そのころ。
慶のいる花屋では、新たに入った三寸鉢のシクラメンが慶の手によって綺麗に並べられている。
すると…。
慶はそのうちの一鉢を取り出し、100円ショップで買った漆塗りの升に水抜きの穴を開け、升へ植え込んでディスプレイをあっという間に完成させてしまったのである。
「雰囲気、これだけでも変わるやろ」
どうやら慶のこうした技は、鶴見の店のとき身に付いたらしい。
事実、このディスプレイで売り上げを伸ばしたのが、鎌倉の系列店に派遣されたきっかけでもある。
これが和風のカフェやレストランが多数ある鎌倉では、
──意外と店のイメージに合う。
というので買ってゆくオーナーやマスターがあって、三度めの冬になった今年も受けて、今では尼寺や茶道教室から発注もある。