「環奈のところって、結婚九年目とは思えないほどラブラブだよね」


 夫婦そろった所を見られると、もれなく羨ましがられる順調な結婚生活を、私と夫は送っている。


 私達は幼なじみで、親友で、仕事仲間で、朝起きてから寝るまでほぼずっと一緒にいる生活を送っている。

 でも飽きることはなくて、私は夫の顔を見る度「好きだなぁ」としみじみ思う。

 子供はいないけれど、二人でいれば私達の生活は完璧だったし、この気持ちが変わるとも思っていなかった。

 それが普通でないと言うことは、友人たちがこぼす家族への愚痴を聞く度うっすらわかっていたけれど、別にそこに何か理由があるとは思っていなかった。

 でも最近、もしかしたら普通でないのは夫のせいなのかもしれないと、思う瞬間がある。



「秋くん、また伸びてる」

「伸ばしてるんだよ、ひげが似合う男が好きだって環奈この前言ってただろ?」

 そう言って、夫の『秋人あきひと』こと秋くんは、洗ったばかりの顔を拭きながらひげを撫でる。

 朝起きて、二人で一緒に顔を洗うのは私達の日課だ。

 でもその日課に、不思議な変化が訪れたのは一ヶ月ほど前のことだ。



「どう、似合ってる? 俺渋い?」

「うん、格好いい」



 私が褒めるとデレデレする秋くん。

 彼はとてもイケメンで格好いいけれど、私が格好いいなと思ってしまうのは顔立ちやひげのせいだけではない。


 私が見ているのは、寝癖でうねる髪の中からにょきっと伸びる二本の角だ。

 秋くんは家では和装なので、その姿は完全に鬼である。


 いやたぶん、鬼なのだ。

 角が見えるのは寝起きの時だけだけれど、多分私の夫は人間ではないのである。