俺は当たり前のように更衣室へ入ったのだが……見えたものに心臓が飛び出しそうになった。
 黒髪とワイシャツの後ろ姿は見たことのある人物であったし、この場にあってもおかしくないものだ。
 だがその状態が問題だった。黒髪はさらりと肩まで落ちていたし、ワイシャツの開いた前からはレースの下着が見えていたのだから。
 そして『その子』が息を呑むのが見えた。
「わわわ悪い!」
 バーン!
 俺が乱暴に閉めたドアがでかい音を立てる。俺の叫んだ言葉と同じくらい大きかっただろう。
 そのドアを封じるように背を付けて、はぁ、はぁと息をつく。ただ入ろうとしただけなのに、百メートルも走ったかのように心臓がばくばくしている。
 女子の着替えを見てしまった。
 彼女はいるものの、所詮高校生の身。そういう光景にまだそれほど耐性はない。
 まさかこんなところでラッキースケベに遭遇しようとは。
 いや、……こんなところで?
 俺は、ばっとドアから離れ、表示を見た。そして固まる。
『男子更衣室』
 そこにはきちんとそう書いてあった。てっきり間違って女子更衣室を開けてしまったかと思ったのだが、そんなことはなかったようだ。大体、何十回も入っている更衣室を間違えたりするものか。
「おい、ここ男子更衣室だろ!」
 バーン!
 またドアが大きな音を立てた。勢いのままにそうしてしまったが、もう一度、俺の心臓は跳ね上がった。たとえ表示が『男子更衣室』であろうとも、中にいた人物とその状態はなにも変わっていないに決まっていたので。
 そしてそのとおり。
 『彼女』は今度は驚くだけでは済まなかったようで、真っ赤な顔できっと俺を睨みつけて「戻ってくんなぁ!」と思い切り俺になにかをぶん投げてきて……それは綺麗に俺の額にヒットした。