「…何かさ、浮気の現場に遭遇しただけでうろたえてた私はなんなんだろって」
「うーん」
慶は返答に窮した。
「私さ、お慶さんみたいに本気で恋したことないかも」
「えっ…?」
「今までなんとなく付き合って、なんとなく別れて…今の彼氏もそんな感じだったんだけど、少なくとも私が今好きなのは、今の彼氏じゃないってことだけは、ハッキリしたかな」
「さよか…ほんなら」
きっちりけじめだけはつけといたほうがえぇで…と、ようやくいつもの飾り気のない慶の口調に戻った。
「うん」
萌々子は腰をあげた。
「お慶さん」
「?」
「いろいろ聞かせてくれてありがとうね」
萌々子は近づきざま、慶の唇をみずからの唇でふさいだ。
驚く慶を尻目に、萌々子はすべり込んできた緑色の車両に飛び乗った。
ドア越しに萌々子が手を振る。
またね、と唇が動いた。
「…おぅ」
戸惑いながら、慶はいつもの手をあげる会釈で応じ、この日は別れた。