年度が新しくなった。
高校を卒業した萌々子は、横浜の服飾の専門学校へと通い始め、ほぼ毎日ゴスロリ服で坂を降りてくる。
「おはよう」
「お慶さんおはよう」
立ち止まって萌々子が慶に挨拶する、この風景だけは前と変わらない。
鶴岡八幡宮の段葛の染井吉野が散って青葉に変わり始めた頃、
「海に行きたい」
萌々子は慶に、おねだりをしてみた。
慶は最初、
──鎌高の電停から見えるやん。
とツッコミを入れたが、
「鎌倉と違うところから、海が見たい」
と萌々子はわがままをいうのである。
「由比ヶ浜や材木座やとあかんの?」
「高校時代の友達とか顔見知りとかに見られたくないし…」
そうしたものかもしれない。