慶の姓は珍しい。 實平(さねひら)、と読む。 慶がなぜ関西弁なのか萌々子は分からなかったが、慶のいる花屋によく立ち寄る祖母の操の話では、 ──大阪の大学を出てから関東に来た。 ということで、それだけは確かな消息らしい。 そもそも。 過去のことを、あまり慶は詳しくいわない。 聞き出そうとすると、 「あれこれ話したかて構わんけど、三分で五百円もらうで」 とおどけ、最終的にはうまいこと笑わせて、はぐらかしてしまうのである。