春が近づいてきた。
花屋の近くにあった早咲きの河津桜の樹は、満開になりつつある。
萌々子が坂をおりてきた。
店に慶はいない。
「なんかね、お慶ちゃん今日どうしても休みたいって」
店長の星野美沙はいった。
「前から予定入れてたみたい」
お墓参りがあるとかって話してた、と星野美沙はいった。
(…この時期に?)
まだ彼岸でもないのに、である。
「それじゃ」
萌々子は行こうと頭を下げた。
「ねえ」
星野美沙が呼び止めた。
「萌々子ちゃんさ、もしかするとお慶ちゃんのこと…好きなんじゃない?」
「えっ?!」
萌々子は目を向いて驚いた。
「だってさ…お慶ちゃんのいない日って萌々子ちゃん、ちょっとそそくさしてるもん」
確かに言われてみればその通りではある。
「でも私、彼いますし」
「けどこないだお慶ちゃんに彼氏のことで相談してなかった?」
萌々子はビクッとした。