「優くん、今日はありがとう。とても楽しかった」
「僕も楽しかったよ。ありがとう」
「じゃあ、また明日、部活のときにね」
「うん、また明日」
そう言って僕と加恋ちゃんは、つないでいた手を離した。
そして加恋ちゃんは僕に手を振って前を向いて歩き出した。
そんな加恋ちゃんのことを見つめている、僕。
……加恋ちゃん……。
……嫌だ……。
……嫌だ……行かないで加恋ちゃん……‼
僕は加恋ちゃんのことを追いかけて加恋ちゃんの腕を掴み、そのまま引き寄せて加恋ちゃんのことを抱きしめた。
「……優くん……」
「……加恋ちゃん……」
このまま加恋ちゃんのことを離したくない……‼
「……離れたくない……加恋ちゃん……」
「……優くん……」
「……加恋ちゃんは……?」
「……え……?」
「……加恋ちゃんは……僕と離れていても平気……?」
「……優くん……」
「ねえ……加恋ちゃん……」
答えて……加恋ちゃん……。
「……わたしも……優くんと離れたくない……」
それなら……。
「……僕は……このまま加恋ちゃんのことを連れていってしまいたい……」
このままどこまでも遠くへ……。
「……わたしも、ずっと優くんと一緒にいたい……」
二人だけの……。
「……加恋ちゃん……」
誰もいないところへ……。
「……このまま二人でどこか遠くへ行かない……?」
加恋ちゃんのことを誰も手の届かないところに連れていって僕だけの……加恋ちゃんのことを独り占めしたい……。
「……優くん……」
わかってる……。
そんなことを言ったら、また加恋ちゃんのことを困らせてしまう……。
……でも……。
……でも……止められない……。
……僕は……。
僕は加恋ちゃんと離れたくないんだ……。
「……優くん……」
何も言わないで加恋ちゃん……。
せめて今だけ……。
今だけは、こうしていたい……。
それから加恋ちゃんは何も言わずに、僕の腕の中にい続けてくれた。
しばらくして僕は加恋ちゃんからやさしく離れた。
「……ごめんね、加恋ちゃん……。また加恋ちゃんのことを困らせてしまった……」
「そんなことないよ。優くんの気持ち、とても嬉しかった」
「……加恋ちゃん……」
「わたしも許されるのなら優くんと一緒にどこか遠くへ行ってみたい」
無邪気な笑顔の加恋ちゃん。
僕は加恋ちゃんの気持ちがとても嬉しかった。
「……ありがとう、加恋ちゃん」
本当に本当にありがとう……。
「わたしの方こそありがとう、優くん」
そして僕と加恋ちゃんは顔を見合わせて笑った。
「じゃあ、また明日ね、優くん」
「うん、また明日ね、加恋ちゃん」
加恋ちゃんは僕に手を振って前を向いて歩いて行った。
僕は加恋ちゃんのことを静かに見守った。
初詣
年が明けた。
昨年、加恋ちゃんが転校してきた日に言っていた『来年の今頃は、ここにはいない』の年が来てしまった。
……今年……。
今年……本当に加恋ちゃんはいなくなってしまうのだろうか……。
でも、いなくなるってどういうふうに……?
……転校……?
いなくなるといったら、そういうことしか思いつかない。
それ以外、考えられない。
……というか、考えたくない。
それ以外のことなんか……。
「優くん……?」
……‼
加恋ちゃん……。
「どうしたの? なんか元気がないみたい」
「そ……そんなことないよ。元気いっぱいだよ」
「本当? それならよかった」
「ありがとう、加恋ちゃん」
加恋ちゃんは本当にやさしいな……。
そうだよ、せっかく加恋ちゃんと一緒にいるときに考え込むのはやめよう。
今日、僕と加恋ちゃんは初詣に来ている。
そして加恋ちゃんの隣にいる僕は、加恋ちゃんにメロメロ。
なぜなら加恋ちゃんは着物姿でものすごくかわいいから。
「優くんは何をお願いするか決めた?」
「うん。何をお願いするかは最初から決めてるから」
僕が願うことは、ただ一つ。
「加恋ちゃんは何をお願いするか決めた?」
「うん」
「お互い願いが叶うといいね」
「うん、叶うといいね」
僕と加恋ちゃんはそう言いながら歩いていた。
歩きながら僕は隣にいる加恋ちゃんのことをチラッと見た。
加恋ちゃんは確かに僕の隣にいる。
加恋ちゃんの笑顔。
加恋ちゃんのやさしさ。
加恋ちゃんのぬくもり……。
それは確かに存在している。
それなのに……。
加恋ちゃんが……。
今年、加恋ちゃんが……いなくなってしまうなんて……。
……させない……。
僕が……。
僕が……加恋ちゃんを……。
加恋ちゃんのすべてを……。
絶対になくさせない‼
そして加恋ちゃんとずっとずっと一緒にいる‼
それが僕のたった一つの願いだから……。
神様にお願い事を済ませた僕と加恋ちゃん。
お守りも買ってゆっくりと歩いていた。
ゆっくりと歩きながら僕は加恋ちゃんとカフェに入ってお茶でもしたいと思った。
「加恋ちゃん」
「なぁに、優くん」
「どこかのカフェに入ってお茶でもしない?」
「うん」
加恋ちゃんは笑顔で返事をしてくれた。
僕は、それがとても嬉しかった。
そして少し歩いたところに、かわいらしい店が見つかった。
「加恋ちゃん、ここにしない?」
「うん。かわいいお店だね」
加恋ちゃんは、とても笑顔だった。
そして僕と加恋ちゃんは店の中に入った。
店の中に入った僕と加恋ちゃんは、店員さんに案内されて窓際の席に座った。
席に座った僕は、すぐにメニューの方を見た。
メニューの方を見た僕は、メニューを手にして加恋ちゃんに見せた。
「加恋ちゃんは何飲む?」
僕がそう訊くと、加恋ちゃんはメニューを見た。
「何にしようかな」
加恋ちゃんはそう言うと、メニューを僕にも見せてくれた。
「優くんは何にする?」
加恋ちゃんがそう言いながらメニューを僕に見やすく向けてくれた。
そして僕もメニューを見た。
「何にしようかな」
メニューにはいろいろな飲み物が書いてある。
メニューを見ながら僕も何を飲もうか迷っていた。
僕と加恋ちゃんは何を飲もうか迷いながらメニューを見た。
一つのメニューを僕と加恋ちゃんは顔を近づけながら見ている。
このほのぼのとした感じも、とても幸せに感じる。
こういうささやかな幸せな時間がいつまでも続いてほしい。
ずっとずっと続いてほしい。
…………。
続いてほしいけど……。
…………。
……続くだろうか……。
…………。
……‼
ダメだ‼ ダメだ‼ そんなことを考えては‼
大丈夫。
きっと続く。
きっとこの幸せは続く‼
「優くん?」
……‼
しまった……また僕は考え事をし過ぎて自分の世界に入り込んでしまった。
「ごめん、加恋ちゃん何だった?」
「優くんは何を飲むか決まった?」
そうだった。
今、僕と加恋ちゃんは何を飲むかメニューを見ていたんだった……。
「あ……ちょっと待ってね……。あっ、加恋ちゃんは何を飲むか決まった?」
「うん、オレンジジュースにしようかなと思って」
「そっかぁ……えっと、僕は……」
僕は慌ててメニューを見た。
……って、今までも見ていたつもりだったんだけど、違う世界に入り込んでいたから、いつの間にかメニューを見ていなかった。
そしてなんとか僕も何を飲むのかを決めた。
「僕、ココアにしようかな」
何を飲むのかを決めた僕と加恋ちゃんは、店員さんを呼んで注文を済ませた。