その慶のいる花屋に閉店の間際になって、誰かがたたずんでいるのが見えた。
「すんまへん、今日しまいなんですわあ」
苗の入ったトレーを慶は持ち上げた。
視線を上げると、目の前にロリータ姿をした萌々子がいる。
「あ、萌々子ちゃん。おかえり」
悪いけど今日は棚卸しあんねん、と慶はいった。
「ううん、ちょっと寄り道しただけ」
「ほんならえぇけど、暗いから気ぃつけや」
「ありがと」
「あ、それと」
「?」
「その洋服。お人形さんみたいで、よう似合ってるで」
いつの間にか慶は、萌々子のファッションを見ていたらしい。
萌々子は慶のちょっとしたそういう一言が嬉しかったのか、いつもの坂道が楽しく感じられたのであった。