくできたと思った友だちの椿ちゃんとも、あれきり会えなくなり、私がやっぱり暇を持て余していることは、どうやら父には伝わっていたようだ。
 夏全部をつぎこんでも終わりそうにない課題を出されて、私は面倒だと思う気持ちよりも、ありがたいと思う気持ちのほうが大きかった。

「ありがとう、お父さん」
 お礼を言ってご飯を口の中にかきこむと、父も同じ動きをする。
「おう……」
 あまり父と娘らしいとは言えないが、それは私たちにとっては心地いい距離感だった。
 夏祭りのあとも、私は何度か夕暮れ時に『うてな』へ行ってみようとした。
 しかしそれはできなかった。
 父の仕事小屋の敷地の最奥からあの場所へ通じていた道は、この世界では存在しなかった。
 細い道があったはずの場所は硬い岩盤の地層で、そこを使うことを私は断念した。

 上之社の大岩の裏から続いている道も、私はいくら捜しても発見することはできなかった。
 もともとこちらからあの道を通ったことは、私にはなく、『うてな』からの帰り道としてしか使ったことはなかったので、そういうものなのだと割り切ることにする。

 残る一つは――。

 上之社の展望台の落下防止柵を乗り越え、その先の崖から落ちることだが、過去二度その方法で『うてな』へ行った時、助かったことを私は確実だとは思っていない。
 あそこはとても狭い場所だし、運よく落ちた感覚だった。
 野生の動物たちもよく足を滑らせて、麓に死体が転がっていると椿ちゃんも語っていた。 
 それは彼女の生きる世界での話ではあるだろうが、そこまでのリスクを冒して、あの場所へ行かなければならないような状況もない。

(だから……もう椿ちゃんとは会えないなぁ…)
 そう思うと寂しくもあったが、ひと夏の楽しい思い出だったのだと、考えることもできた。
 椿ちゃんと誠さんがお互いの想いを伝えあい、私の生きる世界が、父の存在するこの世界へと戻った時、私の事故の知らせを聞いた母と長倉さんが、車でこの町まで来た事実はなくなったようだった。

 それなのに夏祭りのあの日、私が事故に遭ったくらいの時間に、珍しく母から、スマホに着信が入っていた。
『あの山の中じゃ、電波なんて全然立たないんだろうけど……たまには麓のどっか通信環境のいいところで、連絡ぐらいしなさいよ』

 留守録に残っていたのは短いメッセージだったが、それから私は麓の商店に買いものに行くたび、母に電話をしてみることにしている。
 母は仕事が忙しいので、応答しないことがほとんどだが、何でもない近況を留守録に残すのは、お互いの習慣にした。

 それを聞いた父は「とてもいい習慣だ」と余裕の笑みを浮かべている。

 今日も麓へ下りたついでに、母へメッセージを送っていると、父に呼ばれた。
「おーい和奏、行くぞー」

 珍しく黒いスーツに身を包み、黒いネクタイまで締めた父を、私は急いで追いかける。
「待って!」

 追いついて隣に並び、自分の格好を再確認した。
「本当にこれでよかったのかな……?」

 私も黒のブラウスに黒のスカートを穿いているが、運よくその色があったのを強引に組み合わせだけのものだ。
「いいだろう、黒なら……法事の会場に入るんじゃないし、墓参りして帰るだけだし……」

「うん……」
 スカートが短くないだろうかと裾をひっぱりながら、私は父の隣を歩き続けた。
「今日、親父とお袋の合同年忌があるらしいから、俺たちもこれから墓参りだけ行くぞ」
 父に突然そう告げられたのは、向かいあって遅めの朝ご飯を食べている時だった。

「うん、わかった……って、ええっっ!?」
 あまり深く考えないで頷きかけ、私が大きな声を発してしまったのは、「出かけるぞ」「はい」で済むほど、十七歳の女の子の外出の支度は簡単に済まないからだ。

「どうして昨日のうちに言ってくれないの? せめて朝早い時間とか……」
 ぶつぶつと文句を言いながらも、急いでご飯を食べる私に、父は悪びれもしない。

「俺だって今聞いたからな、ハナさんに……」
 縁側に座ったハナちゃんは、私たちに笑顔でひらひらと手を振ってみせた。

「悪いのは、ご両親の命日を覚えていない親不孝な息子じゃ」
「確かに」
 ハナちゃんの意見に賛成して、私は父に訊ねる。

「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんって、同じくらいに亡くなったの?」
「ああ、お袋が亡くなってすぐ、あとを追うように親父も亡くなったから、一か月違いくらいかな」
「それってなんかすごいね」
「まあな。最後まで本当の仲のいい夫婦だったよ」

 一度も会ったことのない祖父母のエピソードとして、普通に聞いても思わず頬が緩んでしまいそうだが、私は二人を直接に知っているので、尚更感慨深い。
(そうか……幸せだったんだなぁ、椿ちゃん……本当によかった……)

 気持ちは彼女の人生に馳せながらも、私はしっかりと朝ご飯を食べ続けた。
(おかげで夕方までお腹が減りそうにはないけど……かえって気持ち悪い……)
 私は右手でお腹をさすりながら、左手では花束を抱えている。
 椿ちゃんと誠さんのお墓に供えるためのお花だった。

 父は右手に、水桶を下げている。
 お墓を掃除して水で清め、新しい花を飾ってから、線香を備えるのがひととおりの墓参りの作法であると、私も何かのテレビ番組で見たことはあったが、実際におこなうのはこれが初めてだ。

 父の両親である椿ちゃんと誠さんのお墓は、今日お参りするのが初めてだし、母の両親はまだ健在で、大都会の真ん中で元気に暮らしている。

 どきどきしながら墓地を進んでいると、正面から私と同じくらいの年齢の女の子が歩いてきた。
「え……」
 私が思わず歩みを止めてしまったのは、それがどこからどう見ても椿ちゃんにしか見えかったからだ。
 背中まである真っ黒なストレートの髪も、白い頬も、大きな瞳も、彼女は椿ちゃんそのものにしか見えなかった。
(椿ちゃん……?)

 穴の開くほど見つめ続ける私の視線に気がついたのか、その子もふとこちらへ目を向ける。
(目があっても椿ちゃんにしか見えない!)

 心の中で叫ぶ私を余所に、隣で父が呑気な声を発した。
「あれ? 時間をずらしたつもりだったのに……かちあったか?」

 私のことはただじっと見ていた女の子が父に視線を移すと表情を厳しくする。
「和奏、ほら。お前のお友だちだろ? 『成宮』の(みやび)……」
「雅……ちゃん……?」
 私はその名前を噛みしめながら、改めて彼女へ視線を向けた。

 私とは違いちゃんとした黒の喪服のワンピースを着た彼女は、まるで日本人形のように可愛らしい。
 かなりの小柄だった椿ちゃんより、少しだけ背は高いようだが、その他は何も変わらない。
 まるで型で抜いたかのように、顏も体型も椿ちゃんにそっくりだ。

「話して来ていいぞ」
 父が肘でつつくので、私は花束を父に押しつけ、彼女へ向かって歩き始めた。

(えーっと……雅ちゃん……雅ちゃん……)
 まちがえて『椿ちゃん』と呼びかけてしまわないように、何度も声に出さず練習した。

 もともと二学期が始まったら、私は同じ聖鐘女学院の二年生だという彼女を即座に探し出し、とあるお願いをするつもりだった。
 それが予定より半月ほど早まったと思えば、かえって好都合だ。

(授業の進み具合を学校が始まる前に教えてもらえるかもしれないし、椿ちゃんみたいに遊びにも誘ってもらえるかもしれないし)
 期待する気持ちが大きすぎて、私はすごい勢いで彼女の前へ迫ってしまったかもしれない。

「な、なに……?」
 声まで椿ちゃんにそっくりな雅ちゃんは、私の迫力に怯んで後退りした。

「雅ちゃん! ちょっと来て!」
 私は彼女の腕を掴み、彼女が今歩いてきたほうへ少し戻る。
 父から距離を置かなければと思ったのだったが、彼女は抵抗することもなく私についてきた。

 突き当りのお墓の前で、私は彼女の腕を放し、父からは見えないように背を向けて、顏の前で両手をあわせる。
「成宮雅ちゃん! どうか私とお友だちになってください!」
「え……?」

 父との『成宮のお嬢さん』の認識の差を埋めるため、私は現在の『成宮のお嬢さん』である雅ちゃんに会ったら、真っ先にこれを頼むと以前から決めていた。

 そんな私の決意など知るはずもない雅ちゃんは、とても怪訝な目をする。
「あなたは……誰?」
 どうやら外見は椿ちゃんにそっくりでも、中身のほうはかなり違っているようだ。
 どちらかといえば行動派だった椿ちゃんとは逆に、雅ちゃんは慎重派のようだと私は脳裏に刻んだ。

 なるべく彼女の警戒を解くように、懸命に言葉を連ねる。
「私は和奏! 青井和奏! 二学期から聖鐘女学院の二年に転入するんだけど……どうしてもあなたと友だちになりたいの!」
「私と……友だちに……?」

 ようやく私の訴えを理解してくれた雅ちゃんは、表情を緩め、それから花が色づくようにぱあっと、真っ赤に頬を染めた。
(うわぁ……)

 女同士の私から見ても、その照れ方は尋常ではなく可愛らしく、つられて私まで頬が熱くなる。
(表情がくるくる変わって可愛かった椿ちゃんとはまったく違うけど……これはこれで、雅ちゃんもとっても可愛い!)

 恥ずかしそうに頬を片手で押さえ、俯いた雅ちゃんは、私にそっと反対の手をさし出す。
「私でよければ……」

 その手をすかさず両手で握り、私は上下に大きくぶんぶんと振った。
「ありがとう! 本当にありがとう!」

 これで父に嘘を吐いたり、ごまかしたりしなくて済むという安堵の思いより、大人しくて控えめそうだがとっても可愛い雅ちゃんと友だちになると約束した喜びのほうが、私の中では完全に勝っていた。

『よかったね、和奏ちゃん』
『仲良くね、雅』

 風に乗ってどこからか、椿ちゃんと誠さんの声が聞こえた気がした。
 よく見れば、すぐ目の前にあるのは、二人が眠る『成宮』家の立派な墓標。

「おおーい、もう俺も行ってもいいかー?」
 大きな声で呼びかけてくる父も到着したら、これまでお参りできなかったぶんも綺麗に掃除して、たくさん椿ちゃんと誠さんと話をしようと私は心に決めていた。

(これからもきっと、話したいことはどんどんたまるだろうから……たびたび話しに来るね!)
 隣に立つ雅ちゃんと顔を見あわせて笑う私に、椿ちゃんが声援を送ってくれたような気がした。

『がんばれ和奏! 私はいつだって見守っているよ!』

 気温はとても高いのに、頬を撫でる風は爽やかな――八月の昼前の空耳だった。
 

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