「私も前にお酒の席で一緒だった社長さんから聞いた程度だけどね」
操はいった。
「昔からですけど社長さんってたいがい、坂本龍馬か織田信長が好きやったりしますもんねえ」
「男の人ってそれだけ単純なのかもしれないわね」
お慶ちゃんを目の前にしていうことじゃないけど、と操はいった。
「男はみんなスケベな生き物で、女に自分のものを嵌めたいって考えだけで生きてるのばっかりだから、女はそこをうまく利用してゆかなきゃ、泣きを見るのはこっちなんだし」
慶は力なくムハハ、と笑いながら膳を平らげた。
「おかみさん大変ご馳走になりました」
どちらへさげましょうか、と慶は訊いた。
「お客さんをこき使うほど私ゃ野暮じゃないよ」
そのあと出されたお茶で少し話していたが、
「遅いんで、この辺で」
慶が外へ出ると、見送りに出た萌々子は、
「今日はありがと」
「…彼氏さんとなんかあったんか?」
「うぅん」
なんもなかったよ、と萌々子はいった。
「ほんならえぇけど」
じゃあな、と慶はバイクに乗った。
次第に小さくなる真っ赤なテールランプを見ながら、萌々子は鼻の奥がつんとなった。