鎌倉の町にすれば、珍しい雪である。
(なんでこんなときに、雪なんか降るかなあ…)
その日の江ノ島電鉄は雪でダイヤは遅れ気味で、腕時計を見ながら制服にコート姿の萌々子は、藤沢行の電車が来るのを、泣きそうな顔をしながら待っている。
そこへ。
シャリシャリ、と何か金属めいた音が近づいてきた。
「おーい、萌々子ちゃんやないか!…何や、電車来ぇへんのか?」
振り向くと、少し雪をかぶったバイクに、近所の花屋で修業している慶がまたがっている。
どうやらさっきの音は、タイヤに巻いたチェーンの音らしい。
「そのままやったら高校遅れてまうやろ。──せや、おれが送ったる」
「でも…」
「んな、でももヘッタクレもあれへんやろ!」
仕方なく萌々子は慶の後に乗った。
「確か自分、高校は石川町やったな?」
ヘルメットのまま萌々子は頷く。
「よっしゃ、ほんならしっかりつかまっときや!」
スロットルを慶はフルにした。