***
「はい、タオル」
「ありがと秋くん」
宣言通り一日中イチャイチャした翌朝も、私達は朝七時にはちゃんと起きる。
目覚めてから少しだけイチャイチャして、ベッドから出たあとは並んで顔を洗う。
タオルで顔を拭きながら横を見ると、今日も寝癖の間から大きな角が見える。
「なんか最近、朝は頭が少し痛いんだよな」
「低血圧なんじゃない? それか、頭の角のせいかな?」
「あーそれかも」
寝ぼけ眼を擦りながら、秋くんはあくびをこぼす。
「……え?」
だが次の瞬間、彼はものの見事に固まっていた。
「そうだ、私今日はエッグベネディクトが食べたいな」
「え?」
「エッグベネディクト。あの、卵の奴」
「え?」
「あれ、秋くん覚えてない? この前カフェで食べたじゃない」
でもややこしい名前だし、すぐ思い出せないのかもしれない。
そう気づいてエッグベネディクトの画像をスマホで検索していると、そこでがしっと肩を掴まれた。
「い、いつ……?」
「ん? 食べたのは先週」
「違う、あ、あたま……」
「ああそっち? 大分前だよ?」
一ヶ月くらい前かなと言いながら、私はついに画像を見つけ出す。
「ほらこれ、この前カフェで食べたでしょ?」
だから作ってと微笑んだ瞬間、何故だか秋くんが私を強く抱きしめた。
「環奈」
「ん?」
「結婚して」
「いやもう結婚して9年目だよ私達」
それどころかもうすぐ10年目だと笑いながら、私はあっと声を上げた。
「せっかくの節目だし、結婚記念日は美味しいもの食べに行こうね」
顔の側で「うん」と震える声が返事をしながら、秋くんは私を抱き締めたまま固まっている。
腕を離したら最後、私が消えるとでも思っていそうな様子だ。
だから私は腕を伸ばし、彼の頭と大きな角を優しく撫でた。
「あ、触るとまずい?」
「いや、環奈にそうされると死ぬほど嬉しい」
「でも死んじゃ駄目だよ?」
私が笑うと、秋くんがこくんと頷く。
その仕草があまりに可愛くて、私の胸が甘く跳ねる。
「角が生えてても、ずっと一緒にいてくれるか?」
耳元で囁かれた質問に、私は小さく笑った。
「いるよ」
「でもツノだぞ」
「ツノ、嫌いなの?」
「嫌いだった。これのせいで、環奈がいつか離れて行ってしまう気がして……」
いっそ折ってしまいたかったと言う秋くんを、私はもう一度よしよしと撫でる。
「せっかく格好いいツノなんだから、折ったら勿体ないよ」
「環奈が言うなら、もうしない」
「もうってことは、一度したんだ」
「やったけどすぐまた生えたし、心なしかツノも大きくなった気がする」
あと痛かったとこぼす秋くんを「痛い事はしちゃ駄目だよ」と私は叱る。
「どんな姿でも、私は秋くんが大好きだから心配しないで」
結婚して9年経っても、人間じゃなくても、今もラブラブな毎日を送れるのは秋くんが愛おしいからだと、大きな体を抱き締めながら私は改めて思う。
だからきっと、私達は周囲に羨ましがられる仲のまま、死ぬまで夫婦を続けるのだろう。
そんなことを思いながら、結婚記念日はどこへ行こうかと、私は愛しい夫に問いかけた。
寝起きの夫にツノがある【END】
「はい、タオル」
「ありがと秋くん」
宣言通り一日中イチャイチャした翌朝も、私達は朝七時にはちゃんと起きる。
目覚めてから少しだけイチャイチャして、ベッドから出たあとは並んで顔を洗う。
タオルで顔を拭きながら横を見ると、今日も寝癖の間から大きな角が見える。
「なんか最近、朝は頭が少し痛いんだよな」
「低血圧なんじゃない? それか、頭の角のせいかな?」
「あーそれかも」
寝ぼけ眼を擦りながら、秋くんはあくびをこぼす。
「……え?」
だが次の瞬間、彼はものの見事に固まっていた。
「そうだ、私今日はエッグベネディクトが食べたいな」
「え?」
「エッグベネディクト。あの、卵の奴」
「え?」
「あれ、秋くん覚えてない? この前カフェで食べたじゃない」
でもややこしい名前だし、すぐ思い出せないのかもしれない。
そう気づいてエッグベネディクトの画像をスマホで検索していると、そこでがしっと肩を掴まれた。
「い、いつ……?」
「ん? 食べたのは先週」
「違う、あ、あたま……」
「ああそっち? 大分前だよ?」
一ヶ月くらい前かなと言いながら、私はついに画像を見つけ出す。
「ほらこれ、この前カフェで食べたでしょ?」
だから作ってと微笑んだ瞬間、何故だか秋くんが私を強く抱きしめた。
「環奈」
「ん?」
「結婚して」
「いやもう結婚して9年目だよ私達」
それどころかもうすぐ10年目だと笑いながら、私はあっと声を上げた。
「せっかくの節目だし、結婚記念日は美味しいもの食べに行こうね」
顔の側で「うん」と震える声が返事をしながら、秋くんは私を抱き締めたまま固まっている。
腕を離したら最後、私が消えるとでも思っていそうな様子だ。
だから私は腕を伸ばし、彼の頭と大きな角を優しく撫でた。
「あ、触るとまずい?」
「いや、環奈にそうされると死ぬほど嬉しい」
「でも死んじゃ駄目だよ?」
私が笑うと、秋くんがこくんと頷く。
その仕草があまりに可愛くて、私の胸が甘く跳ねる。
「角が生えてても、ずっと一緒にいてくれるか?」
耳元で囁かれた質問に、私は小さく笑った。
「いるよ」
「でもツノだぞ」
「ツノ、嫌いなの?」
「嫌いだった。これのせいで、環奈がいつか離れて行ってしまう気がして……」
いっそ折ってしまいたかったと言う秋くんを、私はもう一度よしよしと撫でる。
「せっかく格好いいツノなんだから、折ったら勿体ないよ」
「環奈が言うなら、もうしない」
「もうってことは、一度したんだ」
「やったけどすぐまた生えたし、心なしかツノも大きくなった気がする」
あと痛かったとこぼす秋くんを「痛い事はしちゃ駄目だよ」と私は叱る。
「どんな姿でも、私は秋くんが大好きだから心配しないで」
結婚して9年経っても、人間じゃなくても、今もラブラブな毎日を送れるのは秋くんが愛おしいからだと、大きな体を抱き締めながら私は改めて思う。
だからきっと、私達は周囲に羨ましがられる仲のまま、死ぬまで夫婦を続けるのだろう。
そんなことを思いながら、結婚記念日はどこへ行こうかと、私は愛しい夫に問いかけた。
寝起きの夫にツノがある【END】